2026年6月、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の第1回採択結果が公表され、Xでも「2人に1人が採択」と話題になった。国の制度に注目が集まるのは自然なことだが、その陰で自治体が独自に設けているDX補助金を見逃している中小企業が非常に多い。
姫路市の「産業デジタル化活用促進補助金」は補助率3/4・上限300万円。愛知県の「中小企業デジタル化・DX促進補助金」は上限200万円。金沢市の「AI・DX推進支援事業補助金」も上限200万円。いずれも国のデジタル化・AI導入補助金とは別枠であり、要件を満たせば両方に申請できるケースもある。
しかし、私の感覚では中小企業の9割がこうした自治体独自のDX補助金の存在を認識していない。この県の予算編成サイクルだと、なぜ見逃すのかは構造的に説明できる。本稿では、自治体独自のDX補助金が中小企業に届かない3つの理由と、予算書から公募開始を先読みする方法を解説する。
見逃す理由①:検索結果が国の制度で埋め尽くされる
「DX 補助金 中小企業」で検索すると、上位に表示されるのはほぼ国の制度だ。デジタル化・AI導入補助金、ものづくり補助金、省力化投資補助金——大手ポータルサイトが国の制度を中心に記事を量産するため、自治体独自の制度は検索結果の2ページ目以降に沈む。
しかも、自治体独自のDX補助金は事業名が統一されていない。姫路市は「産業デジタル化活用促進補助金」、愛知県は「中小企業デジタル化・DX促進補助金」、金沢市は「AI・DX推進支援事業補助金」、大館市は「DX推進事業費補助金」——同じ趣旨の制度でも名称がバラバラなので、ひとつのキーワードでは網羅できない。
朝のラジオを聴きながらコーヒーを淹れて予算書を読む日課の中で、私はこの「名寄せ不能」問題に何度もぶつかってきた。検索に頼る限り、自治体独自のDX補助金を見つけるのは構造的に難しい。
見逃す理由②:予算規模が小さく先着順で消える
国のデジタル化・AI導入補助金の予算規模は数百億円単位だが、自治体独自のDX補助金は桁が違う。大館市のDX推進事業費補助金は予算到達で受付終了となり、実際に予算上限に達して募集が打ち切られた。
過去3年の優先度から見えるのは、自治体独自のDX補助金は「先着順・予算消化次第終了」が主流だということだ。国の制度のように複数回の公募があるわけではなく、公募期間も3〜6週間と短い。情報をキャッチした時点で予算が残っているかどうかが勝負を分ける。
姫路市の産業デジタル化活用促進補助金も先着順で、2026年6月11日から申請受付が始まっている。予算枠約8億円と比較的大きいが、補助率3/4という好条件が周知されれば、早期に予算到達する可能性がある。
見逃す理由③:公募情報が自治体サイトと広報誌にしか載らない
国の補助金はJグランツや中小企業庁のサイトに一元的に掲載されるが、自治体独自のDX補助金は当該自治体の公式サイトと広報誌にしか載らないケースが大半だ。姫路市の制度は姫路商工会議所が実施機関として告知を行っているが、姫路市外の中小企業が偶然見つけることはほぼない。
愛知県のDX促進補助金は2026年4月6日〜4月24日と、わずか約3週間の公募期間だった。この短さでは、広報誌で知ってから準備を始めても間に合わない。前の記事でも書いたが、広報誌は自治体の情報公開手順の最終段階にあたり、構造的に遅い。
予算サイクルから公募開始を先読みする3ステップ
では、どうすれば自治体独自のDX補助金を事前にキャッチできるのか。脱炭素系や創業系の補助金と同じフレームワークが使える。
ステップ1:当初予算案でDX関連の新規事業を探す
2月下旬〜3月に公表される当初予算案の「新規事業」「拡充事業」欄を確認する。予算書の商工費だけでなく、総務費(情報政策課が所管するDX関連事業)にもDX補助金が潜んでいることがある。事業名に「デジタル化」「DX」「AI」「ICT」といったキーワードが含まれていれば候補としてメモする。
ステップ2:議会可決日から4〜6週間後をカレンダー登録
議会会期前の動きを見ると、当初予算は3月議会で可決される。可決日から4〜6週間後が公募開始の目安になる。愛知県の場合、3月の議会可決後に4月6日から公募が始まっており、このパターンに合致する。
ステップ3:補正予算で追加されるDX補助金をウォッチ
物価高騰対応の臨時交付金を財源とするDX補助金は、6月補正予算や9月補正予算で年度途中に追加されるパターンがある。大館市のDX推進事業費補助金はまさにこのケースで、物価高騰対応事業として補正予算で設けられた。補正予算の新規事業欄チェックも忘れずに。
経産局時代に見た「情報格差は構造」の原体験
経産局にいた5年間、優秀な申請書が採択漏れする現場を何度も見た。地方枠の予算が中央に吸われる構造を間近で見続けたことが独立のきっかけだ。独立後、47都道府県の予算サイクルを追う中で気づいたのは、DX系補助金にも脱炭素系・創業系と同じ「予算サイクル分析」のフレームワークが適用できるということだった。
情報格差は構造の問題であり、「知らなかった」は個人の責任ではない。ただ、構造を理解すれば先回りできる。予算案の新規事業欄を年に3回(当初予算・6月補正・9月補正)チェックするだけで、自治体独自のDX補助金を公募前にキャッチできる確率は大幅に上がる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 国のデジタル化・AI導入補助金と自治体独自のDX補助金は併用できますか?
制度によって異なります。自治体独自のDX補助金の交付要綱で「国の補助金との併用不可」と明記されている場合は併用できません。一方、対象経費を切り分ければ併用可能なケースもあります。交付要綱の財源欄に「国の交付金を活用」とある場合は国費二重交付に該当するため、必ず事務局に事前確認してください。
Q2. 自分の自治体にDX補助金があるか、どうやって調べればいいですか?
まず、自治体の当初予算案(2〜3月公表)の商工費と総務費の「新規事業」欄を確認してください。次に、商工会議所・商工会のサイトで「デジタル化」「DX」で検索します。J-Net21の支援情報ヘッドラインやスマート補助金などの横断検索サービスも併用すると見つかりやすくなります。
Q3. 愛知県のDX補助金は2026年度の公募が終わっていますが、追加公募はありますか?
愛知県のDX促進補助金は年1回の公募が基本ですが、予算執行状況や国の補正予算の動向次第で追加公募が行われる可能性はあります。議会の予算特別委員会での質疑内容をチェックすると、追加予算の有無が先読みできます。
Q4. 姫路市のように補助率3/4の自治体DX補助金は珍しいのですか?
はい、補助率3/4は自治体のDX補助金としては手厚い部類です。多くの自治体は補助率1/2〜2/3が標準です。姫路市は市の産業政策としてデジタル化を重点施策に位置づけているため、この補助率を実現しています。首長の政策優先度が補助率に反映される好例です。
Q5. 予算書のどこを見ればDX補助金が載っているか分かりません。
予算書の「歳出」セクションで、「款」の区分のうち「商工費」をまず確認してください。次に「総務費」の中の情報政策・デジタル推進関連の項目も見ます。新規事業・拡充事業には星印(★)や「新」のマークが付いていることが多く、そこを重点的にチェックすれば効率的です。






