「法人で開業したほうが補助金に有利ですか?」——30年の創業支援の中で、この質問は本当に多く受けます。結論から言えば、補助金制度そのものは法人・個人事業主を区別していないケースがほとんどです。しかし、現場で見ていると「法人か個人事業主か」の選択が、補助金の実質的な有利・不利を生む場面は確かにあります。

朝の散歩で商店街を歩いていると、開業準備中の方から「株式会社にしたほうがいいですか?」と聞かれることがあります。まずは現場を見させてもらってから、とお答えするのですが、その前に知っておいてほしい5つの比較ポイントをまとめました。

観点1:登録免許税の軽減——法人設立なら最大7.5万円の差

個人事業主には登録免許税はかかりません。開業届を税務署に出すだけで、費用はゼロです。一方、法人設立には登録免許税が必要で、株式会社なら最低15万円、合同会社なら6万円がかかります。

ここで効いてくるのが特定創業支援等事業の証明書です。この証明書を法人登記前に取得すれば、登録免許税が半額になります。株式会社なら15万円→7.5万円、合同会社なら6万円→3万円です。

個人事業主にはそもそも登録免許税がないため、この軽減メリットは法人設立者だけのものです。ただし、証明書の本当の価値は登録免許税の軽減ではなく、持続化補助金(創業型)の申請資格公庫金利の引き下げにあります。ここは法人・個人事業主ともに共通のメリットです。

観点2:持続化補助金(創業型)の補助上限——法人も個人も同条件

小規模事業者持続化補助金(創業型)の補助上限は200万円(補助率2/3)です。インボイス特例が適用されれば250万円まで引き上がります。この上限額・補助率に、法人か個人事業主かの違いはありません。

ただし「小規模事業者」の定義には注意が必要です。商業・サービス業は常時使用する従業員5人以下、製造業その他は20人以下が条件です。法人の場合、代表者(役員)は従業員数に含まれませんが、個人事業主本人も従業員数には含まれません。この点も差はありません。

私が30年見てきた中で、法人と個人事業主で採択率に有意な差があると感じたことはありません。審査員が見ているのは事業形態ではなく、事業計画の中身です。商工会さんに聞いてみると、採択・不採択を分けるのは「地元商圏データに基づいた売上根拠があるかどうか」だと口を揃えます。

観点3:公庫の創業融資審査——法人・個人事業主で大差なし

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、法人・個人事業主のどちらでも申請できます。最大融資額7,200万円、原則無担保・無保証という条件も同じです。2024年4月の制度改正で自己資金要件も形式上は撤廃されています。

法人で申請する場合は履歴事項全部証明書(登記簿謄本)が追加で必要になりますが、審査のスコアリングに法人・個人の区別で加点・減点がつくわけではありません。

ただし、信金との同時並行申請では違いが出ます。以前、合同会社でカフェを開業しようとした方の創業融資を支援したことがあります。公庫は通ったのですが、信金では合同会社の「所有と経営の一致」構造を理由に、代表社員個人の保証を条件にされました。信金担当者と先に握っておくのが筋だと痛感した案件です。法人設立前に信金へ事前相談し、融資条件の見通しを立てることが重要です。

観点4:補助金の経費按分——法人のほうがシンプル

個人事業主が補助金で設備を導入する場合、事業用と私用の按分が問題になることがあります。たとえば自宅兼事務所で使うパソコンやプリンターは、事業使用割合を証明する必要があります。

法人の場合、法人名義で購入した設備は原則100%事業用として扱われるため、この按分の手間がなくなります。実績報告書の作成が格段にシンプルになるのです。

飲食店の改装費で持続化補助金を使うケースでは、この差はほとんど出ません。しかしIT系やクリエイティブ系の創業者で、自宅を作業場にしている方は、法人化して事務所を分けたほうが経費処理がクリアになります。

観点5:信金の信用評価——法人は「見える化」で一歩有利

補助金と融資を同時に設計する場面では、信金の評価が重要になります。信金の融資審査では、法人のほうが決算書(BS・PL)が整備されているため、事業の実態を評価しやすいという傾向があります。

個人事業主の場合、確定申告書と青色申告決算書が評価資料になりますが、事業と個人の資産が混在しやすく、信金担当者が事業の収益性を読み取りにくいことがあります。

ただし、これは「法人のほうが審査に通りやすい」という意味ではありません。年商500万円未満の小さな事業であれば、法人維持コスト(法人住民税の均等割:年間約7万円、決算申告の税理士費用:年間15〜30万円)が利益を圧迫するリスクのほうが大きいです。

松島の結論:「補助金で有利だから法人にする」は判断基準が逆

30年の現場を振り返ると、「補助金に有利だから」という理由だけで法人設立した方で、事業がうまくいったケースはほとんどありません。

以前、見栄えだけ綺麗な事業計画で1,000万円の補助金を採択された個人飲食店主がいました。前任のコンサルが書いた計画書は綺麗でしたが、PLを見たら売上前提が地元商圏で過大だった。結局2年で閉店。補助金は「採択がゴール」になった瞬間、事業は終わるのです。法人か個人かという事業形態より、事業計画の中身のほうがよほど大事です。

判断基準はシンプルです。

  • 年商1,000万円未満・従業員なし・自宅開業→ 個人事業主でスタートし、売上が伸びてから法人成りを検討
  • 年商1,000万円以上が見込める・従業員を雇う・店舗を借りる→ 最初から法人設立を検討(登録免許税の軽減を使う)
  • どちらか迷う→ まず信金と商工会に事前相談し、融資条件と補助金スケジュールを確認してから判断

補助金は事業を後押しする「マッチ」です。薪を用意するのは事業主自身。事業形態の選択で迷う時間があるなら、まずは事業計画の骨格メモ(商圏データ・競合実地調査・動機200文字)を自分の言葉で書くことから始めてください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 個人事業主から法人成りした場合、持続化補助金(創業型)は再度申請できますか?

法人成り後の設立日が公募締切日から3年以内であれば、創業型に申請できます。ただし、個人事業主として既に同一の補助事業で採択されている場合は、同じ内容での再申請はできません。異なる販路開拓の取り組みであれば申請可能です。

Q2. 合同会社と株式会社で補助金の採択率に差はありますか?

持続化補助金・ものづくり補助金ともに、合同会社と株式会社で採択率に差はありません。審査員が見るのは事業計画の内容であり、法人形態ではありません。ただし、信金の融資審査では合同会社のほうが個人保証を求められやすい傾向があるため、補助金と融資を同時設計する場合は事前に信金へ相談してください。

Q3. 個人事業主のまま補助金を使って設備投資した後、法人成りしたら補助金の返還が必要ですか?

補助事業期間中に法人成りする場合は、事前に「事業承継届」を提出する必要があります。届出なく法人成りすると、補助金の対象者が変わったとみなされ、返還を求められる可能性があります。補助事業完了後であっても、処分制限期間内(通常5年間)は設備の譲渡・廃棄に承認が必要です。法人成りのタイミングは商工会と相談してから決めてください。

Q4. 特定創業支援等事業の証明書は、個人事業主と法人のどちらで取得しても同じ効力がありますか?

はい、証明書の効力に個人・法人の区別はありません。個人事業主として証明書を取得した後に法人設立すれば、登録免許税の軽減も受けられます。証明書取得→法人登記の順序が鉄則です。登記後に証明書を取得しても登録免許税の軽減は遡及適用されません。

Q5. 法人設立の費用を補助金で賄うことはできますか?

登録免許税、定款認証手数料、司法書士報酬などの法人設立費用は、持続化補助金の補助対象外です。法人設立そのものにかかる費用は自己負担になります。補助金で賄えるのは、あくまで販路開拓のための設備費・広報費・委託費などです。法人設立費用は特定創業支援等事業の証明書による軽減を活用してください。

参考文献