「愛知県の省エネ補助金と名古屋市の省エネ補助金、同じ空調設備の入れ替えで両方もらえますか」
名古屋市内の中小企業から、毎年5〜6月にこういった相談が届く。答えは「条件によって使えるが、事前確認なしに申請すると返還リスクがある」だ。公募要領を読んで「窓口が別々の制度」と確認しても、それだけでは判断できない。財源・協調補助の構造・経費区分——この3点を交付要綱で確認しないと、採択後に1円も受け取れないことがある。
都道府県と市区町村の補助金を同じ事業で「垂直に重ねる」ことの難しさは、見えない制度設計の中にある。
「都道府県×市区町村」の垂直併用で何が起きているか
補助金の層構造は「国→都道府県→市区町村」という3段階だ。この隣り合う層の制度を同一設備・同一経費で組み合わせることを「垂直併用」と呼ぶ。
愛知県の省エネルギー設備等導入支援事業費補助金(上限750万円)と名古屋市の中小企業省エネルギー設備等導入補助金(補助率1/2・上限100万円、令和8年度申請期間:5月25日〜8月31日)を、同一の業務用空調4台の入れ替えで申請するケースを考えてみる。補助率を合計すれば投資額の3/4以上が戻ってくる計算になる。だからこそ「両方申請できるか」という質問が来るのは当然だ。
問題は「使えない理由」が複数あり、かつそれぞれ異なる確認作業が必要なことだ。
落とし穴1:財源チェック——同じ国費から出ていれば二重交付で返還対象になる
最初に確認すべきは財源だ。
名古屋市の令和8年度省エネ補助金は「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金を活用した制度」と交付要綱に書いてある。問題は愛知県の省エネ補助金側だ。県の制度も同じく国の臨時交付金(地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、または地方創生推進交付金)を財源としている場合、同一設備への同一経費で垂直併用すると国費の二重交付とみなされる可能性がある。
「自治体の名前で公募されていても財源が国の交付金なら国費由来の補助金と同じ扱い」という判断軸は、国×自治体の併用論点と変わらない。都道府県×市区町村の垂直では「両方とも自治体の顔をしているから財源が別だろう」という思い込みが生まれやすい。交付要綱の財源欄を両方開けて確認しないと判断できない。
確認箇所は明確だ。それぞれの交付要綱または予算書の「財源内訳」欄で「国庫支出金」「地方創生推進交付金」「臨時交付金」といった文言を探す。この県の予算編成サイクルだと、6月補正予算で計上した省エネ系の補助事業には臨時交付金が財源になっているケースが多い。2〜3月の当初予算案公表時点で予算書を確認するのが最短ルートだ。
落とし穴2:協調補助の構造——外から見ると別制度でも実態は1制度のことがある
財源が異なっていても、もう一つ確認すべき構造がある。「協調補助」だ。
協調補助とは、都道府県と市区町村が費用を分担して1つの補助事業を共同運営する仕組みだ。外から見ると「県のA補助金」と「市のB補助金」が独立して存在するように見えるが、実態はAが都道府県分・Bが市区町村分として同一事業の財源構造になっている。この場合、垂直併用の概念自体が成立しない。1制度として申請するだけで、両方の補助が反映された形で交付される。
夫が市の財政部門で働いており、予算書の読み方を聞いたことがある。「協調補助は決算書では県歳出と市歳出に別々に計上されるから、補助金データベースで検索すると2つのヒットが出てしまう。事業者側は当然別制度だと思う」という話だった。この構造を知らないまま「2つの制度に別々に申請しよう」と動くのは、1制度に2回申請しようとしているのと同じことになる。
確認方法は都道府県の予算書の財源内訳欄に「市町村協調負担金」「市町村拠出」という文言があるかどうかを見ることだ。この文言があれば協調補助の構造であり、独立した2制度ではないと判断してよい。
落とし穴3:経費区分の定義差——「同一経費」の境界が制度ごとにズレている
財源が別々で協調補助でもない場合、経費を物理的に切り分けることで垂直併用ができる可能性が出てくる。しかしここで3つ目の問題が出る。
都道府県の補助金が「機器本体費+設置工事費」を対象とするのに対し、市区町村の補助金が「機器本体費のみ(工事費除く)」を対象とするケースがある。この差があれば「機器本体費→都道府県」「設置工事費→市区町村(対象外につき申請しない)」という切り分けは意味をなさない。逆に「機器本体費→市区町村」「設置工事費→都道府県」という切り分けが有効かどうかは、それぞれの交付要綱が「設置工事費を単独で対象経費とするか」を確認しないと判断できない。
過去3年の優先度から見えるのは、「経費の切り分けなら問題ないと思った」というケースで採択後に返還を求められたトラブルが、5〜6月の相談ピークに必ず出てくるということだ。採択後に事務局から「その経費は本制度の対象外」という通知が来ても手遅れだ。見積書の分離だけでなく、事前に両事務局への書面確認が必要だ。
垂直併用を判断する3ステップ確認フレームワーク
都道府県と市区町村の補助金を同じ事業で使いたい場合、以下の手順で確認する。
ステップ1:財源欄の突き合わせ(2〜3月の予算案公表後)
都道府県・市区町村それぞれの当初予算書(2〜3月公表が多い)で款別歳出の財源内訳欄を確認する。「国庫支出金」「地方創生交付金」等の記載があれば国費由来だ。両方に同じ財源があれば、同一経費での垂直併用は難しいと判断する。
ステップ2:協調補助の有無を確認
都道府県の予算書に「市町村協調負担金」「市町村拠出」という記載があれば、市区町村の類似制度との実態確認が必要だ。両制度の担当課に「この2つは協調補助の関係にあるか」と直接確認することで判断できる。
ステップ3:経費区分を整理して書面確認
財源・協調補助の問題がクリアになった後、経費の切り分けによる垂直併用の可能性があれば見積書を物理的に分割して、その内訳を添付した形で両事務局に送り書面回答を得る。口頭確認だけでは採択後のトラブル防止にならない。
議会会期前の動きを見ると、事前相談の最適タイミングは2〜3月の予算案公表直後だ。担当課が年度末精算業務に入る前で、踏み込んだ情報を引き出せる時期でもある。3〜4月(年度末精算・人事異動)と9〜10月(決算特別委員会)は問い合わせが後回しになりやすいので避けること。
FAQ
都道府県と市区町村の補助金は、原則として一緒に申請できるのか?
財源が別々で協調補助の構造もなく、対象経費を物理的に分離できれば垂直併用が可能なケースがある。ただし「原則使える」と判断する前に、財源欄・協調補助の有無・経費区分の定義を確認することが前提だ。確認なしに申請すると採択後の返還リスクがある。
交付要綱に「他の補助金との重複を受けていない」という誓約欄がある場合はどう判断するか?
この誓約欄が都道府県と市区町村の補助金に双方向で含まれている場合、垂直併用は禁止されている可能性が高い。誓約欄の対象範囲(「国の補助金のみ」か「他の公的補助金すべて」か)を確認する。「他の公的補助金すべて」という文言があれば、都道府県×市区町村の垂直併用も禁止の範囲に入る。
財源が同じ国の交付金かどうかを調べる最速の方法は?
それぞれの交付要綱の「財源」欄または「補助の根拠」欄を確認する。「地方創生推進交付金を活用」「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」等の文言があれば国費由来の補助金だ。予算書では款別歳出の財源内訳欄で「国庫支出金」の有無を確認するのが最短ルートだ。
経費を「機器本体費」と「工事費」に分けて申請する方法は有効か?
有効なケースがある。ただし「分けられると思った」だけでは不十分で、両方の交付要綱で各経費が「それぞれの制度で対象経費として認められるか」を確認してから見積書を分離する必要がある。見積書を分離した後に両事務局への書面確認を行い、承認回答を得てから申請することが最低限の安全策だ。
事前相談をする時期として、いつが最適か?
2〜3月の予算案公表直後が最適だ。担当課の年度末精算業務が始まる前で、翌年度の制度設計に関する情報が最も豊富な時期だ。5月(6月議会前)や7〜8月(普通交付税決定後・9月補正前)も問い合わせに適している。3〜4月と9〜10月の繁忙期は避けること。
参考文献
- 中小企業省エネルギー設備等導入補助(事業向け情報) — 名古屋市公式ウェブサイト, 令和8年度
- 愛知県:省エネルギー設備等導入支援事業費補助金 — 補助金ポータル
- 地方創生推進交付金に関する事務連絡(令和7年4月1日) — 内閣府地方創生推進室
- 補助金の「併用」は可能か?|国・県・市の制度を組み合わせる方法 — 全国助成金・補助金サポートセンター






