「うちはセキュリティに詳しい人がいないから、そんな枠は使えないですよ」。先月、支援先の建設業の社長にこう言われた。デジタル化・AI導入補助金2026の「セキュリティ対策推進枠」のことだ。3次締切(2026年9月2日採択発表)の採択率は72.22%。通常枠の42.19%と比べると約30ポイントも高い。なのに申請者数は2次締切時点でわずか28者だった。
採択率が高く、申請者が少ない。補助金の世界でこれほど狙い目の枠は珍しい。なぜ使われないのか。理由を追うと、「思い込み」で諦めているケースが圧倒的に多かった。公募要領を3回読んで整理した、中小企業が補助金を取り逃がす3つのパターンを解説する。
セキュリティ対策推進枠の仕組みと2026年8月の重要改訂
本題に入る前に、セキュリティ対策推進枠の基本構造を確認する。この枠はIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスの導入費用を補助する仕組みだ。補助対象はサービス利用料(最大2年分)。補助率は4/5、上限は50万円。申請にはIT導入支援事業者とのパートナーシップが必要で、かつそのIT事業者がセキュリティ対策推進枠にツールを登録していることが条件だ。
もう1点、2026年8月27日の公募要領改訂で見落としがちな変更があった。通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)・インボイス枠(電子取引類型)の審査事項に、「セキュリティ対策を進めているか」が追加されたのだ。セキュリティ対策推進枠を使わない企業でも、通常枠の審査でセキュリティへの取り組みが問われるようになっている。第5次締切(9月29日)を検討している企業は今すぐ確認すべき変更だ。
パターン1: 「お助け隊サービスリスト」に自社の選択肢がないと思い込む
最も多いのがこれだ。「うちが使いたいウイルス対策ソフトはリストに載っていないでしょ」という思い込みで、確認すらしない。
「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているのは、パッケージソフトそのものではない。24時間監視・緊急対応・簡易サイバー保険をワンパッケージにしたマネージドサービスが中心だ。トレンドマイクロやシマンテックのスタンドアロン製品は原則として対象外になる。ただし、同じベンダーが提供するマネージドサービス(MDR等)がリストに掲載されているケースは少なくない。
リストは随時更新されており、2026年9月時点で複数の中小企業向けサービスが掲載されている。業種・事業規模・対応地域でフィルタリングできるため、「どうせ載っていない」と判断する前に検索してほしい。実務での動き方はシンプルだ。IPAの「サイバーセキュリティお助け隊サービス ユーザー向けサイト」を開き、自社の業種と規模でフィルタをかける。候補が1件でも出てきたら、次のパターン2の確認に進む。
パターン2: IT導入支援事業者がセキュリティ枠のツール登録をしているか確認しない
通常枠での申請経験があると、ここで油断する。「前回も同じベンダーと組んだから今回も問題ない」。この判断が間違いだ。
通常枠とセキュリティ対策推進枠では、IT導入支援事業者がITツールを事務局に別々に登録する必要がある。通常枠に登録済みでも、セキュリティ対策推進枠への登録は別の申請が必要で、事務局の審査を通過していなければならない。未登録ベンダーのサービスで交付申請しても、形式不備で受け付けられない。
確認の仕方は1行だ。「御社のサービスはデジタル化・AI導入補助金2026のセキュリティ対策推進枠にITツール登録されていますか」。これをベンダーに直接聞く。NoならIT導入支援事業者をリストから逆引き検索するアプローチが確実だ。デジタル化・AI導入補助金事務局のポータルから「セキュリティ対策推進枠対応」でフィルタリングすれば、登録済みの事業者を絞り込める。ベンダーの事務局登録には時間がかかるため、締切の3〜4週間前には確認を済ませておくべきだ。
パターン3: 2年分のサービス利用料が補助対象と知らずに1年で申請設計する
補助額の設計で損をするパターンが3つ目だ。
セキュリティ対策推進枠の対象経費は「サービス利用料(最大2年分)」だ。2年分まで補助対象に入れられる。にもかかわらず「1年契約の月額サービスを1年分だけ計上」して申請を終わらせているケースが多い。例えば月額2万円のサービスなら、1年分(24万円)の補助額は19.2万円(補助率4/5)。2年分(48万円)に切り替えれば補助額は38.4万円になる。差は19万円超だ。
上限は50万円のため、月額3万1,250円を超えるサービスでは2年分を計上しても50万円の上限に達する。それ以上伸びない。自社が検討するサービスの月額料金から逆算し、2年分で補助額がどこまで届くかを先に確認してから契約設計に入ることを勧める。
補助金の実績を積んだ担当者ほど、「1年分が基本」という旧制度の感覚が抜けきれていないケースを筆者はよく見てきた。公募要領の経費区分は毎回ゼロから読む習慣が必要だ。慣れと思い込みが補助額を削る。
FAQ
セキュリティ対策推進枠と通常枠は同じ申請期間で重複申請できますか?
同一申請期間での重複申請は制限されています。同じ締切で通常枠とセキュリティ対策推進枠の両方に申請することはできません。異なる締切での申請は別途可能です。公募要領の「申請の制限」欄を毎回確認してください。
SECURITY ACTION宣言はどれくらいの期間で取得できますか?
★一つ星の宣言はIPAのウェブサイトから最短即日完了します。★★二つ星は「情報セキュリティポリシー」の策定と実践が前提となるため、1〜2週間は見てください。すべての申請枠で宣言が必要なため、未実施の企業は今すぐ対応を進めてください。
採択率72%というデータはどの時点のものですか?
2026年9月2日に中小企業庁が公表したデジタル化・AI導入補助金2026の3次締切採択結果における、セキュリティ対策推進枠の数値です。公募回ごとに変動するため、最新情報は中小企業庁の公式サイトでご確認ください。
サイバーセキュリティお助け隊サービスリストはどこで確認できますか?
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「サイバーセキュリティお助け隊サービス ユーザー向けサイト」で確認できます。業種・事業規模・対応地域でのフィルタリングが可能です。
8月27日の公募要領改訂は第5次締切(9月29日)の申請に影響しますか?
はい、直接影響します。8月27日改訂で通常枠・インボイス枠の審査事項に「セキュリティ対策を進めているか」が追加されました。SECURITY ACTION宣言(★または★★)が審査に影響する可能性があります。第5次締切に間に合わせるには今すぐ手続きを進めてください。
参考文献
- セキュリティ対策推進枠 | デジタル化・AI導入補助金2026 — 中小企業基盤整備機構(SMRJ)事務局, 2026年
- デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領(2026年8月27日改訂版) — 中小企業庁, 2026年
- サイバーセキュリティお助け隊サービス制度 — IPA 独立行政法人情報処理推進機構, 2026年
- デジタル化・AI導入補助金2026(セキュリティ対策推進枠)2次締切 — 補助金ポータル, 2026年






