「採択されてから動けばいい」——補助金の世界で何度この言葉を聞いたか数えきれません。公募要領を3回読んでみたら、この考え方がいかに危険かが分かります。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(以下「ものづくり補助金」)の令和7年度第1回公募は2026年8月31日に開始、締切は2026年10月30日です。革新的新製品・サービス枠で申請を狙う研究開発型の中小企業に向けて、今回は「申請書を書く前に公設試験研究機関・外注先・弁理士へ一本電話したか」という点を掘り下げます。

うちで実際に取った時の話なんですけど——2021年のものづくり補助金で、採択後に試作用の特注治具メーカーに連絡したら「半年待ちです」と言われて血の気が引いた経験があります。そこから私は、補助金申請書を書く前に必ずサプライチェーンとリードタイムの確認をするというルールを徹底するようになりました。今回の記事では、同じ轍を踏む企業がなくなるよう、採択後の補助事業期間10か月で「詰まる3パターン」を具体的に解説します。

なぜ「10か月」という数字が重要なのか

ものづくり補助金の補助事業実施期間は交付決定日から最長10か月と定められています。スケジュールを逆算すると以下のようになります。

イベント想定時期累計日数
公募締切2026年10月30日
採択発表2026年12月中旬〜下旬約50日後
交付申請・交付決定2027年2月〜3月採択後約60〜90日
補助事業実施期間 開始2027年3月ごろ
補助事業実施期間 終了2028年1月ごろ交付決定から10か月

つまり実質的に研究開発・試作・実証に使える期間は「2027年3月〜2028年1月」の約10か月です。交付決定前に着手した費用は補助対象外というルールが厳格に適用されるため、交付決定を待ってから外注先に発注する必要があります。このタイミングで準備不足だと、以下の3パターンで詰まります。

パターン1:公設試験研究機関の試験枠が「交付決定後3か月分まるごと埋まっていた」

研究開発型の申請でよく使われる公設試(各都道府県の工業技術センター・産業技術センターなど)の試験設備——振動試験機、恒温恒湿槽、EMC測定装置、引張試験機など——は、予約が集中する機器だと3〜6か月待ちになることが珍しくありません。

公設試の予約受付は多くの場合「1〜3か月前から」で、交付決定の翌月に電話しても「その時期はすでに埋まっています」という返答が来るケースが実際に起きています。2027年3月に交付決定した場合、振動試験機が5月以降しか取れないとなると、その結果を受けて設計変更→再試作→再試験というサイクルが回せる余裕はほぼなくなります。

対策:申請書を書く前に公設試へ電話し、対象設備の直近の空き状況と予約開始タイミングを確認する。採択されてから予約するのでなく、採択見込みで事前に「採択後すぐ予約したい旨」を担当者に伝えておくだけで動きが変わります。また、公設試によっては「採択通知書のコピーを添付すれば交付決定前でも仮予約できる」制度を設けているところもあります。事前確認でこの情報を得るかどうかが、10か月を有効活用できるかの分岐点になります。

パターン2:外注試作品(特注金型・治具・専用装置)のリードタイムが「半年以上」

革新的新製品・サービス枠は、文字通り「まだ市場に存在しない製品・サービス」の開発を対象にしています。既製品の転用ではなく、専用設計の試作品・金型・治具・専用装置が必要になるケースが大半です。こうした特注品のリードタイムは通常3〜6か月、複雑なものは8か月以上になることもあります。

ものづくり補助金の外注費は補助対象経費に含まれますが、交付決定前の発注・着手は対象外です。2027年3月に交付決定して発注した場合、納品が9月以降になれば、試作品を使った実証・評価・改善にかけられる時間は実質2〜3か月しか残りません。研究開発型のプロジェクトでは、初回試作で完成品が出ることはほぼなく、少なくとも2〜3回のイテレーションが必要です。それを2か月で回すのは物理的に困難です。

対策:申請書の作成段階で外注先候補に「このスペックでの製作期間と最短着手可能時期」を見積もってもらう。正式発注は交付決定後ですが、見積もり取得と事前打ち合わせは補助事業期間前でも問題ありません。見積書は申請書の添付資料としても活用できます。外注先が複数候補ある場合は、リードタイムの短い業者を優先的にリスト化しておきましょう。

パターン3:「採択されてから弁理士を探そう」→知財出願が補助事業期間内に間に合わない

ものづくり補助金の知財費として認められるのは弁理士手続代行費用(特許出願の明細書作成・手続代行)であり、特許庁に納める手数料(印紙代)は補助対象外です。この区分を知らずに「特許の費用が出る」と思い込んでいる申請者は非常に多い。

しかしより大きな問題は、特許出願の準備期間です。弁理士と契約してから特許出願までのプロセスは、①先行技術調査(1〜2か月)、②明細書・図面の作成(1〜3か月)、③出願書類の最終確認(2〜4週間)という流れが一般的で、合計2〜4か月はかかります。しかも補助事業期間中に開発した技術の特許は、その技術が具体的に固まった後でないと出願内容を確定できません。

補助事業期間の後半(2027年10月〜2028年1月)に技術が固まってから弁理士を探し始めると、補助事業期間の終了(2028年1月)までに出願が完了しないケースが発生します。補助事業期間内に弁理士手続代行費用の支払いが完了していないと、知財費は補助対象外になります。

対策:申請書を書く前に弁理士に相談し、技術の概要説明→先行技術調査の大まかな見通しを確認しておく。採択前に弁理士と秘密保持契約を結んで相談することは何ら問題ありません。「この開発が完了すると仮定した場合、出願準備に何か月かかるか」を事前に把握することで、スケジュール上のリスクを把握できます。また、弁理士への費用は正式な補助事業開始後(交付決定後)からカウントされるため、採択前の相談費用は自己負担です。この点も含めて予算計画に組み込んでおく必要があります。

申請書作成前の確認チェックリスト(革新的新製品・サービス枠)

確認先確認事項推奨タイミング
公設試験研究機関対象設備の空き状況、予約開始時期、採択後仮予約の可否申請書作成2〜3か月前
外注先候補特注品のリードタイム、見積もり取得、着手可能時期申請書作成1〜2か月前
弁理士先行技術調査の見通し、出願準備期間の目安、秘密保持契約の締結申請書作成1〜2か月前
交付決定前着手禁止ルール事前打ち合わせ・見積もりと「着手」の線引き確認(事務局へ確認)申請書提出前

FAQ

Q1. 公設試の試験費は補助対象経費に含まれますか?
A. はい、ものづくり補助金の経費区分では「外注費」または「技術導入費」として計上できるケースがあります。ただし公設試によって費用体系が異なるため、申請前に利用する公設試の費用と補助対象区分の整合性を事務局・担当者に確認してください。
Q2. 採択前に外注先と打ち合わせをすることは「交付決定前着手」に該当しますか?
A. 一般的に、見積もり取得・仕様打ち合わせ・秘密保持契約の締結は「着手」に該当しないとされています。ただし、発注書の発行・材料の購入・製作開始は「着手」に該当するため、交付決定後まで行わないことが原則です。判断に迷う場合は必ず事務局に個別確認してください。
Q3. 知財費として認められる弁理士費用の上限はありますか?
A. ものづくり補助金の補助上限は枠・類型によって異なります(革新的新製品・サービス枠は最大5,000万円が上限)。知財費単体の上限は公募要領では特に定められていませんが、補助対象経費全体の中で合理的な積算であることが必要です。過大な計上は審査で指摘される可能性があります。
Q4. 補助事業期間の10か月を延長することはできますか?
A. 原則として10か月ですが、やむを得ない事情がある場合は事務局への相談・承認を経て延長が認められることがあります。ただし延長が保証されるわけではなく、当初のスケジュールで完了できる計画を立てることが前提です。
Q5. 今回の第1回公募での採択率はどの程度を見込めばよいですか?
A. 過去のものづくり補助金の採択率は概ね40〜60%台で推移しています(枠・年度によって変動)。革新的新製品・サービス枠は技術的優位性の説明が厳しく問われるため、採択ハードルは他の枠より高い傾向があります。採択率は申請の質に大きく左右されるため、GビズIDの事前取得・jGrantsへの入力・加点項目の確認を早めに済ませることを強く推奨します。

まとめ

公募要領を3回読んでみたら、ものづくり補助金で本当に怖いのは「採択されないこと」ではなく「採択されたのに10か月以内に事業が完遂できないこと」だと分かります。採択後の困難を事前に回避するためのアクションは、すべて申請書を書く前の段階で完結します。公設試・外注先・弁理士への一本の電話が、補助事業の成否を分けます。

ものづくり補助金第1回の締切は2026年10月30日。申請を検討している方は、今すぐサプライチェーンの事前確認を始めてください。

参考資料

  1. 中小企業庁「令和7年度ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(第1回)」(2026年8月31日公開)
  2. 独立行政法人中小企業基盤整備機構「ものづくり補助金総合サイト(申請・採択・交付・実績報告の手続き案内)」
  3. 特許庁「中小企業のための知財活用ガイドブック——補助金活用と特許出願タイミングの最適化」