「中小企業向けの補助金は多すぎてどれが岩手県独自なのかわからない」──そういう声を、岩手県内の中小企業経営者から聞くことが多い。経産局時代、各都道府県の予算書を読み続けた経験からいうと、岩手県は国の交付金スキームを積極的に使いながら、県独自の要件設計をしている県だ。補助率・補助上限額に岩手独自の色が出ている。

2026年9月7日時点で申請を受け付けている主要な制度と、どれを先に動かすべきかを整理した。

国の制度との違い──岩手独自の設計はどこか

国の補助金(ものづくり補助金、事業再構築補助金など)と岩手県独自の制度は、根拠法・財源の出所が違う。

岩手県が独自に出している補助金の多くは、「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」という国の交付金を岩手県が活用し、使途・要件・補助率を県が独自設計したものだ。つまり、財源は国の交付金でも、誰が何のために使えるかは岩手県が決めている。

この構造上の特徴として重要なのは、予算総枠が岩手県の判断で決まる点だ。物価高騰対策賃上げ支援金は県全体で25億4,000万円を上限とする。この上限に達した時点で、締切日前でも受付が終了する。

もう一つの違いは、経営革新計画などの県認定スキームと連動している制度がある点だ。岩手県の賃上げ補助金2.0(通常枠)は、県の経営革新計画承認を取得していることが要件の一つになっている。国の補助金では要求されないステップが、岩手独自の制度では前提になっているケースがある。

この県の予算編成サイクルだと、臨時交付金を活用した独自制度は年度当初に骨格が決まり、夏〜秋にかけて公募が回転する傾向がある。令和8年度も同じリズムで動いており、9〜10月は申請タイミングとして好機だ。

いま申請できる制度(2026年9月7日時点)

① 物価高騰対策賃上げ支援金(受付中)

対象:岩手県内に事業所を有する中小企業等。公益法人、協同組合、従業員を1人以上雇用している個人事業主も対象に含まれる。

補助額:従業員1人当たり6万円、上限50人分(1事業所当たり最大400万円)。令和7年10月1日〜12月1日の間に時給971円未満の従業員の賃金を時給1,031円以上に引き上げた場合は、1人当たり2万円の加算がある。

申請期間:令和8年2月13日〜令和8年11月13日。県全体の予算枠25億4,000万円に達した時点で終了。

従業員を雇用している事業者であれば個人事業主でも対象になる点が、この制度の特徴だ。従業員数が多いほど支援額が大きくなる仕組みのため、中規模事業者(従業員10〜50人)での活用効果が高い。オンライン申請が可能で、事務局(電話: 019-601-7165)への問い合わせも受け付けている。

② 中小企業者等賃上げ環境整備緊急支援事業費補助金(賃上げ補助金2.0)(受付中)

3つの公募枠が設けられており、事業者の状況に応じて選択できる。

通常枠(第2回公募中):経営革新計画の承認を受け、パートナーシップ構築宣言を実施済みの中小企業者等が対象。補助率は2/3以内、1件当たり上限200万円。申請期間は令和8年7月30日〜9月30日17時。

デジタル活用枠(第2回公募中):生産性向上を目的としたデジタル化に取り組む、パートナーシップ構築宣言を実施済みの中小企業者等が対象。補助率は1/2以内、1件当たり上限100万円。同じく7月30日〜9月30日17時が申請期間。

複数事業者連携枠(第4回公募中):1者以上が経営革新計画承認を受けている2者以上のグループ・組合が対象。補助率2/3以内、1件当たり上限200万円。

通常枠・デジタル活用枠は締切が9月30日17時(2026年9月7日時点で残り23日)。経営革新計画の未取得者は今回の公募には間に合わないが、次回以降のために今から計画承認を進めておく価値がある。

申請の順番──どれを先に出すべきか

複数の制度を同時並行で使える可能性がある場合、申請の順番を誤ると「後から申し込みたかった制度の要件を満たせない」事態が起きる。岩手県の制度を見ると、以下の順序が基本になる。

ステップ1(最初に動かす):経営革新計画の承認申請
賃上げ補助金2.0(通常枠)の前提要件だ。申請〜承認まで通常2〜3ヶ月かかる。今年度の残りの公募回を狙うなら、今すぐ動く必要がある。補助金申請と同時並行では取れないため、先行して動かすことが前提になる。

ステップ2(前後しても可):パートナーシップ構築宣言
賃上げ補助金2.0の通常枠・デジタル活用枠に必要。内閣府のポータルサイトからオンラインで宣言する。データベースへの反映に数日かかることがあるため、申請期限の1〜2週間前には完了させておくこと。

ステップ3:物価高騰対策賃上げ支援金
従業員の賃上げを実施済みであれば今すぐ申請できる。経営革新計画不要。オンラインで完結する。締切は11月13日だが、予算枠に達した時点で終了するため、要件を満たした段階で速やかに提出するのが安全だ。

ステップ4:賃上げ補助金2.0(通常枠 or デジタル活用枠)
ステップ1〜2が完了した事業者が対象。今回の第2回公募(〜9/30)に間に合わない場合は次回以降を狙う。

物価高騰対策賃上げ支援金(ステップ3)と賃上げ補助金2.0(ステップ4)は、支援対象が異なるため両方受給すること自体は可能だ。前者が「賃上げの実績」に対する支援金、後者が「賃上げ環境を整備するための設備投資・DX等」への補助金という位置づけのため、同一費用への重複計上にならない限り、並行活用ができる。

よくある不採択の理由

岩手県の補助金審査で不採択になる案件のパターンを、制度設計を読む視点で整理する。

経営革新計画との整合が取れていない申請書
賃上げ補助金2.0の通常枠では、経営革新計画の承認を受けていることが要件だが、補助事業の内容が計画と連動していない申請書がある。計画に「デジタル化による生産性向上」と書いてあるのに、補助対象が旧来の設備投資というケースは典型的な不整合だ。計画書と申請書の一貫性を事前に確認すること。

パートナーシップ構築宣言の登録漏れ・間に合わない
申請書を完成させた段階で宣言が未登録だったというミスは実際に起きている。宣言のデータベース反映に数日かかることがあり、締切ぎりぎりに気づくと間に合わない。早めに手続きを終わらせておくこと。

対象従業員数のカウント誤り
物価高騰対策賃上げ支援金では対象従業員数の計算方法にルールがある。パートタイム従業員の換算方法を誤ると申請額が変わる。事務局(電話: 019-601-7165)に確認してから申請するのが確実だ。

経産局時代に気づいたことだが、優秀な事業計画を持ちながら書類の要件漏れで採択を逃すケースが少なくない。内容より先に、要件チェックリストを埋めることを習慣にしてほしい。

過去の制度──次年度の見通しを立てる参考に

以下の制度は2026年9月7日時点で募集を終了している。ただし、過去のパターンを見ると岩手県は類似制度を年度ごとに継続することが多い。次年度以降の申請準備として把握しておく価値がある。

岩手県地方創生起業支援金(令和7年度)
デジタル技術を活用して地域課題解決に取り組む起業や、Society5.0関連産業の事業承継・第二創業などを対象にした支援金。令和7年度の公募は終了している。令和8年度版の公募については、スタートアップいわて(startup-iwate.pref.iwate.jp)で最新情報を確認すること。

小規模事業者事業継続力強化支援事業費補助金(令和7年度第2回)
国の認定を受けた事業継続力強化計画に基づき、防災・減災のための設備整備に使える補助金。単独申請の場合の補助額は50万円、複数事業者の連携で最大250万円まで拡充できる。令和7年度分は受付終了。令和8年度の公募については岩手県商工労働観光部(電話: 019-629-5544)まで問い合わせを。

過去3年の優先度から見えるのは、岩手県が賃上げ・DX・事業継続の3分野に対して予算を集中的に投下してきた傾向だ。議会会期前の動きを見ると、この方向性は来年度も継続される可能性が高い。制度が終了した後は「次の公募はいつか」を公式ページで追うのが有効だ。

問い合わせ先

  • 物価高騰対策賃上げ支援金:事務局 電話 019-601-7165(9:00〜17:00、土日祝除く)
  • 賃上げ補助金2.0・経営革新計画全般:岩手県商工労働観光部 経営支援課 電話 019-629-5544
  • 起業・創業支援全般:岩手県商工労働観光部 電話 019-629-5543
  • 公式情報ポータル:岩手県 中小企業支援(pref.iwate.jp)

FAQ

個人事業主も岩手県の補助金を申請できますか?

制度によって異なる。物価高騰対策賃上げ支援金は「従業員を1人以上雇用している個人事業主」が対象に含まれる。賃上げ補助金2.0は「中小企業者等」が対象で個人事業主も含まれるが、経営革新計画の承認が前提要件になっている。まず自分の事業規模と従業員の有無を確認した上で、各制度の公募要領を参照してほしい。

経営革新計画の承認はどこに申請すればよいですか?

岩手県商工労働観光部 経営支援課(電話: 019-629-5544)が窓口になる。計画書の作成支援は、公益財団法人いわて産業振興センターや商工会議所・商工会でも受けられる。承認まで通常2〜3ヶ月かかるため、補助金申請のスケジュールを逆算して早めに動くことが重要だ。

物価高騰対策賃上げ支援金と賃上げ補助金2.0は同時に申請できますか?

両方の要件を満たしていれば、並行して申請することは可能だ。ただし、同一の費用への重複申請はできない。物価高騰対策賃上げ支援金は「賃上げの実績(人件費)」、賃上げ補助金2.0は「賃上げ環境を整備するための設備投資・DX等の経費」が対象なので、通常は費用の性格が異なる。詳細は各制度の公募要領を確認すること。

予算枠が枯渇する前に申請するにはどうすればよいですか?

予算枠の残額は岩手県からリアルタイムで公表されていない。締切日まで待つリスクを取るより、申請要件を満たした時点で速やかに提出するのが安全だ。過去に類似の大型支援金が締切前に予算枠に達して受付を終了した事例がある。オンライン申請はWEB申請特設ページから手続きできる。

パートナーシップ構築宣言はどこで行いますか?

内閣府が運営する「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト(biz.go.jp/parners/)から手続きができる。宣言内容(自社の取引慣行の見直し等)を入力してオンラインで提出する。データベース反映に数日かかることがあるため、補助金申請期限の1〜2週間前には完了させておくこと。

参考文献