「補助金と税制優遇のダブル活用」って、最近よくSNSでも見かけるようになりましたよね。うちで実際に取った時の話なんですけど、IT導入補助金と中小企業経営強化税制を併用した際に圧縮記帳の取得価額基準で痛い目を見た経験があって。それ以来、補助金と税制の「組み合わせ」には相当神経を使うようになりました。
今回のテーマは、研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)とGo-Tech事業・ものづくり補助金の併用です。Xでも「AI補助金と税制優遇コンボ」みたいな投稿が増えてますが、研究開発系の補助金と試験研究費の税額控除を組み合わせるときの落とし穴は、正直あまり語られていません。
そもそも研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)とは
研究開発税制は、青色申告法人が支出した試験研究費の一定割合を法人税額から直接控除できる制度です。中小企業向けには「中小企業技術基盤強化税制」(租税特別措置法第42条の4第4項)が用意されており、控除率は原則12%、増減試験研究費割合に応じて最大17%まで上がります。
控除上限は法人税額の25%(一定条件で最大35%)。令和8年度税制改正では3年間延長され、2029年3月31日まで適用可能です。さらに新設の「戦略技術領域型」も加わり、制度は4本立てになっています。
パターン1:補助金受領額を試験研究費から引き忘れる
これが一番多い計算ミスです。試験研究費の額は、補助金等の受領額を差し引いた純額で計算しなければなりません。
たとえばGo-Tech事業で研究開発費1,500万円のうち補助率2/3で1,000万円の交付を受けた場合、税額控除の対象となる試験研究費は1,500万円ではなく500万円です。
朝カフェで公募要領を読んでいるときに気づいたんですが、Go-Tech事業の公募要領には「他の税制優遇との関係」について一切記載がありません。補助金側の書類と税務申告は完全に別ルートで進むため、税理士に補助金の交付決定通知書を渡し忘れると、1,500万円まるごと試験研究費に計上されてしまうケースがあります。
国税庁の通達(措置法通達42の4(1)-2)でも、「他の者から支払を受けた金額」は試験研究費から控除すると明記されています。税務調査で否認されれば、過少申告加算税と延滞税が発生します。
対策
- 補助金の交付決定通知書と確定通知書のコピーを、法人税申告書類と一緒に税理士へ必ず共有する
- テンプレで時短すると効果的で、うちでは「補助金×税制チェックシート」をNotionで作って、交付決定日・確定日・受領日・試験研究費との対応表を管理しています
パターン2:比較試験研究費の「3年平均」が補助金年度で歪む
中小企業技術基盤強化税制の控除率は、増減試験研究費割合(当年度の試験研究費と過去3年平均=比較試験研究費の比較)によって変動します。
ここで問題になるのが、補助金を受領した年度です。たとえば前期にものづくり補助金で大型の研究開発設備を導入し、補助金分を差し引いた試験研究費が500万円だったとします。翌期に補助金なしで同規模の研究開発費1,500万円を自己資金で支出した場合、増減試験研究費割合は大幅なプラスになります。
一見有利に見えますが、その翌々期に試験研究費が通常水準(800万円程度)に戻ると、比較試験研究費の3年平均に「補助金で圧縮された500万円」が含まれているため、増減割合がマイナスに転じる可能性があります。令和8年度改正では増減割合がマイナスの場合の控除率計算が見直され、下限(旧1%)が撤廃されました。つまり、控除率が1%を下回るケースも出てきます。
対策
- 補助金を受領する年度の前後3年間の試験研究費を、補助金控除後の金額でシミュレーションしておく
- Go-Tech事業のように補助率2/3と高い制度では、比較試験研究費への影響が特に大きい
パターン3:圧縮記帳と試験研究費の控除を混同する
補助金で取得した研究開発設備に圧縮記帳を適用すると、その設備の取得価額(=減価償却の基礎)が圧縮されます。一方、試験研究費の税額控除における「補助金受領額の控除」は、圧縮記帳とは別の計算です。
よくある誤解は「圧縮記帳で取得価額を下げたから、試験研究費からの補助金控除は不要」というもの。これは完全に間違いです。圧縮記帳は減価償却費の計算に影響し、試験研究費の補助金控除は税額控除の計算に影響します。両者は別々に処理する必要があります。
さらに、圧縮記帳後の減価償却費を試験研究費に含める場合、その金額は圧縮後の取得価額ベースとなるため、結果的に試験研究費の額自体も小さくなります。補助金受領額の控除と二重に減額される構造を理解しておかないと、税額控除の見積もりが大幅にズレます。
対策
- 「補助金受領額の試験研究費からの控除」と「圧縮記帳による取得価額の圧縮」は別の論点として整理する
- 研究開発設備の場合、圧縮記帳をしない選択肢も含めて税理士とシミュレーションすべき(これは以前IT導入補助金で経営強化税制の取得価額基準を割った経験から学んだ教訓です)
Go-Tech事業・ものづくり補助金との併用で特に注意すべきポイント
Go-Tech事業は補助率2/3と高く、かつ研究開発が主目的のため、試験研究費の税額控除との併用を検討する企業が多い制度です。公募要領を3回読んでみたら、Go-Tech事業には「税制優遇との併用に関する注意書き」がないことに気づきます。これは補助金側の管轄(中小企業庁・NEDO)と税制側の管轄(国税庁・経産省)が異なるためです。
ものづくり補助金も同様で、研究開発型(グリーン枠等)で採択された場合、設備投資費用の一部が試験研究費に該当する可能性があります。しかし、ものづくり補助金の事務局は税務処理についてノータッチです。
補助金の申請書と税務申告書を「別々の世界」として処理すると、計算ミスが起きる。これが今回の3つのパターンに共通する構造です。
FAQ
Q1. 研究開発税制は個人事業主でも使えますか?
いいえ、研究開発税制(試験研究費の税額控除)は法人税の制度です。個人事業主の所得税には適用されません。法人成りを検討している研究開発型の事業者は、この税制の適用可否も判断材料に含めるとよいでしょう。
Q2. 補助金の交付決定を受けたが、まだ入金されていない年度の試験研究費はどう計算しますか?
試験研究費から控除すべき「補助金等の額」は、原則として交付決定等により金額が確定した事業年度で控除します。実際の入金タイミングではなく、交付決定通知書の日付が基準になります。精算払いで金額が変動する場合は、確定額が判明した時点で調整が必要です。
Q3. Go-Tech事業と中小企業技術基盤強化税制を併用する場合、控除率は変わりますか?
控除率自体は変わりませんが、控除の対象となる試験研究費の額が小さくなるため、結果的に控除額は減ります。Go-Tech事業の補助率は2/3と高いため、1,500万円の研究開発費でも控除対象は500万円となり、控除額は最大でも85万円(500万円×17%)程度にとどまります。
Q4. 特別試験研究費税額控除(オープンイノベーション型)との併用はできますか?
大学や公設試験研究機関との共同研究費用は「特別試験研究費税額控除」(控除率20〜30%)の対象になる可能性があります。ただし、同一の試験研究費を中小企業技術基盤強化税制と特別試験研究費税額控除の両方で控除することはできません。Go-Tech事業で公設試と連携する場合、どちらの制度を適用するか事前に税理士と検討してください。
Q5. 令和8年度改正で何が変わりましたか?
主な変更点は3つです。(1)中小企業技術基盤強化税制が3年延長(2029年3月まで)、(2)増減試験研究費割合がマイナスの場合の控除率の下限(旧1%)が撤廃、(3)新たに「戦略技術領域型」が創設。特に(2)は、補助金受領年度の翌々期に控除率が1%未満になるリスクがあるため、本記事のパターン2に直結します。
まとめ
研究開発税制と補助金の併用は中小企業にとって強力な武器ですが、「補助金受領額の控除忘れ」「比較試験研究費の歪み」「圧縮記帳との混同」の3つの計算ミスが頻発しています。補助金の申請段階から税理士を巻き込み、交付決定通知書の共有と3年間のシミュレーションをセットで進めることが重要です。






