ものづくり補助金第23次が2026年5月8日に締め切られた。これが現行制度の最終回で、2026年度からは新事業進出補助金と統合した「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」が新たに公募開始される。公募要領は2026年6月公開、申請受付は8月開始が予定されている。

公募要領を3回読んでみたら、というのはうちのルールなんやけど、今回は旧ものづくり補助金の第23次公募要領と新事業進出補助金の第4回公募要領を並べて読み比べた。そこから見えてきたのは、研究開発型の中小企業が旧制度の事業計画書テンプレをそのまま流用したら構造的にフィットしない、という3つの変化だ。

朝のカフェで両方の公募要領を紙に印刷して3色蛍光ペンで並べた時に、「これは枠選びの時点で勝負がつくな」と実感した。この記事では、統合新制度の公募開始前に研究開発型中小企業が準備すべき3つのポイントを、旧制度との比較で整理する。

前提:なぜ統合されたのか?研究開発型中小企業への影響

まず背景を整理する。旧ものづくり補助金は「革新的な製品・サービスの開発や生産性向上に資する設備投資」を支援する制度で、研究開発型中小企業の主力補助金だった。一方、新事業進出補助金(旧事業再構築補助金)は「既存事業とは異なる新分野・新市場への進出」を支援する制度。

この2つが統合される理由は、政策資源の集約と申請者の混乱防止だ。実際、うちの地場ベンチャー仲間の勉強会でも「新しい技術で新分野に進出する場合、ものづくりと新事業進出のどっちで出すべきか」という質問がこの半年で4回出た。制度が分かれていたこと自体が申請者を迷わせていた。

統合後は以下の4枠構成になると予告されている。

枠名旧制度との対応主な対象
革新的新製品・サービス枠旧ものづくり補助金(製品・サービス高付加価値化枠)技術的革新性のある製品・サービスの開発
新事業進出枠旧新事業進出補助金既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出
グローバル枠旧ものづくり補助金グローバル枠(大幅拡充)海外市場開拓に向けた国内輸出体制の強化
省力化(オーダーメイド)枠旧省力化投資補助金(一般型)から移管デジタル技術等を活用したオーダーメイド省力化

研究開発型中小企業にとって問題になるのは、旧ものづくり補助金で「技術の革新性」一本で勝負していた事業計画が、統合後の枠選びによっては審査軸が変わる可能性があることだ。

ポイント1:枠選びの再設計——「革新的新製品・サービス枠」と「新事業進出枠」の境界線

研究開発型中小企業が最初に判断すべきは、自社の研究開発テーマが「革新的新製品・サービス枠」と「新事業進出枠」のどちらにフィットするかだ。

旧制度では、この判断が不要だった。ものづくり補助金に出せばよかった。しかし統合後は、同じ研究開発テーマでも枠選びを間違えると審査基準のミスマッチで不採択になるリスクがある。

判断基準:「既存事業の延長線上」か「新分野への参入」か

具体的な判断基準を整理する。

  • 革新的新製品・サービス枠が適切なケース:既存の製造ラインを高度化する特注検査装置の導入、既存製品の性能を飛躍的に向上させる新技術の開発、既存事業の生産性を革新的に向上させる設備投資
  • 新事業進出枠が適切なケース:これまで扱ったことのない新素材・新分野の製品開発、既存技術を全く異なる市場に転用する事業化、売上構成比で既存事業とは明確に区分される新事業の立ち上げ

うちで実際に取った時の話なんですけど、ものづくり補助金で特注の検査装置を導入した時は、既存の検査工程を高度化する位置づけだったから「革新的新製品・サービス枠」に相当する。一方、その検査技術を医療機器分野に転用しようとしていたら、それは「新事業進出枠」の案件だ。

ここで見落としやすいのが、旧ものづくり補助金の省力化(オーダーメイド)枠で申請していた企業だ。省力化投資補助金(一般型)は2025年度に独立した後、統合新制度で再び戻ってくる。以前の記事でも書いた「導入vs開発」の軸がここでも効く。省力化効果の定量性を重視するなら省力化枠、技術面の革新性を前面に出すならば革新的新製品・サービス枠を選ぶべきだ。

公募開始前にやるべきアクション

公募要領の公開前でも、以下の準備は今すぐ始められる。

  1. 自社の研究開発テーマを「既存事業の改良・高度化」と「新分野への参入」に分類する
  2. 旧ものづくり補助金で申請した実績がある場合、その時の枠と今回のテーマが同じカテゴリに入るか確認する
  3. 認定経営革新等支援機関(認定支援機関)に早めに相談し、枠選びの方向性を擦り合わせる

ポイント2:審査軸の変化——「技術の革新性」だけでは足りない可能性

旧ものづくり補助金の審査項目は「技術面」「事業化面」「政策面」の3軸で、研究開発型中小企業は「技術面の革新性」で高評価を狙うのが王道だった。業界水準との比較、課題→原因→解決→効果の因果チェーン、実現可能性の裏付けの3点セットで技術面の点を稼ぐ書き方は以前の記事で体系化した。

しかし統合新制度では、特に「新事業進出枠」で申請する場合、審査軸が変わる可能性が高い。

旧新事業進出補助金で重視された審査要素

旧新事業進出補助金の公募要領では、以下の要素が審査で重視されていた。

  • 事業転換の必要性・緊急性:なぜ既存事業だけでは立ち行かないのか、外部環境の変化(市場縮小・競合参入・技術陳腐化)を定量的に示す
  • 新市場の具体性:進出先の市場規模をTAM→SAM→SOMで絞り込み、見込み顧客の存在を裏付ける
  • 実施体制と投資規模の妥当性:新事業に必要な人員・設備・外注先が具体的に確保されているか

つまり、旧ものづくり補助金で「技術がいかに革新的か」を中心に書いていた事業計画書では、新事業進出枠の審査基準に構造的にフィットしない。技術の革新性に加えて「なぜ今、新事業に進出する必要があるのか」「進出先の市場は本当にあるのか」を書く必要がある。

革新的新製品・サービス枠でも注意すべき変化

革新的新製品・サービス枠は旧ものづくり補助金の後継だから審査基準は大きく変わらない、と楽観する声もある。しかし、統合に伴ってDX・GX関連投資が加点項目に追加される可能性が指摘されている。AI・IoT・脱炭素設備の活用を事業計画に盛り込めるかどうかで、加点の差がつくかもしれない。

テンプレで時短すると、つい旧制度の書き方をそのまま使いたくなる。しかし今回は新制度だ。公募要領が出たら、審査項目のページを3色蛍光ペンで分解して、旧制度との差分をまず確認することを強く勧める。

公募開始前にやるべきアクション

  1. 旧ものづくり補助金で作成した事業計画書のテンプレを棚卸しし、「技術面」以外のセクション(市場分析・競合比較・事業化スケジュール)が旧新事業進出補助金の審査要素を満たせるか確認する
  2. TAM→SAM→SOMの市場規模データを一次データで準備する。業界レポートのTAMだけでは審査員に響かない
  3. 加点項目の準備(事業継続力強化計画の認定、パートナーシップ構築宣言)は旧制度と同じく有効な可能性が高い。認定に45日かかる事業継続力強化計画は、公募要領を待たずに今すぐ申請を始めるべきだ

ポイント3:対象経費の拡大——広告宣伝・販売促進費が使えるようになる意味

統合新制度の最大の実務変更の1つは、旧ものづくり補助金では対象外だった広告宣伝・販売促進費が「革新的新製品・サービス枠」で新たに対象経費になることだ。

これは研究開発型中小企業にとって大きい。旧制度では、いくら革新的な技術で新製品を開発しても、その販路開拓にかかる費用は補助金の対象外だった。結果として、開発には補助金を使えるが売るための投資は全額自腹、という片手落ちの構造になっていた。

事業計画への影響

広告宣伝・販売促進費が対象になることで、事業計画書の書き方が変わる。

  • 事業化スケジュール:開発完了→量産→販路開拓の一連のフローを補助事業期間内に設計できる。旧制度では「開発まで」で止まっていた計画に「売るまで」を組み込める
  • 経費配分:機械装置等の開発設備に加えて、展示会出展費・Web広告費・販促物制作費を経費計画に含められる
  • 事業化面の審査:「開発した技術をどう売るか」が具体的な経費計画で裏付けられるため、事業化面の審査で説得力が増す

注意点:経費区分の混同リスク

ただし、広告宣伝費が対象になったからといって、経費計画のバランスを崩すと逆効果になる。旧新事業進出補助金では、広告宣伝費の比率が高すぎて差し戻しになるケースがあった。設備投資を中心とした補助金の趣旨を逸脱しないよう、広告宣伝費は全体の一定割合以内に収める設計が必要だ。

IT導入補助金で役務費用の比率30%ルールを学んだ時と同じ話で、経費のバランス設計は補助金申請の基本中の基本だ。

公募開始前にやるべきアクション

  1. 開発完了後の販路開拓にどの程度の費用がかかるか概算を出す(展示会出展1回あたりの費用、Web広告の月額予算等)
  2. 機械装置等の設備投資額と広告宣伝費の比率を仮設計し、設備投資中心のバランスになっているか確認する
  3. 見積書の準備を始める。開発設備の見積もりに加えて、展示会・広告の見積もりも早めに取得しておくと、公募要領公開後の申請作業が大幅に短縮される

統合新制度に向けた全体スケジュール

2026年6月時点で想定される統合新制度のスケジュールを整理する。

時期イベント研究開発型中小企業がやるべきこと
2026年6月公募要領公開(予定)公募要領を3色蛍光ペンで旧制度と比較読み
2026年6月〜7月公募要領の読み込み・枠選び確定認定支援機関と枠選びの最終確認
2026年8月申請受付開始(予定)事業計画書・経費計画書・見積書の提出
2026年8月上旬ものづくり補助金第23次の採択結果公表不採択の場合は新制度で再挑戦の設計

特に重要なのは、ものづくり補助金第23次の採択結果(2026年8月上旬予定)と新制度の申請受付開始がほぼ同時期になる点だ。第23次で不採択だった場合、旧制度のフィードバックを受けて新制度に再挑戦することになるが、事業計画書のテンプレをそのまま流用すると枠選びや審査軸のミスマッチで再び不採択になる可能性がある。

まとめ:公募要領が出る前に動けることは多い

研究開発型中小企業にとって、ものづくり補助金は主力の資金調達手段だった。その制度が統合されるというのは、事業計画書の書き方や申請戦略を根本から見直す必要があるということだ。

ただし、公募要領が出る前でも準備できることは多い。枠選びの方向性を決める、市場規模データを一次データで集める、加点項目の事前取得を始める、広告宣伝費を含めた経費配分を仮設計する。これらを今のうちにやっておけば、公募要領公開後の2ヶ月間で事業計画書を仕上げる余裕ができる。

公募要領が出たら、まず3色蛍光ペンで旧制度との差分を洗い出すところから始めてほしい。

よくある質問(FAQ)

Q1. ものづくり補助金第23次に申請して不採択だった場合、新制度にそのまま再申請できますか?

A. 新制度は別の補助金として公募されるため、旧制度の不採択が新制度の申請を妨げることはない。ただし、事業計画書を旧制度のまま流用すると、枠選びや審査基準のミスマッチで再度不採択になるリスクがある。枠選びの再設計と審査項目の差分確認が必須だ。

Q2. 旧ものづくり補助金の加点項目(事業継続力強化計画、パートナーシップ構築宣言等)は新制度でも有効ですか?

A. 公募要領が公開されるまで確定はしないが、これらの加点項目は国の中小企業政策の基盤であるため、何らかの形で継続する可能性が高い。特に事業継続力強化計画は認定取得に約45日かかるため、公募要領を待たずに今すぐ申請を開始すべきだ。パートナーシップ構築宣言は即日・無料で取得できるため、まだ宣言していない企業は今日やっても損はない。

Q3. 研究開発テーマが「既存技術の新分野転用」の場合、どちらの枠で申請すべきですか?

A. 売上構成比で既存事業とは明確に区分される新市場への参入であれば「新事業進出枠」、既存事業の延長線上での技術高度化であれば「革新的新製品・サービス枠」が適切と考えられる。最終判断は公募要領の審査項目を確認してからになるが、方向性は今から認定支援機関と擦り合わせておくとよい。

Q4. 旧ものづくり補助金と旧新事業進出補助金の両方に申請したことがある場合、過去の交付決定歴は新制度に影響しますか?

A. 旧ものづくり補助金には省力化投資補助金・事業再構築補助金・新事業進出補助金との併用制限(過去3年間に合計2回以上の交付決定で対象外)があった。統合新制度でもこのルールが引き継がれる可能性があるため、過去の交付決定歴は必ず確認しておくべきだ。

Q5. Go-Tech事業やSBIR制度との棲み分けはどうなりますか?

A. 統合新制度はあくまで「設備投資を中心とした開発支援」であり、基礎研究段階の支援ではない。技術成熟度(TRL)でいえば、TRL 1-3はNEDO DTSU/SBIR、TRL 4-6はGo-Tech事業、TRL 7-9は統合新制度(新事業進出・ものづくり補助金)という棲み分けは旧制度と変わらないと見込まれる。

参考文献

  • 中小企業庁「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第23次公募要領」(2026年2月6日公開)
    https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/hojyokin/kobo/2026/260206001.html
  • 中小企業基盤整備機構「新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業に係る事務局の公募について」(2026年)
    https://www.smrj.go.jp/procurement/solicitation/ij5cue0000001301.html
  • 中小企業基盤整備機構「中小企業新事業進出補助金」公式サイト
    https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/