持続化補助金(創業枠)の事業計画書について「記載例をそのまま参考にして書いた」という相談者が、私のところには毎月のように来る。ネット上で公開されている記載例テンプレートは確かに構成がきれいだし、数字の並べ方も整っている。しかし、記載例どおりに書いた申請者の不採択率は、私の肌感覚で7割を超える

なぜか。結論から言えば、記載例には「地元商圏」の実態が入っていないからだ。審査員が見ているのは文章の美しさではなく、その数字が申請者の立地・商圏で実現可能かという1点に尽きる。

理由1:売上計画の「客数×客単価」が地元商圏と乖離している

記載例テンプレートでは、売上計画を「客数×客単価×営業日数」の算式で記載するよう案内されている。問題は、記載例に載っている客数の水準がどこの立地でも通用する汎用的な数字になっていることだ。

たとえば、東北の人口3万人の町で飲食店を創業するなら、半径500メートルの昼間人口を調べるところから始める必要がある。jSTAT MAP(政府統計の地理情報システム)を使えば、メッシュ単位で昼間人口・年齢構成・事業所数が無料で確認できる。

まずは現場を見させてもらってから、と私はいつも言うのだが、実際に候補地の前に立って30分ほど通行量を数えるだけで、記載例の客数想定がいかに現実離れしているかが分かることが多い。

以前、東北の小さな町で開業した30代の女性飲食店主の支援に入ったことがある。前任のコンサルが書いた事業計画は見栄えこそ綺麗だったが、売上前提が地元商圏にしては明らかに過大だった。結果、その事業計画で1000万の補助金を採択されたものの、半年でキャッシュが枯渇し、信金に返済猶予を交渉する事態に。最終的に2年で閉店した。補助金は「採択がゴール」になった瞬間、事業は終わる——この教訓を、私は何度でも伝え続けている。

理由2:競合分析が「業界全体の市場規模」で止まっている

記載例の競合分析セクションには、「○○業界の市場規模はXX兆円」「前年比○%成長」といったマクロデータが載っていることが多い。審査員の立場で言えば、全国の市場規模は申請者の事業とは関係がない

審査員が知りたいのは、「この申請者の半径1キロに同業が何軒あり、それぞれ月商いくらで、申請者はどこのパイを取りに行くのか」だ。

具体的には、以下の3つを事業計画書に盛り込むべきだ。

  • 半径1km以内の同業者リスト(店名・業態・概算月商)——Googleマップの口コミ数や食べログの席数から推計できる
  • 競合との差別化ポイント——価格帯・営業時間・ターゲット層の違いを具体的に記載する
  • 商圏内の「未充足ニーズ」の根拠——商工会さんに聞いてみると、地元のどこに需要ギャップがあるかが見えてくる。商工会の経営指導員は地域の消費動向を肌で知っている

理由3:補助事業の効果測定が「売上○%増」だけで終わっている

記載例では、補助事業の効果を「売上20%増」「新規顧客月10名獲得」のように書く例が多い。しかし、審査員はこの数字の実現プロセスを見ている。

たとえば、チラシを5000枚配って反応率0.3%で月15名の新規来店を見込む——このレベルの具体性が必要だ。さらに言えば、採択後12ヶ月間の月次アクションプラン(設備発注→販促開始→効果測定のタイムライン)を事業計画書に盛り込んでいるかどうかで、審査員の印象はまったく変わる。

補助金はマッチのようなものだ、と私はよく話す。マッチだけでは暖は取れない。薪を用意するのは事業主自身だ。その「薪」にあたるのが、月次で何をやるかを具体的に書き込んだアクションプランだと考えている。

逆に、これをしっかり書いた事例もある。創業40年の商店街のうどん屋の店主から「もう廃業しか」と相談を受けたことがあった。商工会と連名で申請書を書き、改装後の客単価想定を地元データで裏付けた。50万円の持続化補助金が採択され、客単価は850円から1700円に倍増した。店主本人が「補助金で店が変わるんじゃない、店主の覚悟が変わる」と話していたのが印象的だった。

記載例テンプレートの「正しい使い方」

誤解のないように言えば、記載例テンプレート自体は優れた参考資料だ。問題は「書き方のフレーム」として使うべきものを、「数字まで含めてそのまま使う」人が多いことにある。

記載例から学ぶべきは以下の3点だ。

  1. 構成の流れ——「経営状況→課題→補助事業→効果」の論理展開を学ぶ
  2. 記載すべき項目の漏れチェック——公募要領の審査基準と照合し、漏れがないか確認する
  3. 数字の「置き方」——テンプレートの数字は必ず自分の商圏データに置き換える

そして最も大事なのは、骨格メモを自分の言葉で書くことだ。箇条書きでいい。A4一枚に「誰に・何を・いくらで・どうやって届けるか」を自分の言葉で書けない事業計画は、コンサルに丸投げしても通らない。

商工会に行く前に「地元データ」を3つ揃える

記載例テンプレートに頼る前に、まず以下の3つのデータを自分で集めてほしい。

  1. jSTAT MAPの商圏データ——候補地の半径500m〜1kmの昼間人口・世帯数・年齢構成を出力する(無料)
  2. 競合店の実地調査メモ——半径1km以内の同業者を実際に回り、メニュー・価格帯・客入りを記録する
  3. 自分の事業の「骨格メモ」——A4一枚に、ターゲット顧客・提供価値・想定客単価・月間目標客数を書く

この3つを持って商工会に相談に行けば、経営指導員との面談がいきなり具体的なブラッシュアップの場になる。逆に、記載例テンプレートだけを印刷して持っていくと、「まずご自身の事業について教えてください」というところから始まり、結局何も進まないまま面談が終わってしまう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 記載例テンプレートは公式サイトのものを使えば大丈夫ですか?

公式サイトの記載例は構成の参考として優れていますが、数字(客数・売上・競合数など)はすべて仮のものです。自分の立地・商圏に置き換えずにそのまま使うと、審査で「具体性がない」と判断されます。構成のフレームだけ借りて、中身は必ず自分のデータで埋めてください。

Q2. jSTAT MAP以外に地元商圏を調べる方法はありますか?

RESAS(地域経済分析システム)でも自治体単位の産業構造・人口動態が確認できます。また、各自治体の統計情報ページには町丁目別の人口データが公開されていることが多いです。ただし、最も信頼できるのは自分の足で候補地を歩いて通行量を数えることです。信金担当者と先に握っておくのが筋で、その際に信金が持っている地域の経済データを共有してもらえることもあります。

Q3. コンサルに事業計画書の作成を依頼するのは問題ですか?

コンサルの活用自体は問題ありません。ただし、「丸投げ」は危険です。骨格メモを自分で作り、コンサルにはその肉付け・ブラッシュアップを依頼するのがベストです。自分の言葉で事業を語れない事業計画書は、仮に採択されても実行段階で行き詰まります。

Q4. 持続化補助金(創業枠)の審査で最も重視されるポイントは何ですか?

公募要領に明記されている審査項目は「経営状況分析の妥当性」「経営方針・目標と今後のプランの適切性」「補助事業計画の有効性」「積算の透明・適切性」の4点です。このうち不採択に直結しやすいのは「妥当性」と「有効性」で、地元商圏の実態に基づいた数値計画があるかが分かれ目になります。

Q5. 記載例テンプレートを使って採択された人もいるようですが?

採択された方は、テンプレートの「構成」を活用しつつ、中身の数字とストーリーを自分の事業に完全に置き換えています。つまり、見た目は記載例に似ていても、中身はオリジナルです。テンプレートの「型」を使うのは正しい戦略ですが、「数字まで流用する」のが不採択の原因です。

参考文献

  • 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金〈創業型〉公募要領」(令和7年度補正予算事業、2026年1月公開)
  • 総務省統計局「jSTAT MAP」——地域分析に活用できる政府統計の地理情報システム(https://jstatmap.e-stat.go.jp/)
  • 内閣府・経済産業省「RESAS 地域経済分析システム」——産業構造・人口動態の可視化ツール(https://resas.go.jp/)
  • 日本政策金融公庫「創業の手引+」——事業計画書の書き方と資金計画のポイント(2026年版)