飲食店を開業しようとする個人事業主から「持続化補助金(創業枠)で厨房設備を買いたい」という相談が、ここ数年で本当に増えました。
結論から言うと、持続化補助金で厨房設備費の大部分をカバーしようとすると、高い確率で経費計画が崩壊します。私は東北で30年、創業期の個人事業主に伴走してきた行政書士ですが、飲食店開業のケースでは「厨房設備を補助金で買えると思っていたのに、ほとんど対象外だった」という相談が3〜4割に達しています。
この記事では、飲食店開業で持続化補助金(創業枠)を使おうとした個人事業主が経費計画で失敗する3つのパターンと、その対策を現場の目線でお伝えします。
前提:持続化補助金(創業枠)の対象経費をおさらい
持続化補助金(創業枠)は、特定創業支援等事業の証明書を取得した創業後1年以内の小規模事業者が対象で、補助上限200万円(インボイス特例で最大250万円)、補助率2/3です。
対象経費は以下の通りです。
- 機械装置等費
- 広報費
- ウェブサイト関連費(補助額の4分の1が上限)
- 展示会等出展費
- 旅費
- 新商品開発費
- 委託・外注費
一見すると「機械装置等費」で厨房機器が買えそうに見えます。ここが落とし穴の入口です。
パターン1:厨房の「躯体工事」と「機械装置」を混同し、改装費の大半が補助対象外になる
飲食店開業で最も金額が大きいのは、給排水・ガス配管・換気ダクト・防水工事などの躯体工事です。空き店舗を借りて飲食店にする場合、この躯体工事が改装費の50〜70%を占めることも珍しくありません。
ところが、躯体工事は持続化補助金の対象経費に該当しません。壁・床・天井の工事、給排水管の引き直し、ダクト工事は「不動産の改修」であり、機械装置等費には含まれないのです。
まずは現場を見させてもらってから判断するのですが、私の経験では、飲食店の改装見積もりを持ってきた方の7割以上が、見積書の中身を「補助対象」と「対象外」に分けていません。施工業者に「持続化補助金を使いたいので、補助対象の機械装置等費と、対象外の躯体工事を分けた見積書を出してください」とお願いすると、対象外が半分以上になって驚く方がほとんどです。
対策
施工業者に「補助対象/対象外の分離見積書」を最初から依頼することが鉄則です。見積もり段階で経費の色分けをしておけば、「補助金で200万出ると思っていたのに実際は60万しか対象にならない」という事態を防げます。
パターン2:厨房機器を「機械装置等費」で申請したが「販路開拓との関連性」を示せず不採択になる
持続化補助金は「販路開拓」のための補助金です。ここを見落とすと、たとえ機械装置等費で厨房機器(業務用冷蔵庫、食器洗浄機、オーブンなど)を申請しても、「それは単なる開業準備であって販路開拓ではない」と判断され不採択になります。
審査員が見ているのは「その厨房機器を導入することで、どのような新しい販路が開拓されるのか」です。たとえば「業務用オーブンを導入して新メニューを開発し、テイクアウト販路を新規開拓する」という計画なら筋が通ります。しかし「開業に必要な厨房機器一式を揃えたい」という申請は、販路開拓との因果関係が弱く、不採択になりやすいのです。
商工会さんに聞いてみると、不採択になった飲食店の申請書の多くが「厨房機器リスト+価格表」のような内容で、「なぜその機器が販路開拓に必要なのか」の説明が抜け落ちているとのことでした。
以前、東北の小さな町で創業40年のうどん屋さんの持続化補助金申請をお手伝いしたことがあります。この方は50万の採択でしたが、「カウンター改装で客単価を上げる」という明確な販路開拓ストーリーがあったからこそ通った。実際に客単価は850円から1,700円に上がりました。補助金で店が変わるのではなく、店主の覚悟が変わったのです。逆に、見栄えだけ綺麗な事業計画で1,000万の補助金を取った飲食店が2年で閉店したケースも見てきました。売上前提が地元の商圏に合っていなかったのです。
対策
事業計画書には「厨房機器 → 新メニュー・新サービス → 新しい顧客層・販路」という因果関係を明確に書くこと。jSTAT MAPで候補地半径500m〜1kmの昼間人口を確認し、地元データで売上根拠を裏付けることが不可欠です。
パターン3:補助金の「後払い」と厨房リースの「前払い」でつなぎ資金が枯渇する
これは飲食店開業で最も深刻なパターンです。
持続化補助金は精算払い(後払い)です。採択されてから入金まで半年〜1年以上かかることがあります。一方、厨房機器は納品時に代金を支払う必要があり、空き店舗の家賃は入居した瞬間から発生します。
飲食店開業者の多くが陥る「3つの誤算」はこうです。
- 採択=入金と思い込み、交付決定前に厨房機器を発注してしまう(→ 補助対象外)
- つなぎ資金を計算に入れていない。厨房機器300万+内装200万+家賃6ヶ月分を自己資金だけでは賄えない
- 補助金と信金の創業融資を別々に計画して、事業計画の数字が不整合になる
信金担当者と先に握っておくのが筋です。補助金申請と同時期に信金・日本政策金融公庫につなぎ融資の事前相談をし、補助金入金までの運転資金を確保する段取りを組むことが鉄則です。事業計画の数字は補助金用と融資用で1本化してください。
対策
補助金申請と同時に信金・公庫の創業融資を並行申請すること。事業計画は1本化し、補助金の精算払い完了後に繰上返済する計画まで組み込んでおくと、融資審査での評価も上がります。
飲食店開業で持続化補助金(創業枠)を活用するための実務チェックリスト
上記3パターンを踏まえて、飲食店開業で持続化補助金を申請する前に確認すべきポイントをまとめます。
| 確認項目 | 内容 | 目安時期 |
|---|---|---|
| 特定創業支援等事業の受講開始 | 商工会で4分野×4回以上の面談 | 申請締切の5ヶ月前 |
| GビズIDプライム取得 | 電子申請に必須 | 申請締切の3ヶ月前 |
| 施工業者に分離見積書を依頼 | 補助対象/対象外を分ける | 申請締切の2ヶ月前 |
| 信金・公庫への事前相談 | つなぎ融資の打診 | 補助金申請と同時期 |
| jSTAT MAPで商圏データ取得 | 昼間人口・夜間人口を確認 | 事業計画書作成前 |
| 競合の実地調査 | 半径1km以内の同業者リスト | 事業計画書作成前 |
まとめ:厨房設備は「補助金で全額カバー」できないと知ることが出発点
飲食店開業で持続化補助金(創業枠)を使う場合、厨房設備費の大部分を補助金でカバーしようとする計画は、ほぼ確実に崩壊します。躯体工事は対象外、機械装置等費は販路開拓との関連性が必須、そして補助金は後払い——この3つの現実を受け入れた上で、信金の創業融資と組み合わせた資金計画を立てることが、飲食店開業を成功させる第一歩です。
朝の散歩で地元商店街を歩いていると、新しく開いた飲食店が半年で閉まっている光景を何度も見てきました。その多くが、補助金の「採択」をゴールにしてしまった方々です。補助金はマッチです。火をつけるだけ。薪を用意するのは事業主自身です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 業務用冷蔵庫や食器洗浄機は持続化補助金の対象になりますか?
「機械装置等費」として申請可能ですが、販路開拓との因果関係を事業計画書で明確に示す必要があります。「開業に必要だから」だけでは不採択になりやすいです。「新メニュー開発による新規顧客層の開拓」など、具体的な販路開拓ストーリーを書いてください。
Q2. 厨房の内装工事費(ダクト・配管)は補助対象外ですか?
はい、給排水工事・ガス配管・換気ダクト・防水工事などの躯体工事は補助対象外です。施工業者に「補助対象と対象外を分けた見積書」を依頼し、対象外の部分は自己資金または創業融資でカバーする計画を立ててください。
Q3. 持続化補助金と日本政策金融公庫の創業融資は同時に申請できますか?
同時申請は可能であり、むしろ同時に申し込むことを推奨します。ただし、事業計画書の売上見込みや経費の数字は1本化してください。補助金用と融資用で数字が異なると、融資審査で不整合を指摘されて否決されるリスクがあります。
Q4. 持続化補助金の入金はいつ頃になりますか?
採択から入金まで半年〜1年以上かかることがあります。採択通知→交付決定→事業実施→実績報告→確定検査→入金という流れです。交付決定前に発注した経費は補助対象外になるため、「採択=すぐにお金がもらえる」という誤解は禁物です。
Q5. 飲食店開業で持続化補助金以外に使える補助金はありますか?
設備投資の規模が大きい場合はものづくり補助金(新メニュー開発・生産性向上目的)も選択肢に入ります。また、自治体独自の創業支援補助金(家賃補助・店舗改装助成・創業奨励金など)は国の検索サイトに載っていないものも多いため、商工会の経営指導員と地元信金の創業支援窓口に必ず相談してください。
参考文献
- 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金(創業型)」令和7年度補正予算リーフレット(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r8/jizoku_sougyo.pdf)
- 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金<一般型・通常枠>(第19回)」公募要領(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260128002.html)
- 中小企業庁「小規模事業者持続化補助金(通常枠)」令和7年度補正予算リーフレット(https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r8/jizoku.pdf)
- 独立行政法人統計センター「jSTAT MAP」地理情報システム(https://jstatmap.e-stat.go.jp/)






