「地方に移住して、自分の店を開きたい」──そんな相談が、ここ数年で本当に増えました。東京圏から東北に移住して創業するケースを私も何件かお手伝いしてきましたが、移住支援金(最大100万円)と起業支援金(最大200万円)を合わせて最大300万円の制度があることを知らない方がまだまだ多いのが実情です。

さらに、この2つの制度を知っていても、小規模事業者持続化補助金(創業枠)との三段重ねで資金計画を組めることまで見えている人はほぼいません。

ただ、ここで問題があります。これらの制度は申請順序を間違えると、片方あるいは全部もらえなくなるのです。

今回は、私が30年の現場で見てきた「地方移住×創業」で補助金の併用に失敗する3つのパターンを、具体的な段取りとともに解説します。

そもそも「移住支援金」と「起業支援金」はどう違う?

まず制度の違いを整理しましょう。混同している方が非常に多いので、ここをしっかり押さえてください。

項目移住支援金起業支援金
正式名称地方創生移住支援事業地方創生起業支援事業
管轄内閣府(地方創生推進事務局)内閣府(地方創生推進事務局)
補助上限世帯100万円(単身60万円)+18歳未満の子1人につき最大100万円加算200万円(対象経費の1/2)
主な要件東京23区に在住or通勤していた方が地方に移住地域課題の解決に資する「社会的事業」を起業
実施主体各都道府県・市町村各都道府県が選定する執行団体
申請タイミング移住後3ヶ月以上1年以内起業前(交付決定後に開業届提出)

ポイントは起業支援金が「先」、移住支援金が「後」という順序です。起業支援金の交付決定を受けてから1年以内に移住支援金を申請する、という流れが基本になります。

パターン1:先に移住して開業届を出してしまい、起業支援金の対象外になる

これが一番多い失敗です。

「とりあえず引っ越して、落ち着いたら開業届を出して、それから補助金を探そう」──この順番だと、起業支援金の最大200万円をまるごと取り逃します

起業支援金の要件には「国の交付決定日以降、補助事業期間完了日までに個人開業届または法人設立を行うこと」と明記されています。つまり、交付決定より前に開業届を出してしまうと対象外です。

私のところにも、仙台に引っ越してきた翌週に開業届を出した方が「起業支援金って今からでも申請できますか?」と相談に来たことがあります。残念ながら、もう手遅れでした。

正しい段取り:

  1. 移住先の都道府県の起業支援金の公募要項を確認
  2. 事業計画を作成し、執行団体の審査を受ける
  3. 交付決定を受けてから移住・開業届提出
  4. 移住後3ヶ月以上経過してから移住支援金を申請

まずは現場を見させてもらってから、という話ではありますが、この場合は「移住する前に、移住先の制度を先に調べる」のが鉄則です。

パターン2:起業支援金の「社会的事業」要件を甘く見て不採択→移住支援金も連動して消える

起業支援金は、ただ地方で開業すれば出るお金ではありません。「地域の課題解決に資する社会的事業」という縛りがあります。

具体的には、以下の3要素を満たす事業計画が求められます。

  • 社会性:地域の課題を解決する内容であること
  • 事業性:ビジネスとして持続可能であること
  • 必要性:その地域で今それが求められていること

たとえば「地方でおしゃれなカフェを開きたい」だけでは通りません。「高齢者の買い物困難地域で、移動販売と併設カフェを組み合わせ、地域の居場所づくりに貢献する」というように、地域課題との接続を明確にする必要があります。

ここで問題なのが、起業支援金と移住支援金の併用ルールです。起業型で移住支援金を申請する場合、起業支援金の交付決定が前提条件になります。つまり、起業支援金が不採択になると、移住支援金の「起業」要件も満たせなくなるのです。

商工会さんに聞いてみると、「社会的事業」の要件は都道府県ごとにかなり解釈が違います。宮城県と岩手県でも求められる書き方が異なるので、必ず移住先の執行団体に事前相談してください

パターン3:持続化補助金(創業枠)との経費二重計上で補助金返還を求められる

移住支援金+起業支援金で最大300万円を確保した上で、さらに小規模事業者持続化補助金(創業枠)で最大200万円を上乗せする──これ自体は可能です。制度の管轄が異なるため、併用を禁止する規定は原則ありません。

ただし、同じ経費を二つの補助金に計上する「二重計上」は絶対にNGです。

たとえば、店舗の内装工事費200万円を起業支援金で申請して100万円の補助を受け、同じ内装工事費200万円を持続化補助金にも計上して100万円の補助を受ける──これは二重計上であり、発覚すれば補助金の返還請求、場合によっては加算金つきの返還になります。

正しい経費の切り分け方:

経費項目起業支援金で申請持続化補助金で申請
店舗内装工事費×(起業支援金で計上済み)
設備購入費×
広告宣伝費×○(ただし補助額の1/4上限)
旅費・交通費×

信金担当者と先に握っておくのが筋ですが、補助金同士の経費切り分けも事前に計画書レベルで整理しておくことが重要です。私は相談者には必ず「経費対照表」を1枚作ってもらいます。どの経費をどの制度に充てるかを一覧にしたもので、これがあると審査する側も安心します。

併用を成功させる「5ステップの段取り」

では、3つの制度を最大限活用するための正しい段取りを時系列で整理します。

ステップ1:移住先の起業支援金の公募状況を確認(移住の6ヶ月前〜)

都道府県ごとに公募時期・要件・執行団体が異なります。内閣府の起業支援金ページで実施都道府県を確認し、執行団体に事前相談してください。令和8年度は東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府以外の43道府県で実施予定です。

ステップ2:事業計画を作成し、起業支援金に申請(移住の3〜4ヶ月前)

「社会的事業」の要件を意識した事業計画を作成します。この段階で持続化補助金(創業枠)の経費切り分けも同時に設計するのがコツです。

ステップ3:起業支援金の交付決定後に移住・開業届提出

交付決定を受けてから、物件契約→引越し→開業届提出の順で動きます。開業届の日付は必ず交付決定日以降にしてください。

ステップ4:持続化補助金(創業枠)に申請

開業届を出したら、特定創業支援等事業の証明書を取得して持続化補助金(創業枠)に申請します。起業支援金と経費が重複しない項目で計画を組みます。

ステップ5:移住後3ヶ月以上経過後、移住支援金を申請

起業支援金の交付決定から1年以内に申請してください。転入届の提出日を起算日として管理します。

併用した場合のモデル資金計画

東京から東北の地方都市に移住し、地域課題解決型の飲食店を創業するケースで試算してみます。

支援制度対象経費補助額
起業支援金内装工事費・開業準備費 計400万円の1/2200万円
移住支援金(世帯)100万円
持続化補助金(創業枠)設備購入費・広告費 計300万円の2/3200万円
合計500万円

自己負担は内装工事200万円+設備100万円=300万円。ここに公庫の創業融資を組み合わせれば、自己資金100万円台でも地方で開業できる資金計画が組めます

ただし、これらはすべて後払い(精算払い)です。以前の記事でも書きましたが、補助金は後払いなので、先に自分で全額立て替える必要がある点を忘れないでください。信金や公庫のつなぎ融資を事前に相談しておくのが筋です。

移住支援金の「5年定住要件」と返還リスク

見落とされがちですが、移住支援金には5年以上の定住意思が求められます。5年以内に転出した場合、支援金の返還を求められることがあります。

朝の商店街散歩で地元の事業主さんと話していると、「移住してきたけど、やっぱり合わなくて1年で帰った」という話も聞きます。地方移住は「お試し移住」制度を使って事前に生活感を確認するのも大事です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 東京23区以外から地方に移住する場合も移住支援金はもらえますか?

移住支援金は、東京23区に在住または東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)から東京23区に通勤していた方が対象です。東京圏以外からの移住は対象外ですが、自治体独自の移住支援制度がある場合もあるので、移住先の市町村に確認してください。

Q2. 起業支援金と持続化補助金(創業枠)は本当に併用できますか?

管轄が異なる(起業支援金=内閣府、持続化補助金=中小企業庁)ため、制度上の併用禁止規定は原則ありません。ただし、同一経費への二重計上は不正受給になるため、経費の切り分けを明確にした「経費対照表」を作成しておくことを強くおすすめします。

Q3. 起業支援金の「社会的事業」にはどんな業種が該当しますか?

子育て支援、高齢者向けサービス、買い物弱者支援、観光振興、農林水産物の加工販売、地域の交通課題解決など幅広い分野が対象です。ただし都道府県ごとに重点分野が異なるため、事前に執行団体に相談して方向性を確認してください。

Q4. 起業支援金に落ちた場合、移住支援金は一切もらえませんか?

「起業」要件での申請はできなくなりますが、移住先でテレワークを継続する場合や、移住先の企業に就職する場合など、別の要件で移住支援金を申請できる可能性があります。

Q5. 移住支援金・起業支援金に税金はかかりますか?

国税庁の見解では、移住支援金は一時所得、起業支援金は事業所得の総収入金額に算入されます。確定申告が必要になるため、税理士に相談しておくと安心です。

まとめ

地方移住×創業で使える支援制度は充実していますが、「申請順序」と「経費の切り分け」を間違えると大幅に損をするのが現実です。

3つの失敗パターンをおさらいします。

  1. 先に移住・開業して起業支援金の対象外になる→交付決定前の開業届はNG
  2. 「社会的事業」要件を甘く見て不採択→移住支援金も連動消滅→事前に執行団体に相談
  3. 持続化補助金と経費を二重計上して返還請求→経費対照表で切り分け管理

補助金はマッチみたいなもので、火をつけるのは事業主自身の覚悟と行動です。制度をうまく使って、地方での創業を確実に形にしてください。

参考文献