持続化補助金(創業枠)の事業計画書を書こうとして、まずネットで「記載例」「テンプレート」と検索する方は多い。しかし30年の創業支援の中で、テンプレートをそのまま真似て書いた方の肌感覚で7割以上が不採択になっている。第2回公募の全体採択率は約38%だが、テンプレ丸写し組の通過率はそれよりさらに低い。

なぜか。テンプレートの「型」は正しい。問題は中身が地元の現場データで埋まっていないことにある。審査員は全国の申請書を読んでいる。どこかで見たような数字、どこにでも当てはまる競合分析では、その事業が「この場所で、この人がやる意味」が伝わらない。

まずは現場を見させてもらってから、が私の口癖だが、事業計画書も同じだ。現場のデータを自分の足で集めて、自分の言葉で書く。この記事では、商工会に相談に行くに最低限揃えておくべき「骨格メモ3ステップ」を解説する。

テンプレ丸写しで不採択になる3つの共通パターン

パターン1:売上計画の客数×客単価が地元商圏の昼間人口と乖離している

ネットの記載例では「月間来客数200人×客単価1,500円=月商30万円」のような数字が載っている。しかしこの数字は、その記載例の著者が想定した立地条件でしか成立しない。

たとえば東北の地方都市で同じ数字を書いても、候補地半径1km以内の昼間人口が3,000人しかいなければ、月間200人の来客は人口の約7%が毎月来店する計算になる。飲食店で7%のリピート率は現実的ではない。審査員はこの不整合を一目で見抜く

パターン2:競合分析が「業界の市場規模」で止まり、半径1km以内の実態がない

テンプレートの競合分析欄には「○○業界の市場規模は△兆円」と書いてあることが多い。しかし審査員が知りたいのは業界全体のマクロ数字ではなく、候補地の周辺にどんな競合がいて、自分はどう差別化するかだ。

半径1km以内に同業者が3店舗あるのか、ゼロなのかで事業計画は根本的に変わる。この情報はネット検索だけでは足りない。実際に歩いて確認しないとわからない。

パターン3:効果測定が「売上○%増」だけで月次のアクションプランがない

補助事業の効果として「売上20%増を目指す」とだけ書く方が多い。しかし審査員は「どうやって20%増を達成するのか」を見ている。

設備を導入してチラシを撒いて売上が増える、では説得力がない。月次で何を、どの順番で、いくらの予算でやるのか。3ヶ月後の効果測定指標は何か。ここまで落とし込んで初めて「計画」と呼べる。

骨格メモ3ステップ──商工会に行く「前」に準備するもの

私が相談者に勧めている方法は、完璧な事業計画書をいきなり書くのではなく、まずA4用紙1〜2枚の「骨格メモ」を自分の言葉で作ることだ。これを持って商工会に行けば、面談がダメ出しの場ではなく具体的なブラッシュアップの場に変わる。

ステップ1:jSTAT MAPで候補地半径500m〜1kmの昼間人口を確認する(約1時間)

jSTAT MAPは総務省統計局が提供する無料の地理情報システムだ。候補地の住所を入力して半径500m〜1kmの円を描けば、昼間人口・夜間人口・世帯数が地図上に表示される。

操作は難しくない。e-StatでIDを取得し、ログイン後に「エリア作成」で候補地を中心に円を描き、「統計地図作成」で人口データを重ねるだけだ。所要時間は登録を含めて約1時間

ここで得た昼間人口の数字が、売上計画の「客数」の上限を決める。テンプレートの数字ではなく、自分の候補地のデータで計算し直す。これだけで事業計画の説得力は格段に上がる。

ステップ2:半径1km以内の競合を実際に足で歩いて調査する(半日)

Googleマップで競合店を検索するだけでは不十分だ。実際に歩いてみると、マップに載っていない個人店、閉店した店舗跡、商店街の人通りの実態がわかる。

確認すべきポイントは以下の3つだ。

  • 同業者の数・業態・価格帯
  • 候補地周辺の人通り(平日と休日の差)
  • 空き店舗の数(商圏の活気の目安になる)

メモはA4用紙の手書きで十分だ。商工会さんに聞いてみると、この実地調査メモがあるかないかで面談の質がまったく変わるという。審査員も、業界マクロデータより現場を歩いたメモのほうを高く評価する。

ステップ3:「なぜ自分がやるのか」を200文字で書く(30分)

事業計画書で最も大事なのに、最も手を抜かれるのがこの部分だ。テンプレートの「創業の動機」欄をそのまま流用しても、審査員には響かない。

200文字でいい。「なぜこの事業を、この場所で、自分がやるのか」を自分の言葉で書く。文章が下手でもいい。コンサルに丸投げした美文より、本人が絞り出した200文字のほうが審査員には伝わる。

以前、東北の商店街で創業40年のうどん屋を支援したことがある。店主は「もう廃業しか」と相談に来たが、商工会と連名で申請書を書いた。採択されて客単価が850円から1,700円に変わった。店主は「補助金で店が変わるんじゃない、自分の覚悟が変わった」と言っていた。事業計画書は、まさにその覚悟を言語化する作業だ。

骨格メモを持って商工会に行くと何が変わるか

商工会の経営指導員は年間何十件もの持続化補助金の相談を受けている。手ぶらで来る相談者には「まず計画を考えてきてください」としか言えない。しかし骨格メモを持参すると、その場で「この数字は少し強気すぎるから根拠を足しましょう」「この競合との差別化をもっと具体的に」と、具体的なブラッシュアップが始まる。

様式4(事業支援計画書)の発行にも余裕ができる。商工会には様式4の発行締切があり、直前に駆け込むと間に合わないことがある。骨格メモを早めに持参すれば、スケジュールにも余裕が生まれる。

事業計画書は「完璧」を目指す前に「骨格」を作る

30年の創業支援で確信していることがある。コンサルに事業計画書を丸投げした方は、たとえ採択されても事業が長続きしない。なぜなら、計画書を自分で書いていないから、計画書の数字の意味がわからないからだ。

補助金はマッチのようなものだ。火をつけるだけなら簡単だが、薪がなければ暖は取れない。薪とは事業主自身の覚悟と行動であり、その最初の一歩が骨格メモだ。

テンプレートの「型」は使っていい。しかし中身は必ず、自分の足で集めたデータと自分の言葉で埋める。信金担当者と先に握っておくのが筋だが、事業計画書も同じで、まず自分が計画の中身を握っていなければ、誰にも説明できない

よくある質問(FAQ)

Q1. jSTAT MAPは無料で使えますか?

はい。総務省統計局が提供する無料サービスです。e-StatのアカウントID(無料登録)があればリッチレポート機能も使えます。候補地の昼間人口・夜間人口・世帯数を地図上で確認でき、事業計画の売上根拠を裏付ける強力なツールです。

Q2. 骨格メモはどの程度の完成度が必要ですか?

A4用紙1〜2枚で十分です。①jSTAT MAPの商圏データのスクリーンショット、②競合の実地調査メモ(手書きでOK)、③「なぜ自分がやるのか」200文字。この3点があれば商工会との面談が具体的なブラッシュアップに進みます。完璧を目指す必要はありません。

Q3. 持続化補助金(創業枠)第3回から対象が「過去1年以内の創業」に変更されたと聞きましたが?

はい。2026年の第3回公募から、対象が「過去3年以内の創業」から「過去1年以内の創業」に厳格化されました。開業届の提出日が起算日になるため、申請スケジュールの逆算がより重要になっています。特定創業支援等事業の証明書取得に最短5〜6週間かかる点も考慮してください。

Q4. コンサルに事業計画書の作成を依頼するのはダメですか?

相談自体は有効です。ただし「丸投げ」は2つの意味で危険です。第一に、審査員はコンサルが書いた美文と事業者本人の言葉を見分けます。面談で計画の数字を聞かれて答えられなければ不採択の可能性が高まります。第二に、採択後の事業運営で計画書の数字を自分で理解していなければ、月次の意思決定ができません。骨格メモを自分で作ったうえで、ブラッシュアップをコンサルに依頼するのが最も効果的です。

Q5. テンプレートは一切使わないほうがいいですか?

いいえ。テンプレートの「構成の型」(見出し構成・記載項目の順番)は大いに参考になります。問題は数字と根拠の部分です。テンプレートの客数・単価・競合分析をそのまま転記するのではなく、jSTAT MAPの商圏データと実地調査の結果で置き換えてください。型を借りて中身を入れ替えるイメージです。

参考文献・公式ソース