「電子カルテ入れたら補助金もらえる」は本当か?――クリニック・介護施設が知らずにやらかす3パターン

もう何度も聞いた。「うちは電子カルテを導入しようと思ってる。デジタル化補助金使えるって聞いたんだけど、手続きどうすれば?」

答えは「使えるかもしれないし、使えないかもしれない」だ。この曖昧な答えが嫌いな人は多いと思うが、正直なところを言うとそうなる。問題は「どの条件で使えなくなるか」を事前に確認していない人があまりにも多いことだ。

2026年9月時点で、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の第5回締切は9月29日、第6回は10月30日だ。今から動けばまだ間に合う。だから今日、この記事を読んでほしい。特にクリニック院長・歯科医院長・介護施設の管理者に向けて書く。

補助金申請で補助額が半減、あるいはゼロになるパターンを3つに絞って解説する。全部、実際に相談を受けた事例から来ている話だ。


パターン1:「ウチが使いたいベンダーが、補助金の土台に乗っていない」

何が起きているか

デジタル化・AI導入補助金を使うには、「IT導入支援事業者」として登録されたベンダー経由で申請することが必須だ。これはどの解説記事にも書いてある。だが、よく読んでいない人が多い。

医療・介護向けの電子カルテや介護記録システムを販売している専門ベンダーの中には、このIT導入支援事業者に登録していない会社が相当数存在する。特に地域密着型の中小ベンダーや、ニッチな医療系SaaS会社は登録をしていないケースが多い。

どういうことが起きるか。「このシステムを導入したい」→ベンダーに問い合わせ→「補助金使えますよ」と言われる→申請手続きを進める→実はそのベンダーはIT導入支援事業者ではない→申請自体ができない

ベンダー側も悪気があるわけではない。「補助金を使えます」という意味で「うちの自治体の補助金が使える」と言っているケースもある。だが国の補助金制度(デジタル化・AI導入補助金)とは別物だ。

確認方法

独立行政法人中小企業基盤整備機構が管理する「ITツール検索」ポータルで、導入したいシステムが登録されているかを先に検索すること。ベンダー名や製品名で検索できる。「ITツール検索」でGoogle検索すれば一発で出てくる。

ここで出てこないツールは、原則として補助対象にならない。まずこの確認をする。商談の前に確認する。これが鉄則だ。

もし使いたいシステムが登録されていなかった場合、そのベンダーにIT導入支援事業者への登録を促す方法もある。ただし登録には時間がかかる。今回の締切には間に合わない可能性が高い。


パターン2:「ソフトと一緒にハードも補助されると思っていた」

何が起きているか

電子カルテ導入となると、セットでタブレットやPC、場合によってはWi-Fiルーターも必要になる。「どうせ買うならまとめて補助金使おう」という発想は自然だ。だが、通常枠ではハードウェアは補助対象外だ。

具体的に言うと:

  • 電子カルテソフト(SaaS月額費用、初期設定費用)→ 対象になりうる
  • iPad 5台 → 通常枠では対象外
  • ネットワーク工事・LAN配線 → 通常枠では対象外

ベンダーから出てくる見積もりには、導入に必要な一式が含まれていることが多い。「総額200万円の見積もりで半額補助してもらえる」と計算していたら、実際に補助対象なのはソフト部分の80万円だけで補助額は40万円、という結末になる。

対処法

見積もりを「ソフトウェア・SaaS費用」と「ハードウェア・工事費用」に明確に分けてもらうこと。補助金申請の際に補助対象経費と対象外経費を分けて入力する必要があるため、この区分けは必須になる。

なお、デジタル化基盤導入枠(インボイス対応等)では一部ハードウェアも対象になるが、医療・介護向けの電子カルテ導入は通常枠に分類されることが多い。自分がどの枠で申請しようとしているかをIT導入支援事業者に確認すること。

「ハードも全部込みで補助金使いたい」という場合は、自治体独自の医療・介護向けIT補助制度を並行して調べることをすすめる。国の制度だけが補助金ではない。


パターン3:「個人情報保護方針があるからSECURITY ACTIONはクリアと思っていた」

何が起きているか

デジタル化・AI導入補助金(通常枠)を申請するには、SECURITY ACTION★一つ星以上の自己宣言が必要だ。これはIPAが管理するセキュリティ対策の自己宣言制度で、申請時点で宣言していることが条件になる。

ここで混乱が生じやすいのが「個人情報保護方針をホームページに掲載している=SECURITY ACTIONの要件を満たしている」という誤解だ。全然違う。

SECURITY ACTION★一つ星の宣言には、IPAのSECURITY ACTIONポータルに事業者情報を登録し、5つの対策基準(情報セキュリティ5か条)への対応を自己宣言する手続きが必要だ。ホームページにプライバシーポリシーを載せるだけでは完結しない。

さらに重要な変更点がある。2026年4月1日にSECURITY ACTIONの管理システムが新システムへ移行した。旧システムで取得した宣言も有効ではあるが、新システム上での確認・更新が必要なケースがある。古い宣言番号だけを持っていて「宣言済みだから大丈夫」と思い込んでいると、申請段階でエラーが出る可能性がある。

今すぐやること

以下を確認する:

  1. IPAのSECURITY ACTIONポータルで自院・自施設の宣言状況を確認する
  2. まだ宣言していない場合、ポータルから★一つ星の新規宣言を行う(5〜10分程度で完了する)
  3. 宣言番号と宣言日を控えておく(申請フォームに入力が必要)

SECURITY ACTIONは申請直前に宣言しても間に合う(申請日時点で宣言していればOK)。だが「今すぐやれ」という理由がある。申請直前に慌てて宣言しようとしたら、ポータルのアクセスが集中してログインできない、という事態が毎回起きているからだ。


3パターンまとめ:「やらかす前チェックリスト」

確認項目 確認方法 NGだった場合
使いたいシステムがITツール検索に登録されているか ITツール検索ポータルで製品名・ベンダー名検索 別の登録済みベンダーを探す or 今回の締切は諦める
補助対象経費(ソフト)と対象外(ハード)が見積もり上で分かれているか ベンダーに経費内訳の分離を依頼 補助額の計算をやり直す
SECURITY ACTION★一つ星の宣言が完了しているか IPAポータルで宣言番号確認 今すぐポータルから宣言手続きを行う

「もらえない理由を全部つぶしておく」がこの補助金の正解

デジタル化・AI導入補助金は、医療・介護分野への対応も明確にされている制度だ。電子カルテ、介護記録システム、予約管理システム——補助対象になりうるツールは多い。問題はやり方だ。

「補助金が使えると聞いた」で動き始めて、細かい条件確認をしないまま申請直前まで来て詰まる、というパターンが繰り返されている。

今日やること:①ITツール検索で自院が入れたいシステムを検索、②ベンダーに見積もりの経費分離を依頼、③IPAポータルでSECURITY ACTION宣言状況確認。この3つだけでいい。今日中にできる。

第5回締切まであと15日(9月29日締切)。補助金は待ってくれない。

執筆:若林拓実(補助金マニア、moraen編集部)