Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業)に申請する中小企業の方、「経営デザインシート」をちゃんと書けていますか。
令和8年度の公募要領を読むと、Go-Tech事業では研究開発計画書の記載に代えて経営デザインシートを添付できる仕組みになっています。採択率は約30%。つまり10社中7社は落ちる。そのうちの相当数が、この経営デザインシートで「移行戦略」を具体化できていないことが原因だと僕は見ています。
公募要領を3回読んでみたら、審査項目の「事業化面」で問われている内容が、そっくりそのまま経営デザインシートの構造と対応していることに気づくんですよ。にもかかわらず、多くの中小企業がこのシートを「なんとなくの将来像メモ」として書いてしまう。今回は、Go-Tech事業の経営デザインシートで審査員に伝わらない3つの原因を整理します。
そもそも経営デザインシートとは何か
経営デザインシートは、内閣府の知的財産戦略推進事務局が2018年にリリースした思考補助ツールです。構造は大きく4つ。
- (A)自社の存在意義:何のために事業をしているか
- (B)これまでの姿:現在の資源・ビジネスモデル・価値提供の構造
- (C)これからの姿:将来ありたい姿の資源・ビジネスモデル・価値提供
- (D)移行戦略:BからCに移行するために今から何をすべきか
ひな型は3種類あって、「全社シート」「事業シート」「事業が一つの企業用シート」。Go-Tech事業で申請する中小企業の多くは、研究開発テーマに紐づく特定事業の将来像を描くので「事業シート」か「事業が一つの企業用シート」を使うのが基本です。
ここまでは情報として知っている方も多い。問題は、Go-Tech事業の審査項目と経営デザインシートの構造がどう対応しているかを理解しないまま書いてしまうことです。
原因1:「これまでの姿」を売上と従業員数だけで埋めてしまい知的資産が見えない
Go-Tech事業の審査項目(事業化面)には、「研究開発成果の事業化についてどの程度の経済効果が期待できるか」「市場のニーズを的確に捉えているか」という記述があります。審査員がこの項目を評価するとき、経営デザインシートの「これまでの姿」で現在どんな知的資産(技術・ノウハウ・顧客基盤・データ)を持っているかが書かれていないと、「この会社が研究開発成果を事業化できる根拠」が判断できません。
よくある失敗は、「これまでの姿」の「資源」欄に「売上高○千万円、従業員○名、工場○拠点」と書いてしまうケース。これは財務データであって知的資産ではない。
書くべきは以下の3点です。
- 保有する技術・特許・ノウハウ(特許番号があれば記載)
- 蓄積したデータや検証実績(試作回数、顧客からのフィードバック件数など)
- 連携実績のある研究機関・公設試の名前と過去の共同研究テーマ
うちで実際に取った時の話なんですけど、「これまでの姿」の資源欄に特許番号と公設試との共同研究テーマを3行書いただけで、審査員からのヒアリングで「技術基盤がしっかりしている」と評価されたことがあります。逆に言えば、ここが空白だと「なぜ御社がこの研究をやるのか」の説得力がゼロになる。
原因2:「これからの姿」が研究開発テーマと紐づいていない
2つ目は、「これからの姿」に書いた将来のビジネスモデルと、研究開発計画書に書いた研究テーマが噛み合っていないケースです。
たとえば、研究開発テーマが「○○素材の耐熱性向上に関する研究」なのに、経営デザインシートの「これからの姿」には「海外市場への販路拡大」「新ブランドの立ち上げ」といった営業・マーケティング寄りの話しか書いていない。審査員から見ると、「この研究が成功したら、具体的にどんな製品が生まれて、どう価値提供が変わるのか」がまったく見えません。
Go-Tech事業の公募要領には、審査項目の技術面として「研究開発の目標が明確であるか」「各機関の役割分担及び連携の仕方が具体的かつ適切であるか」と書かれています。この審査項目に対応させるなら、「これからの姿」には研究開発成果がどんな製品・サービスに化けるかを具体的に書く必要がある。
チェックポイント:
- 「これからの姿」のビジネスモデル欄に、研究開発テーマで生まれる製品名・サービス名が明記されているか
- その製品・サービスの想定顧客と市場規模(SAM/SOM)が記載されているか
- 「これまでの姿」の価値提供と「これからの姿」の価値提供を比較したとき、研究開発による変化が読み取れるか
ここでよく起きるのが、「これからの姿」を経営企画の延長で書いてしまい、研究開発計画書との間に断層ができるパターンです。経営デザインシートと研究開発計画書は別の担当者が書くことも多いので、提出前に必ず両方を横に並べて整合性を確認してください。
原因3:「移行戦略」が抽象的で工程・費用・期間の具体性がない
3つ目が最も致命的です。経営デザインシートの(D)移行戦略は、「これまで」から「これから」に変わるために何をするかを書く欄。ここに「研究開発を推進し、成果を事業化する」としか書いていない申請書が本当に多い。
朝カフェで公募要領を広げて3色蛍光ペンで読んでいて気づいたんですが、Go-Tech事業の審査項目(事業化面)には「コスト面において市場導入の可能性があるか」という記述がある。これは移行戦略で研究開発後の量産化・市場投入にかかるコストと期間を具体的に示せということです。
移行戦略に書くべき3点セット:
- 工程:研究開発→試作→量産試作→市場投入のマイルストーンを年単位で
- 費用:各工程でかかる概算費用(補助事業期間中と事業化段階を分けて)
- 体制:誰が何をやるか(自社の担当部署・公設試の役割・外注先の有無)
テンプレで時短すると、この3点セットを表形式で整理するだけで移行戦略の説得力が段違いに上がります。僕がNotionで管理しているGo-Tech用テンプレでは、移行戦略を「研究開発フェーズ(補助事業期間)」「事業化準備フェーズ(補助終了後1〜2年)」「本格事業化フェーズ(3年目以降)」の3段階に分けて、各段階の投資額・売上見込み・担当者を1枚の表に落とし込んでいます。
経営デザインシートを書く前にやるべき3ステップ
審査員に伝わらない原因を踏まえて、Go-Tech事業の経営デザインシートを書く際の実践的な手順を整理します。
ステップ1:公募要領の審査項目を蛍光ペンで分類する
技術面・事業化面・政策面の3カテゴリで色分けし、各審査項目が経営デザインシートのどの欄に対応するかをマッピングする。これだけで「何を書けば審査員に刺さるか」が見えます。
ステップ2:「これまでの姿」は知的資産棚卸しから始める
売上や従業員数ではなく、特許・ノウハウ・検証データ・連携実績を先に洗い出す。公設試との過去の接点があれば必ず記載する。Go-Tech事業では公設試連携が実質必須なので、ここで連携の布石を打っておくことが重要です。
ステップ3:研究開発計画書と経営デザインシートを同時並行で書く
別々に書くと「これからの姿」と研究テーマの間に断層が生まれます。理想は同じ担当者が両方を書くか、最低でも週1回は両方の文書を突き合わせて整合性を確認すること。経営デザインシートの作成には最低2週間見込むべきで、公募締切の1か月前には着手しないと間に合いません。
よくある質問(FAQ)
Q1. 経営デザインシートは必須ですか?提出しないと不採択になりますか?
Go-Tech事業の公募要領では、研究開発計画書の記載に「代えて」経営デザインシートを添付できるとされています。必須ではありませんが、事業化計画の説得力を高めるために添付を強く推奨します。審査項目の「事業化面」で問われる内容を構造的に整理できるため、添付した方が有利です。
Q2. 経営デザインシートのひな型はどれを使えばいいですか?
Go-Tech事業で特定の研究開発テーマに紐づく申請をする場合は、「事業シート」または「事業が一つの企業用シート」が適切です。内閣府の知的財産戦略推進事務局のサイトからダウンロードできます。
Q3. 経営デザインシートの作成にどのくらい時間がかかりますか?
知的資産の棚卸しから始めると最低2週間は必要です。公設試との連携内容を反映する場合は、公設試との打ち合わせ期間も含めて1か月前からの着手を推奨します。
Q4. 「移行戦略」に補助事業期間後の計画も書く必要がありますか?
はい。Go-Tech事業の審査項目には事業化による経済効果が問われています。補助事業期間(最大3年)中の研究開発計画だけでなく、補助終了後の量産化・市場投入までのロードマップを書くことで、審査員に事業化の実現可能性を示せます。
Q5. 経営デザインシートと研究開発計画書の内容が矛盾していたらどうなりますか?
審査員は両方の文書を突き合わせて評価します。「これからの姿」に書いた将来像と研究テーマが噛み合っていない場合、事業化面の評価で大きく減点される可能性があります。提出前に必ず整合性を確認してください。
まとめ
Go-Tech事業の経営デザインシートで審査員に伝わらない原因は、突き詰めると「公募要領の審査項目と経営デザインシートの構造を対応させていない」という一点に集約されます。「これまでの姿」には知的資産を、「これからの姿」には研究開発成果が化ける製品・サービスを、「移行戦略」には工程・費用・体制の3点セットを。この構造を押さえるだけで、審査員に伝わる経営デザインシートになります。






