公庫の創業融資、審査通過率は約50%——落ちる半分の共通点
日本政策金融公庫の創業融資の審査通過率は、一般的に50〜60%と言われている。つまり、申し込んだ方の約半数は審査に通らない。
30年、東北で創業支援をやってきて、審査に落ちた方の創業計画書を見せてもらう機会は数え切れないほどある。自己資金や信用情報の問題もあるが、実は最も多いのが「売上の根拠が書けていない」というパターンだ。
公庫の創業計画書には「8 事業の見通し(月平均)」という欄がある。ここに「創業当初」と「軌道に乗った後」の売上高・売上原価・経費・利益を書くのだが、問題はその右側にある「売上高、売上原価、経費の計算の根拠」の記入欄だ。
ここに何を書くかで、審査の半分が決まると言っても過言ではない。
朝、地元の商店街を散歩していると、開業準備中の方と立ち話になることがある。「公庫に出す計画書、どう書けばいいですか」と聞かれるたびに、私はまず「売上の根拠、何で出しますか」と返す。ここが曖昧な方は、ほぼ間違いなく苦労する。
パターン1:客数×客単価の数字が「希望的観測」で積み上がっている
最も多いパターンがこれだ。
たとえば飲食店の創業計画書で、「客単価1,500円×1日30人×25日=月商112.5万円」と書いてある。数字自体はきれいに見えるが、「1日30人」の根拠がどこにもない。
公庫の審査担当は全国の創業案件を見ている。東北の人口3万人の町で「1日30人」は多いのか少ないのか、彼らは肌感覚で知っている。根拠なき数字は一瞬で見抜かれる。
以前、ある30代の女性が東北の小さな町で飲食店を開業した際の話がある。前任のコンサルが書いた事業計画は見栄えが綺麗で、補助金も1,000万円採択された。だがPLを見たら、売上前提が地元商圏で到底成り立たない数字だった。半年でキャッシュが枯渇し、信金に返済猶予を交渉したが、結局2年で閉店した。計画書の売上欄に「地元の実態」がなかったことが、すべての始まりだった。
対策:jSTAT MAPで候補地の昼間人口を確認する
まずやるべきは、総務省が無料で提供しているjSTAT MAPで、出店候補地の半径500m〜1kmの昼間人口・夜間人口を確認することだ。所要時間は約1時間。
たとえば昼間人口が2,000人の地域で「1日30人の来客」は商圏の1.5%にあたる。飲食店の一般的な商圏内シェアと照らして妥当かどうか、客観的に検証できる。この数字を創業計画書の売上根拠欄に「jSTAT MAPによる候補地半径1km昼間人口:2,000人。来客数は商圏人口の1.5%と想定」と書くだけで、審査担当者の見方はまったく変わる。
パターン2:競合分析が「業界の市場規模」で終わっている
2つ目に多いのが、競合分析の粒度が粗すぎるパターンだ。
ネットで調べた「国内の○○市場は○兆円規模で、年○%の成長率」というマクロデータを貼り付けて終わり。審査担当者が知りたいのは、「あなたの店の半径1km以内に同業者が何軒あって、それぞれどんな価格帯で、どれくらい客が入っているか」だ。
まずは現場を見させてもらってから——これは私が30年間、相談者に最初にお伝えしていることだ。商圏データはjSTAT MAPで取れるが、競合の実態はGoogleマップでは分からない。半日かけて、半径1km以内の同業者を実際に足で歩いて見て回る。店の外観、メニュー看板、駐車場の埋まり具合、昼時の客の入り。これをA4のメモにまとめるだけで、計画書の説得力は段違いになる。
競合実地調査メモの書き方
最低限、以下の項目を記録する。
- 店名・所在地(候補地からの距離も記載)
- 価格帯(メニュー表や看板から確認)
- 客層(年齢層・性別・一人客か家族連れか)
- 混雑状況(曜日・時間帯別に可能な範囲で)
- 自店との差別化ポイント(この競合にないサービス・商品は何か)
これを3〜5軒分揃えれば、創業計画書の競合分析として十分な厚みが出る。
パターン3:経費の積算が甘く「利益が出ない構造」が見える
3つ目は、売上ではなく経費側の問題だ。
創業計画書の「経費」欄に家賃と人件費だけ書いて、水道光熱費、通信費、消耗品費、広告宣伝費、保険料などが丸ごと抜けているケースが少なくない。あるいは、これらの金額が実態と大きく乖離している。
審査担当者は、売上から原価と経費を引いた利益で、融資の返済が回るかどうかを見ている。経費が過少だと利益が大きく見えるが、審査では「この数字は現実的か」が厳しくチェックされる。
経費の積算は「見積書」と「類似業種のデータ」で裏付ける
対策は2つある。
- 設備資金は見積書を取る:内装工事、厨房機器、什器備品など、すべて業者の見積書を添付する。「だいたいこれくらい」では通らない。
- 運転資金は類似業種の経費率を参照する:日本政策金融公庫が公表している「小企業の経営指標」には、業種別の売上高に対する経費率が掲載されている。自分の計画がこの平均と大きくずれていないか確認する。
特に注意すべきは人件費だ。開業当初は自分一人でやるつもりでも、「軌道に乗った後」の欄ではパート雇用を想定するケースが多い。その場合、最低賃金×想定労働時間で計算し、社会保険料の事業主負担分も忘れずに計上する。
創業計画書を書く前に揃えるべき「3点セット」
30年の経験を体系化すると、公庫に行く前に個人事業主が自力で揃えるべきものは以下の3つに集約される。
| 準備項目 | 所要時間の目安 | 使うもの |
|---|---|---|
| ①jSTAT MAPで商圏データ取得 | 約1時間 | PC(e-Statアカウント要登録) |
| ②半径1km以内の競合実地調査 | 半日 | 足とメモ帳 |
| ③売上根拠の骨格メモ(A4 1〜2枚) | 約30分 | ①②の結果を整理 |
この3点セットを持って公庫の担当者に相談すれば、面談が「計画のダメ出し」ではなく「具体的なブラッシュアップ」の場になる。商工会さんに聞いてみると、この3点を事前に揃えてきた方は創業計画書の質が格段に違うという話をよく伺う。
信金への同時相談も忘れずに
最後にもうひとつ。公庫だけで勝負しようとする方が多いが、信金担当者と先に握っておくのが筋だ。
公庫の創業融資と信金の創業融資は同時に申し込める。事業計画の数字は1本化しておくことが鉄則だが、窓口は2つ持っておいた方が資金調達の選択肢が広がる。信金によっては自治体の利子補給制度の対象となる融資メニューもあるので、金利負担を大幅に下げられる可能性もある。
ただし、公庫用と信金用で別々の計画書を作ると、数字の不整合で両方否決されるリスクがある。骨格メモを1本化して、それをベースに公庫フォーマットと信金向けのフォーマットに展開するのが正しい段取りだ。
よくある質問(FAQ)
Q1. 創業計画書は自分で書くべきですか、専門家に頼むべきですか?
自分の言葉で書くことを強くお勧めする。専門家やコンサルに相談すること自体は有効だが、丸投げは2つの意味で危険だ。第一に、公庫の面談では計画書の内容について質疑がある。自分で書いていなければ答えられない。第二に、採択・融資実行後の経営は自分自身で行う。計画の数字を理解していなければ、事業運営で判断を誤る。
Q2. jSTAT MAPを使ったことがないのですが、難しいですか?
e-Stat(政府統計の総合窓口)のアカウントを作成すれば無料で使える。操作はそこまで難しくない。候補地を地図上で指定し、半径を設定してリッチレポートを出力すれば、昼間人口・夜間人口・世帯数・年齢構成が一覧で表示される。中小機構の「ここからアプリ」のサイトにも使い方の解説がある。
Q3. 新創業融資制度が廃止されたと聞きましたが、創業融資はまだ受けられますか?
2024年4月に旧「新創業融資制度」は廃止されたが、その要素は「新規開業・スタートアップ支援資金」に引き継がれている。無担保・無保証での融資枠も拡充されており、制度としてはむしろ使いやすくなった面がある。ただし、自己資金要件が「制度上」撤廃されても、審査では自己資金比率が加点要因のままであることに注意が必要だ。融資希望額の3割程度の自己資金を目安に準備することを勧める。
Q4. 創業計画書を出す前に商工会に相談した方がいいですか?
公庫への相談と並行して、商工会にも相談することを勧める。特に小規模事業者持続化補助金(創業枠)の利用も検討しているなら、商工会との接点は早めに作っておくべきだ。商工会は事業計画のブラッシュアップだけでなく、特定創業支援等事業の証明書発行にも関わる。公庫・信金・商工会の三者に同時に相談を始めるのが、創業準備の正しい段取りだ。
まとめ
日本政策金融公庫の創業計画書で審査に落ちる個人事業主の多くは、「売上の根拠」が書けていない。希望的観測の客数、マクロだけの競合分析、甘い経費積算——この3つのパターンを避けるだけで、審査通過の確率は大きく変わる。
やるべきことはシンプルだ。jSTAT MAPで商圏データを取り、競合を足で歩いて調べ、その結果をA4の骨格メモにまとめる。この3点セットを持って公庫と信金に同時に相談する。
補助金もそうだが、計画書は「採択されるため」に書くものではない。自分の事業が地元で本当にやっていけるかを、自分自身で検証するために書くものだ。根拠のある数字を自分の手で作る過程こそが、創業の第一歩になる。
参考文献
- 日本政策金融公庫「創業計画の書き方」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/ - 日本政策金融公庫「各種書式ダウンロード(国民生活事業)」
https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html - 総務省統計局「地理情報システム jSTAT MAP」
https://www.e-stat.go.jp/gis/gislp/






