「省力化投資補助金のカタログ注文型って、カタログにある製品を選んで申請するだけやから簡単やろ」——そう思って挑んで、撃沈した経営者を、この1年で何人も見てきた。

公募要領、3回読みましたか?

カタログ注文型は確かに一般型・オーダーメイド枠より審査が簡便だ。でもその分、「落とし穴の場所」が全然違う。製品選定の段階で詰んでいるケース、申請書類の記載ミスで門前払いになるケース。パターンは決まっていて、事前に知っておけば回避できる話ばかりだ。

福岡で会社をやっている若林です。自社で補助金を20件以上採択してきた経験から、カタログ注文型で「なぜ申請できないのか」の構造を整理した。これを読んだ方には同じ轍を踏んでほしくない。

省力化投資補助金(カタログ注文型)の基本をまず押さえる

省力化投資補助金は、人手不足に悩む中小企業・小規模事業者がAIやロボット等の汎用製品を導入するための補助金だ。中小機構が所管し、2024年から公募が始まった。

カタログ注文型は、中小機構が認定した製品カタログに掲載されている製品の中から選んで申請する方式。随時公募・先着順で申請を受け付けており、審査型の一般型に比べてスピーディに進む点が特徴だ。

補助率・補助上限(2026年3月改定後)は以下の通りだ。

従業員数補助上限(通常)補助上限(賃上げ特例)
5名以下200万円750万円
6〜20名500万円1,000万円
21名以上1,000万円1,500万円

補助率はいずれも1/2以下。賃上げ特例を適用するには、事業場内最低賃金を3.0%以上、給与支給総額を6.0%以上引き上げることが要件となる。

「随時先着順で楽そう」は半分正解、半分罠だ。申請書類の不備は問答無用で弾かれる。ちゃんと制度を理解してから動かんと、もったいない。

パターン①:欲しい製品がカタログに載っていない問題

最も多いのがこのパターンだ。カタログ注文型の根幹は「カタログ掲載製品を選ぶ」ことにある。逆に言えば、カタログに載っていない製品には一切使えない。

なぜ起きるか

製品カタログへの掲載は、製品供給事業者(メーカー・販売代理店等)が申請して審査を通過した製品のみに限られる。市場で評判のAI検品システムや協働ロボットであっても、供給事業者がカタログ掲載申請をしていなければ補助対象にならない。

「この製品を導入したい」と先に決めてから調べて「あ、カタログにない」と気づくパターンが多い。しかも製品カタログは随時更新されるため、「昨日まではなかったが今日追加された」「以前あったが掲載取り消しになった」ということも現実に起きている。

対策

導入を検討している製品カテゴリ・製品名を、製品選定フェーズの最初に公式カタログサイトで確認することが必須だ。申請直前の確認では遅い。

カタログに掲載されていない場合、製品供給事業者に「カタログ掲載申請の予定があるか」を確認することを勧める。掲載申請中の製品であれば、審査通過後に改めて申請できる可能性がある。

ただし「審査通過を待てばいい」と先送りし続けた結果、先着の枠が埋まってしまうリスクもある。常に代替製品の選択肢を持っておくことが重要だ。

自社でIT導入補助金の申請をしていたとき、本命ツールが直前に登録取り消しになって冷や汗をかいた経験がある。補助金制度は生き物だ。カタログ掲載状況の確認は最後まで怠るな、と肝に銘じている。

パターン②:人手不足を証明する書類が足りない問題

省力化投資補助金では申請書に「現状の人手不足の実態」を記述する必要がある。カタログ注文型でも例外ではない。ここで「客観的根拠が出せない」ケースが続出している。

なぜ起きるか

多くの経営者は「うちは人手不足だ」と体感的にはわかっている。しかし申請書上で「証明」するとなると話が変わる。以下の状況が重なると詰まる。

  • 残業時間の記録がない・集計していない
  • 採用活動をしている証拠(求人票・応募状況)が残っていない
  • 業務量の増加を示す数字(受注件数・生産量推移等)がない

「人手不足なのは当たり前やろ」という感覚で申請書を書いても、審査側には伝わらない。数字と事実の積み重ねが必要だ。

対策

申請書を書く前に、以下の資料を手元に揃えることから始めよう。

  1. 残業実績:勤怠管理システムや残業申請記録から直近6〜12ヶ月の月別残業時間を集計する
  2. 採用活動の記録:ハローワーク求人票・求人媒体の掲載履歴・面接件数と採用結果の記録
  3. 業務量データ:売上・受注・生産量の推移データ(前年比で増加しているなら人手不足の証拠になる)

「そんな記録をちゃんとつけていない」という事業者も多い。その場合は今から記録を始めて、次回申請に備えることが現実的だ。急いで申請するより、根拠づくりに1〜2ヶ月かけた方が長期的には正解になる。

公募要領には「労働生産性の向上」が明確に求められている。公募要領、3回読みましたか?現状数値なき計画は審査で弱くなる一方だ。

パターン③:省力化効果を工数・時間で定量化できない問題

カタログ注文型で最も見落とされやすいのが、省力化効果の定量化だ。「AI導入で業務が楽になる」「ロボットを入れれば人員削減できる」——感覚的な説明では申請書として成立しない。

なぜ起きるか

省力化投資補助金では、導入製品による「省力化効果」を工数・時間で示すことが求められる。具体的には「現在〇時間かかっている〇〇作業が、導入後は〇時間に削減される」という形式だ。

ところが多くの事業者は作業ごとの所要時間を把握していない。「なんとなく大変」「多分効率化できる」という感覚値しかない状態で申請書を書こうとして詰まる。

加えて、カタログ掲載製品には「標準的な省力化効果」が記載されているが、それを自社の作業実態に落とし込む作業を省略するケースも多い。カタログの効果数値をそのままコピペしても、自社規模・作業量と整合していなければ説明として弱い。

対策

導入前に「現状の業務ログを取る」ことが最も確実な対策だ。

  1. 業務ごとの所要時間を記録:導入予定製品が関わる業務について、1日・1週間の作業時間を実測する
  2. 担当人数と頻度を整理:何名が週何回・何時間その作業をしているかを数値化する
  3. カタログ効果数値との対比:カタログ記載の省力化率(例:作業時間50%削減)を自社の実測値に掛け合わせて試算する

この試算を申請書に書けば、審査側は「この事業者は自社の課題を把握している」と判断できる。逆に書けなければ、製品の良し悪しに関係なく申請書として成立しない。

ちゃんと制度を理解してから動かんと、もったいない——これがまさにこのパターンに当てはまる言葉だ。製品を選ぶ前に、自社の業務実態の棚卸しを先にやること。

3パターンのまとめと申請前チェックリスト

省力化投資補助金(カタログ注文型)で申請できなかった3パターンをまとめる。

  1. カタログ未掲載:欲しい製品がカタログに載っていない → 製品選定前にカタログ確認を最初のステップに
  2. 人手不足の証明不足:客観的根拠(残業時間・採用記録・業務量データ)がない → 申請前に記録整備、なければ1〜2ヶ月先送りも選択肢
  3. 省力化効果の定量化失敗:現状業務の時間・工数を把握していない → 業務ログを先に取り、カタログ数値と対比する

申請前に以下をチェックしてほしい。

  • □ 導入予定製品がカタログに掲載されているか(申請直前にも再確認)
  • □ 従業員数区分(5名以下/6〜20名/21名以上)と補助上限を把握しているか
  • □ 賃上げ特例の活用要否を検討したか(特例で上限が大幅増)
  • □ 人手不足を示す客観的数字(残業時間・採用活動記録・業務量推移)が手元にあるか
  • □ 現状の該当業務所要時間を実測・集計しているか
  • □ 省力化効果を自社規模・作業量に落とし込んで試算したか

よくある質問(FAQ)

Q1. カタログ注文型と一般型、どちらを選べばいいですか?

導入したい製品がカタログに掲載されているならカタログ注文型が審査も早い。掲載されていない場合や、カタログ対象外の大規模・オーダーメイドシステムを検討している場合は一般型が対象となる。まずカタログを確認してから判断することを勧める。

Q2. 賃上げ要件を満たせない場合でも申請できますか?

賃上げ特例は補助上限を増額する任意の要件であり、満たさなくても申請自体は可能だ。ただし補助上限が大幅に低くなるため、調達する製品の費用規模と照らし合わせて判断してほしい。賃上げ要件(事業場内最低賃金3.0%以上・給与支給総額6.0%以上)の達成が現実的であれば積極的に活用することを勧める。

Q3. 申請に認定支援機関は必須ですか?

カタログ注文型では認定経営革新等支援機関(認定支援機関)との連携は必須ではない。ただし申請書類の作成(省力化効果の定量化・人手不足の記述等)は専門的な知識が必要な部分もある。不安な場合は商工会・商工会議所や中小企業診断士等に相談することを勧める。

Q4. 随時公募なのでいつでも申請できますか?

原則として随時公募・先着順だが、予算上限に達すると公募が締め切られる。過去には公募開始から短期間で枠が埋まったことがある。書類が整ったら速やかに申請することが重要だ。「そのうち」という先送りが機会損失につながる。

Q5. 採択後に製品を変更できますか?

原則として採択後の製品変更は認められない。申請時に選定した製品・型番で発注・導入・実績報告をする必要がある。「採択されてから良い製品を探せばいい」という考えで申請すると後で大きな問題になる。申請前に製品選定を完結させることが必須だ。

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