最近、Xのタイムラインで「AIで事業計画書を自動生成するツールがリリースされた」という投稿がバズっていました。研究開発系の補助金――Go-Tech事業やものづくり補助金の事業化計画をChatGPTやAI生成ツールで下書きする中小企業が増えています。

うちで実際に取った時の話なんですけど、Go-Tech事業の事業化計画を書くときに「AIにたたき台を出させてみよう」と試したことがあります。結果、出てきた文章は一見キレイなのに、審査項目で求められる「定量根拠」がごっそり抜けていることに気づきました。公募要領を3回読んでみたら、審査員が見ているのは文章の美しさではなく、数字の裏づけだったんです。

この記事では、研究開発補助金(Go-Tech事業・ものづくり補助金)の事業化計画をAIで下書きした中小企業が不採択になる「定量根拠ゼロ」の3パターンを、公募要領の審査項目と突き合わせて解説します。

前提:研究開発補助金の「事業化面」審査で何が問われるのか

Go-Tech事業の公募要領(令和8年度版)では、審査項目の「事業化面」として以下が明記されています。

  • 研究開発成果が事業化された場合、どの程度の経済効果が期待できるか
  • 市場のニーズを捉えているか
  • コスト面において市場導入の可能性があるか

ものづくり補助金(第23次以降)でも、事業化計画には付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)の年率3%以上向上給与支給総額の年率3.5%以上増加の定量目標を記載し、その算出根拠を示す必要があります。

つまり、「何を作るか」だけでなく「いくら稼げるか、なぜその数字なのか」を審査員に納得させる構造が求められているわけです。

パターン1:付加価値額の「年率3%根拠」がAI任せの丸い数字になっている

AIに「付加価値額が年率3%以上向上する事業化計画を書いて」とプロンプトを入れると、たいてい「初年度1,000万円→2年目1,030万円→3年目1,061万円…」と、きれいに3%ずつ上がる数字が出てきます。

これ、審査員が見たら一発でわかります。

公募要領を3回読んでみたら、審査項目に「算出根拠の妥当性」が含まれていることに気づくはずです。審査員が知りたいのは、なぜ3%上がるのかの因果構造です。具体的には:

  • 新製品の単価 × 見込み販売数量 × 粗利率 → 営業利益への寄与額
  • 研究開発による工程短縮 → 人件費の内部振替額
  • 設備投資額の減価償却スケジュール

この3要素を積み上げて初めて「年率3%の根拠」になります。AIは公開データの平均値から「それっぽい数字」を出すだけなので、自社の原価構造や取引先との価格交渉の実態は反映されません。

対策:自社の直近3期の決算書から逆算する

テンプレで時短すると、ここが楽になります。うちでは Notion に「付加価値額シミュレーション」のテンプレを作っていて、直近3期の営業利益・人件費・減価償却費を入力すると、目標付加価値額に到達するために必要な売上増加額が自動計算される仕組みにしています。AIに出させるのは文章の骨格だけ、数字は必ず自社の決算書から引っ張る。この切り分けがポイントです。

パターン2:市場規模を「AI検索の二次データ」だけで書いている

Go-Tech事業の事業化面では「市場のニーズを捉えているか」が審査されます。AIに市場規模を調べさせると、よくある大手リサーチ会社のレポートの数字(「〇〇市場は2030年に△△兆円規模」)を引用してきます。

問題は、その市場規模と自社の研究開発テーマの接続が切れていることです。

たとえば、自社が特殊コーティング技術の研究開発をしているのに、AIが出してくる市場規模は「表面処理市場全体」の数字。審査員からすれば「で、御社の技術はこの市場の何%を獲れるの?」という話になります。

TAM→SAM→SOMの3段階で絞り込む

朝のカフェで公募要領を読みながら、審査員目線で必要な市場データを整理すると、こうなります:

  1. TAM(Total Addressable Market):業界全体の市場規模(AI検索でOK)
  2. SAM(Serviceable Available Market):自社技術が対応可能な市場セグメント(業界団体の統計や公設試の技術レポートから)
  3. SOM(Serviceable Obtainable Market):5年以内に実際に獲得可能な売上規模(既存取引先へのヒアリング、見積依頼の実績から)

AIが出せるのはTAMまで。SAMとSOMは一次データ(取引先への照会、展示会での名刺交換数、試作品の評価レポート等)でしか埋められません。

朝はカフェで公募要領を読み込んで、午後は Notion でこの3段階のテンプレを整備する――そういう地道な作業が、審査員を納得させる事業化計画につながります。

パターン3:原価構造の「コスト競争力」をAIの一般論で済ませている

Go-Tech事業の審査では「コスト面において市場導入の可能性があるか」が問われます。ものづくり補助金でも、事業計画書の10ページ以内で原価構造を示す必要があります。

AIに原価計算を書かせると、「材料費30%、加工費40%、間接費30%」のような業界平均の比率が出てきます。しかし審査員が見ているのは:

  • 研究開発で実現する工程削減が、加工費のどの部分をいくら下げるのか
  • 試作段階の原価と量産段階の原価の差(スケールメリットの具体額)
  • 競合他社の既存製品と比べた価格優位性の定量比較

うちでものづくり補助金を申請したとき、業者選定理由書で「客観的根拠が不十分」と差戻しされた経験があります。あのとき学んだのは、審査員は「なぜその数字なのか」の一次ソースを必ず確認するということ。原価構造も同じで、「業界平均」ではなく「自社の試作実績」から数字を出す必要があります。

対策:試作段階の原価データを3点セットで整備する

  1. 材料の仕入単価(実際の発注書・見積書から)
  2. 加工時間の実測値(試作ログ・工程表から)
  3. 量産時の想定単価(設備メーカーの見積書、または公設試での試験データから)

この3点があれば、審査員に「コスト競争力がある」と示せます。AIにはこのデータの整理と文章化を手伝わせるのは有効ですが、データそのものはAIでは生成できないことを忘れないでください。

AIの「正しい使い方」:下書き→公募要領チェック→一次データ差し替え

AI活用を全否定しているわけではありません。うちでは以下のフローでAIを使っています:

  1. 骨格作成:AIに事業概要と技術の新規性の説明文を下書きさせる
  2. 公募要領チェック:出力された文章を公募要領の審査項目と突き合わせ、定量根拠が必要な箇所をマークする
  3. 一次データ差し替え:マークした箇所に自社の決算書・試作データ・取引先ヒアリング結果を埋め込む
  4. 整合性チェック:付加価値額の目標値と、市場規模→売上見込み→原価構造の数字が矛盾していないか検算する

このフローをテンプレ化しておけば、AIで時短しつつ、審査で落ちない事業化計画が書けます。

まとめ:AIは「文章力」を補うが「根拠力」は補えない

研究開発補助金の事業化計画で審査員が見ているのは、文章の巧さではなく数字の根拠です。AIは「それっぽい文章」を高速で生成しますが、以下の3つは自分で用意するしかありません。

  • 付加価値額の積み上げ根拠(自社決算書ベース)
  • 市場規模のSAM/SOM(一次データベース)
  • 原価構造のコスト優位性(試作実績ベース)

公募要領を3回読んでみたら、この3つが審査項目のどこに対応しているか、きっと見えてきます。AIをうまく使って時短しつつ、定量根拠は自分の手で埋める。それが研究開発補助金の採択率を上げる最短ルートです。

よくある質問(FAQ)

Q1. AIで作った事業化計画は審査員にバレますか?

A. 専門の審査員が見れば高い確率で判別できます。特に、定量根拠が業界平均の丸い数字だけで構成されている、自社固有の取引先名や試作データが一切出てこない、といった特徴は一目でわかります。AIを使うこと自体は問題ありませんが、一次データの差し替えが不可欠です。

Q2. Go-Tech事業とものづくり補助金で、事業化計画の書き方は違いますか?

A. 基本的な審査項目(技術面・事業化面・政策面)は共通ですが、Go-Tech事業は公設試や大学との連携が必須で、事業化計画にも共同体としての事業化能力が問われます。ものづくり補助金は10ページ制限があるため、定量根拠をより簡潔に示す必要があります。いずれも付加価値額の年率3%以上向上が共通の目標です。

Q3. 付加価値額のシミュレーションはどのツールで作るのが効率的ですか?

A. ExcelやGoogleスプレッドシートで十分ですが、うちではNotionのデータベースに「付加価値額シミュレーション」テンプレを作って使い回しています。直近3期の決算データを入れると、目標達成に必要な売上・利益の増加額が自動計算されるので、毎回ゼロから作る必要がありません。

Q4. 市場規模のSAM・SOMを出すための一次データはどう集めますか?

A. 最も手堅いのは既存取引先への直接ヒアリングです。展示会での名刺交換リストから見込み顧客数を算出する方法も有効です。公設試の技術相談窓口で業界動向を聞くのも、Go-Tech事業では連携先との関係構築を兼ねて一石二鳥です。

Q5. AIで下書きした事業化計画を士業や認定支援機関にチェックしてもらうべきですか?

A. ものづくり補助金は認定支援機関の確認書が必須です。Go-Tech事業でも、事業化計画の定量根拠は税理士や中小企業診断士にチェックしてもらうことを強く推奨します。特に付加価値額の算出方法は会計処理と直結するため、専門家の目が入ると精度が上がります。

参考文献