研究開発系の補助金を採択されて「やった、これで研究資金が確保できた」と喜んだのも束の間、確定申告のタイミングで税理士から「試験研究費の計算、これ間違ってますよ」と指摘されて冷や汗をかいた──そんな経験、うちだけじゃないと思うんですよね。
公募要領を3回読んでみたら、補助金側の書類と税務申告って完全に別ルートで進むんです。補助金の事務局は税務のことなんて教えてくれないし、税理士も補助金の経費ルールを細かく知っているとは限らない。この「2つの世界の断絶」が計算ミスの温床になっています。
この記事では、ものづくり補助金やGo-Tech事業などの研究開発補助金と、中小企業技術基盤強化税制(研究開発税制)を併用する際に中小企業が陥る3つの計算ミスを、公募要領と租税特別措置法の両面から体系化して解説します。
前提:研究開発税制(中小企業技術基盤強化税制)とは
中小企業技術基盤強化税制は、資本金1億円以下の中小企業が試験研究費を支出した場合、その一定割合を法人税額から直接控除できる制度です(租税特別措置法第42条の4)。
令和8年度の税制改正では、控除率の下限(改正前:1%)が撤廃され、さらに繰越税額控除制度が新設されました(令和9年4月1日以後開始事業年度から、控除限度超過額を3年間繰越可能)。控除率は12%を基本に最大17%、控除上限は原則として法人税額の25%です。
研究開発補助金(ものづくり補助金、Go-Tech事業など)と併用できるため、「補助金で研究資金を確保しつつ、自己負担分は税額控除で取り戻す」という二段構えが可能です。ただし、ここに3つの落とし穴があります。
計算ミス① 補助金受領額を試験研究費から控除し忘れる
何が起きるか
試験研究費の税額控除を計算する際、国庫補助金等で補填された金額は試験研究費から差し引く必要があります。これは租税特別措置法施行令で明確に規定されています。
たとえば、ものづくり補助金で1,500万円の研究開発設備を導入し、補助金750万円(補助率1/2)を受領した場合、税額控除の対象となる試験研究費は1,500万円ではなく、750万円(自己負担分のみ)です。
なぜ見落とすのか
補助金の交付決定→設備導入→実績報告→補助金入金という流れと、法人税の確定申告は別ルートで進みます。特にGo-Tech事業のように補助事業期間が2〜3年にわたるケースでは、補助金の入金タイミングと事業年度がずれることがあり、「どの年度の試験研究費から差し引くのか」で混乱が生じます。
うちで実際に取った時の話なんですけど、ものづくり補助金の入金が年度をまたいで、税理士に渡す資料から補助金の入金通知を渡し忘れたことがあったんです。税理士側は「支出した試験研究費の全額」で税額控除を計算していて、結果的に過大控除になりかけました。決算前の最終チェックで気づいたから良かったものの、修正申告になっていたら加算税のリスクもあったわけです。
正しい処理のポイント
- 補助金の支払が確定した年度(入金年度ではなく交付決定額の確定年度)の試験研究費から差し引く
- 補助金の事務局から届く「額の確定通知書」のコピーを必ず税理士に共有する
- Go-Tech事業のように複数年度にわたる場合は、年度ごとの補助金充当額を経費配分表で管理する
計算ミス② 比較試験研究費の3年平均が補助金年度で歪む
何が起きるか
中小企業技術基盤強化税制の控除率は、増減試験研究費割合(当期の試験研究費と過去3年平均の比較)によって変動します。控除率の計算式は以下のとおりです。
増減試験研究費割合 =(当期試験研究費 − 比較試験研究費)÷ 比較試験研究費
ここで「比較試験研究費」とは、過去3年間の試験研究費の平均です。補助金を受領した年度は、試験研究費から補助金分を差し引くため、その年度の試験研究費が大幅に圧縮されます。
具体例で見る歪み
たとえば、毎年1,000万円の試験研究費を支出している中小企業が、2年目にものづくり補助金500万円を受領したとします。
- 1年目:試験研究費 1,000万円
- 2年目:試験研究費 1,000万円 − 補助金500万円 = 500万円
- 3年目:試験研究費 1,000万円
この場合、4年目の比較試験研究費(3年平均)は(1,000 + 500 + 1,000)÷ 3 = 約833万円。実際の研究投資額は変わっていないのに、比較試験研究費が引き下がることで増減試験研究費割合が上がり、一見すると控除率が有利になります。
しかし問題はその翌々期。補助金を受領した「圧縮年度」が比較試験研究費の3年平均から外れると、比較試験研究費が元に戻り、増減割合が下がって控除率が急落する可能性があります。
対策:3年先までのシミュレーションを組む
テンプレで時短すると言いたいところなんですが、ここばかりはNotionの付加価値額シミュレーションテンプレだけでは足りなくて、3年先までの試験研究費・比較試験研究費・控除率のシミュレーションをExcelで組む必要があります。補助金の入金年度ごとに試験研究費がどう変動するかを事前に可視化しておかないと、「来年の控除率が突然下がった」という事態になります。
朝のカフェで公募要領を読んでいるとき、ふと「補助金を取れば取るほど、研究開発税制の控除率が下がるのでは?」と気づいた瞬間があって。それ以来、補助金申請の段階から税理士を巻き込んで、補助金込みの3年シミュレーションを必ず作るようにしています。
計算ミス③ 圧縮記帳と試験研究費の補助金控除を混同する
2つの制度はまったく別の論点
ここが最も混乱しやすいポイントです。「圧縮記帳」と「試験研究費からの補助金控除」は、どちらも補助金と税金の接点ですが、まったく別の論点です。
| 項目 | 圧縮記帳 | 試験研究費の補助金控除 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 法人税法第42条 | 租税特別措置法第42条の4 |
| 効果 | 固定資産の取得価額を減額し課税を繰延べ | 税額控除の計算対象から補助金分を除外 |
| 対象 | 補助金で取得した固定資産 | 試験研究に充てた費用全般 |
| タイミング | 固定資産取得時に一度だけ | 毎年度の確定申告で継続的に |
二重に減額される構造
問題は、圧縮記帳を適用すると取得価額が下がり、その下がった金額が試験研究費の計算にも影響することです。さらに、圧縮記帳後の取得価額で中小企業経営強化税制などの税制優遇の最低基準を判定するため、補助率が高いほど基準割れリスクが大きくなります。
うちの経験で言うと、IT導入補助金で120万円の在庫管理システムを導入して補助率1/2で60万円の交付を受けたとき、圧縮記帳を適用したら税務上の取得価額が60万円に下がって、ソフトウェアの最低基準70万円を割り込んだことがあります。研究開発補助金でも同じ構造が起きます。
「圧縮記帳しない」という選択肢もシミュレーションに含める
圧縮記帳は任意の制度です。適用しなければ取得価額は補助金込みの全額で計上され、補助金分は雑収入として課税されますが、その分減価償却費が大きくなり、試験研究費の税額控除の対象額も大きくなります。
どちらが有利かは、補助率・取得価額・他の税制優遇の適用可否・将来の減価償却スケジュールによって変わるため、必ず税理士と「圧縮記帳あり・なし」の2パターンでシミュレーションすることが重要です。
補助金申請の段階から税理士を巻き込む3つのアクション
これら3つの計算ミスに共通する根本原因は、「補助金の世界」と「税務の世界」が分断されたまま走っていることです。補助金の事務局は税務のアドバイスをしてくれませんし、税理士も補助金の経費ルールに精通しているとは限りません。
この断絶を防ぐために、以下の3つのアクションを推奨します。
- 補助金申請時:事業計画書の経費計画を税理士にも共有し、試験研究費の税額控除への影響をシミュレーションする
- 交付決定時:補助金の額の確定通知書を税理士に必ず送付し、試験研究費からの控除額を確定させる
- 決算前:圧縮記帳の適用判断を含めた「補助金×税制チェックシート」で3年先までの控除率変動を確認する
地場ベンチャー仲間の勉強会でこの話をすると、「補助金と税制、別々に考えてた」という反応が9割です。でも、研究開発型の中小企業にとって、補助金と研究開発税制は車の両輪。片方だけ最適化しても、もう片方で損をしていたら意味がありません。
令和8年度改正で変わるポイント:繰越税額控除の活用
令和8年度の税制改正で、中小企業技術基盤強化税制に繰越税額控除制度が新設されました(令和9年4月1日以後開始事業年度から適用)。控除限度超過額を3年間繰り越せるようになったことで、研究開発フェーズで赤字が続く中小企業でも、黒字転換後に控除を取り戻せる可能性が出てきました。
ただし、繰越対象となるのはあくまで「控除限度超過額」であり、補助金で圧縮された試験研究費そのものが復活するわけではない点に注意が必要です。補助金控除後の試験研究費をベースに計算した税額控除額のうち、法人税額の25%を超えた部分だけが繰越対象になります。
FAQ
Q1. 研究開発税制と補助金は併用できますか?
はい、併用可能です。ただし、補助金で補填された金額は試験研究費から差し引く必要があります。つまり、自己負担分のみが税額控除の対象です。「補助金で全額まかなった経費」は税額控除の対象になりません。
Q2. 補助金を試験研究費から差し引くのは、入金年度ですか?交付決定年度ですか?
「支払が確定した年度」です。実務上は交付額の確定通知を受けた年度が基準になります。入金が翌年度にずれ込んでも、確定した年度の試験研究費から差し引きます。年度をまたぐケースが多いGo-Tech事業では特に注意が必要です。
Q3. 圧縮記帳と研究開発税制の税額控除は、どちらか片方しか使えないのですか?
いいえ、両方適用可能です。ただし、圧縮記帳を適用すると取得価額が下がり、その影響が減価償却費や他の税制優遇の最低基準判定にも波及します。「圧縮記帳あり・なし」の2パターンで税理士にシミュレーションしてもらうことを推奨します。
Q4. 令和8年度改正の繰越税額控除はいつから使えますか?
令和9年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。3月決算法人であれば2028年3月期(令和9年度)が最初の適用年度です。12月決算法人は2028年12月期からとなります。
Q5. 補助金の申請段階から税理士に相談すべき理由は何ですか?
補助金の経費計画が確定した段階で、試験研究費の税額控除・圧縮記帳・他の税制優遇との整合性を同時にシミュレーションできるからです。採択後に「圧縮記帳したら経営強化税制の基準を割った」と気づいても、圧縮記帳の適用判断は確定申告時なので手戻りが発生します。






