こんにちは、若林です。福岡で会社を経営しながら、補助金の公募要領を読むのが趣味みたいになっている30代です。自社で20件以上の補助金採択を経験してきました。

今回は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が運営する「ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)」について書きます。最大30億円、事業期間最長6年という研究開発系では破格のスケールの制度ですが、公募要領を3回読んでみたら、中小企業が応募前に躓くポイントが3つに集約されることがわかりました。

そもそもNEDO DTSUとは何か?

NEDO DTSUは、ディープテック領域(AI、ロボティクス、半導体、バイオ、医療機器、宇宙、エネルギーなど)の研究開発を行うスタートアップ・中小企業を支援する補助事業です。2023年度に開始され、2026年2月時点で累計111件・約630億円が採択されています。

支援は3つのフェーズに分かれています。

フェーズ内容助成上限事業期間目安
STS(実用化研究開発・前期)技術の実証・プロトタイプ開発最大5億円1.5〜2年
PCA(実用化研究開発・後期)製品化に向けた研究開発最大10億円1.5〜2年
DMP(量産化実証)量産体制の構築・実証最大25億円1.5〜2年

ステージゲート審査を経てフェーズを移行でき、1件あたりの助成金額上限は全体で30億円、事業期間上限は6年です。NEDO負担率は2/3以内または1/2以内で、後述するVC出資の水準によって変わります。

公募は年4回程度の提案受付期間が設けられ、2026年度は第10回公募が6月以降に開始予定です。

パターン1:VC出資要件の「対象外」を知らずに応募計画が崩壊する

NEDO DTSUの最大の特徴は、VC等からの出資が応募要件に組み込まれている点です。ここが、ものづくり補助金やGo-Tech事業とはまったく違う構造です。

具体的には、助成対象費用の1/3以上の金額を、VC(ベンチャーキャピタル)・CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)・事業会社・金融機関から出資または融資で調達する必要があります。NEDO負担率2/3を適用するには、助成対象費用の1/6以上の出資を所定期間内に得ることが条件です。

ここで躓く3つの「対象外」

  • エンジェル投資家(個人投資家)からの出資は対象外
  • 株式投資型クラウドファンディングは対象外
  • 金融機関からの融資だけではPCAフェーズの要件を満たせない(VC・CVCまたは事業会社からの出資が必須)

うちで実際に研究開発補助金のTRL判定フレームワークを体系化した時の話なんですけど、Go-Tech事業の公募要領を最初に手に取ったのは知人の勧めがきっかけだったんです。後からNEDO DTSUやSBIR制度の存在を知って、「先にSBIRやNEDO DTSUで概念実証の資金を確保すべきだった」と冷や汗をかきました。その経験から言うと、NEDO DTSUは「VCとの関係構築」が応募のスタートラインです。公募要領を読む前にまずVCとの接点があるかどうかを確認してください。

対策

  • 応募を検討する段階で、VC・CVC・事業会社のいずれかと資本関係の見込みがあるか確認する
  • エンジェル投資やクラファンで初期資金を調達した企業は、DTSU応募前にVC等からの追加出資ラウンドを設計する
  • NEDO負担率2/3を狙うなら、助成対象費用の1/6以上の出資を「出資意向確認書」で示す準備を始める

パターン2:STS・PCA・DMPのフェーズを選び間違える

朝のカフェでDTSUの公募要領を読んでいて気づいたのですが、3つのフェーズは名前だけでは違いがわかりにくい。しかし、技術成熟度(TRL)で明確に棲み分けられているのがポイントです。

TRLとフェーズの対応

TRL段階対応フェーズ
TRL 1〜3基礎研究・概念実証STS(前期)
TRL 4〜6技術実証・プロトタイプPCA(後期)
TRL 7〜9量産化・市場投入DMP

選び間違いの典型パターン

  • まだ概念実証(PoC)段階なのにPCAで応募 → 研究計画の具体性が不足して不採択
  • すでに試作品があるのにSTSで応募 → 審査員に「STSでやる意味がない」と判断される
  • 量産体制の目処が立っていないのにDMPで応募 → 事業会社との連携(ビジネスパートナーシップ契約)が求められるDMPの要件を満たせない

私が研究開発補助金の制度選びで体系化した判断軸は「TRL 1-3ならNEDO DTSU(STS)またはSBIR、TRL 4-6ならGo-Tech事業またはDTSU(PCA)、TRL 7-9ならものづくり補助金またはDTSU(DMP)」です。自社の技術がどのTRLにいるのかを客観的に判定することが、フェーズ選定の第一歩になります。

対策

  • 自社技術のTRLを客観的な根拠(論文・特許・試作結果)で判定する
  • DTSU事務局の事前相談(オンライン・30分以内)を活用して、適切なフェーズの確認を取る
  • STSとPCAの境界が曖昧な場合は、STSから入ってステージゲート審査でPCAに移行するルートを計画する

パターン3:申請準備のタイムラインを甘く見て公募期間に間に合わない

NEDO DTSUの公募は年4回程度ですが、各回の提案受付期間は約2〜3週間と非常に短いです。ものづくり補助金のように数ヶ月の公募期間がある制度とはまったく違います。

申請準備で必要な時間の見積もり

  • VC等との出資意向確認書の取得:VCのデューデリジェンスを含めると最低2〜3ヶ月
  • 研究開発計画書の作成:技術面・事業化面の両方を網羅する必要があり、最低1ヶ月
  • 事業会社との連携体制の構築(DMP応募の場合):ビジネスパートナーシップ契約の締結が必要で2〜3ヶ月

テンプレで時短するとしても、研究開発計画書はDTSU独自のフォーマットに合わせる必要があるため、他の補助金の計画書をそのまま流用できません。

特に注意すべきは、ステージゲート審査の存在です。STSで採択された後、PCAに移行するためにはステージゲート審査を通過する必要があり、同一フェーズ内でも最長4年という期間制限があります。長期的な研究ロードマップを描いた上で応募しないと、「採択されたが次のフェーズに進めない」という事態に陥ります。

対策

  • 公募開始の最低3ヶ月前から準備を開始する(VC交渉・計画書作成・事務局相談を並行)
  • DTSU事務局の事前相談を公募開始前に済ませ、応募フェーズと計画書の方向性を固める
  • ステージゲート審査を見据えた6年間の研究開発ロードマップを初期段階で作成する

NEDO DTSUと他の研究開発補助金の棲み分け

「うちはDTSUに応募すべきなのか、それともGo-TechやSBIRのほうがいいのか?」という相談をよく受けます。判断の軸は以下の3つです。

判断軸NEDO DTSUGo-Tech事業SBIR制度ものづくり補助金
TRL1〜9(全フェーズ)4〜61〜37〜9
VC出資要件ありなしなしなし
公設試連携任意実質必須省庁テーマ準拠不要
助成上限最大30億円数千万〜数億円数百万〜数千万円最大1億円
申請ルートNEDO直接e-Rade-Rad/省庁別Jグランツ

VC等との資本関係がない段階であれば、まずSBIRやGo-Tech事業で研究実績を積み、VC出資を獲得した上でDTSUに進むというルートが現実的です。

よくある質問(FAQ)

Q1. NEDO DTSUは設立何年以内の企業が対象ですか?

A. 日本国内に登記される未上場の中小企業(みなし大企業を除く)が対象です。設立年数に関する具体的な制限はフェーズや公募回によって異なるため、最新の公募要領で確認してください。

Q2. エンジェル投資で資金調達済みの企業はDTSUに応募できませんか?

A. エンジェル投資自体は問題ありませんが、DTSU の出資要件の算定対象にはなりません。VC・CVC・事業会社・金融機関からの出資・融資で助成対象費用の1/3以上を確保する必要があります。エンジェル投資に加えて、VCラウンドを組む必要があります。

Q3. Go-Tech事業に採択された後でもDTSUに応募できますか?

A. 別の研究テーマであれば応募可能です。同一テーマで二重に補助を受けることはできませんが、Go-Tech事業で得た研究実績をベースにDTSUの次フェーズに進むことは制度上想定されています。事前にNEDO事務局に相談することを推奨します。

Q4. 公募は年4回とのことですが、いつ頃ですか?

A. 2025年度は年4回程度の提案受付期間が設定されていました。2026年度は第10回公募が6月以降に開始予定です。各回の受付期間は約2〜3週間と短いため、NEDOの公募ページを定期的にチェックしてください。

Q5. 事前相談はどこに申し込めばいいですか?

A. DTSU事務局が事前相談に応じています。相談は原則オンライン(Microsoft Teams)で実施され、1者あたり30分以内です。NEDOの公式サイトの公募ページから申込方法を確認できます。

まとめ:NEDO DTSUは「VC出資要件」をクリアできるかが最初の分水嶺

NEDO DTSUは最大30億円・6年間という研究開発補助金の中でも最大級の制度ですが、VC出資要件・フェーズ選定・申請準備のタイムラインの3つで躓く中小企業が後を絶ちません。

まずは自社のTRLを客観的に判定し、VC等との資本関係の見込みを確認するところから始めてください。VC出資の目処が立っていない段階であれば、SBIRやGo-Tech事業で研究実績とトラクションを積んでからDTSUに進むルートも有効です。

公募要領は公募開始後にNEDOの公式サイトで公開されます。読み込みは最低3回。私はいつも朝のカフェで蛍光ペン片手にやっていますが、DTSUの公募要領はものづくり補助金より読み応えがありますよ。

参考文献