「他社に同等品がない」だけでは通らない
うちで実際に取った時の話なんですけど、ものづくり補助金で特注の検査装置を申請した際、業者選定理由書に「他社に同等品がないため」とだけ書いて提出したことがある。結果は差戻し。事務局からのコメントは「客観的根拠が不十分」の一言だった。
ものづくり補助金やGo-Tech事業で研究開発設備を導入する場合、単価50万円(税抜)以上の物件は原則として2社以上から同一条件の見積もりを取る必要がある。ただし研究開発用の特注設備は、そもそも同等品を作れるメーカーが1社しかないケースが珍しくない。その場合に提出するのが「業者選定理由書」だ。
問題は、この理由書の書き方で差戻しされる中小企業が後を絶たないこと。公募要領を3回読んでみたら、差戻しパターンは大きく3つに集約された。
パターン1:「唯一の製造元」を主観で書いている
最も多い失敗がこれだ。「当該設備を製造できるのは○○社のみである」と書いておきながら、その根拠が一切ない。審査する側の立場で考えてみてほしい。申請者が「1社しかない」と言っているだけで、本当にそうなのか判断できない。
客観的根拠として有効なのは、以下の3点セットだ。
①特許番号の明記。選定先メーカーが保有する特許権・実用新案権の番号を記載する。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で誰でも確認できるため、審査側にとって最も検証しやすい根拠になる。
②競合メーカーへの照会記録。同業種のメーカー最低2〜3社に「同等品の製造可否」を問い合わせ、「対応不可」の回答をメール等で取得する。差戻しを食らった後に筆者が実際にやったのがこれで、3社にメールを送って「対応不可」の回答を添付資料として提出したら一発で通った。
③技術仕様書による排他性の説明。既存の生産ラインとの接続仕様(コネクタ規格、通信プロトコル、制御ソフトのAPI)が特定メーカーの設備でしか適合しないことを図面付きで示す。うちの場合はコネクタ規格の違いを仕様書で出した。
この3点セットを揃えた上で業者選定理由書を書けば、初回提出で通る確率は格段に上がる。逆に言えば、1つも客観的根拠がない理由書は、ほぼ確実に差戻しになる。
パターン2:競合照会の「対応不可」回答を取っていない
特許がない設備の場合、競合メーカーへの照会記録が決定打になる。ところが「メーカーに問い合わせる」という発想自体がない申請者が意外に多い。
照会のポイントは3つある。
まず、照会先は最低2社、できれば3社。同業種・同規模のメーカーを選ぶ。J-Net21の企業情報検索や業界団体の会員名簿が探しやすい。
次に、照会は必ずメールか書面で行うこと。電話だけだと「対応不可」の証拠が残らない。メールの件名に「○○仕様の設備製造可否のご確認」と明記し、具体的なスペック(寸法・精度・材質・納期)を添えて送る。曖昧な問い合わせだと「検討の余地がある」と返されて使えなくなる。
最後に、回答の保存だ。「対応不可」だけでなく、「当社では対応困難です」「該当する製品ラインがございません」といった回答も有効。回答メールをPDF化して業者選定理由書の添付資料にする。
この照会にかかる期間は2〜3週間が目安。テンプレで時短すると、照会メールの雛形を事前に用意しておくのが効く。採択前の段階から「もし相見積もりが取れなかったら」を想定して照会先リストを作っておくべきだ。メーカーレターの回答待ちで交付申請の期限を超えるのは本当にもったいない。
パターン3:見積書と事業計画書の品目・金額が不一致
業者選定理由書そのものではなく、理由書に紐づく見積書と事業計画書の不整合で差戻しになるケースも根深い。
具体的には、事業計画書に記載した設備の品目名・型番・数量・金額と、見積書の記載が一致していない。事業計画書では「特注検査装置一式」と書いているのに、見積書では「検査ユニットA」「制御盤B」「架台C」と分割されていて、合計金額は合っているが品目名がまったく対応しない。事務局はこれを「計画の精度が低い」と判断する。
もう1つ見落としやすいのが見積書の有効期限だ。採択から交付申請まで最大2ヶ月の猶予があるが、申請時の見積書が有効期限切れだと当然差戻しになる。特注設備は仕様確定から見積作成まで時間がかかるため、見積書の有効期限を「発行日から6ヶ月」にしてもらうよう、最初の段階でメーカーに依頼しておくのが鉄則だ。
うちでものづくり補助金を取った時は、交付申請の書類を出す前に見積書の品目名と事業計画書の設備一覧を突き合わせるチェックリストをNotionで作った。5分で終わる作業だが、これをやるかやらないかで差戻しリスクが大きく変わる。
準備スケジュールと業者選定理由書の構成
業者選定理由書の公式様式はものづくり補助金ポータルサイトからダウンロードできる。Go-Tech事業の場合は公募要領の別添様式に含まれている。記載項目は共通で、①選定先の企業名・所在地、②発注内容の概要、③相見積もりが取れない理由、④選定の妥当性を裏付ける根拠資料の4項目だ。
③の「理由」欄でやりがちな失敗が、「長年の取引実績がある」「担当者の技術理解が深い」といった主観的な記述だけで埋めること。これは認められない。あくまで特許・技術仕様・競合不在の客観的証拠が求められる。
準備スケジュールの目安は以下の通りだ。
申請準備段階(採択前2〜3ヶ月)。メーカーの特許番号をJ-PlatPatで確認し、競合メーカー候補を3社リストアップする。採択前に照会メールを送っておくのが理想。朝のカフェで公募要領を読む時間に、照会先リストも一緒に整理しておくとあとが楽になる。
採択発表後1週間以内。見積書の再取得(有効期限の確認)と競合照会の回答を回収する。回答が揃った時点で業者選定理由書を作成する。
交付申請の提出期限(採択発表から約2ヶ月後)まで。見積書の品目名・金額と事業計画書の整合性を最終チェックし、業者選定理由書と添付資料を一式揃えて提出する。海外メーカーの場合は回答に1ヶ月かかることもあるため、余裕を持って動くこと。
FAQ
業者選定理由書は何円以上の設備で必要ですか?
ものづくり補助金・Go-Tech事業ともに、単価50万円(税抜)以上の機械装置等で相見積もりが取れない場合に必要です(2026年6月時点)。50万円未満の物品でも補助事業の手引きで相見積もりを推奨されるケースがあるため、公募要領と手引きの両方を確認してください。
競合メーカーへの照会は何社必要ですか?
公募要領に「最低○社」の明記はありませんが、2〜3社への照会記録があれば「他社で対応不可」の客観性が十分に示せます。1社だけだと「たまたまその1社が対応不可だっただけでは」と判断されるリスクがあります。
特許を持っていないメーカーの設備でも業者選定理由書は通りますか?
通ります。特許は客観的根拠の1つであって必須ではありません。競合メーカーの「対応不可」回答と既存設備との接続仕様による技術的排他性を示せば、特許がなくても認められます。3点セット(特許・照会記録・技術仕様)のうち2つ以上を揃えるのが安全です。
Go-Tech事業で公設試が使う設備にも業者選定理由書は必要ですか?
Go-Tech事業で公設試が自ら保有する設備を研究に使用する場合、その設備費は公設試側の経費として計上されるため、中小企業側の業者選定理由書は不要です。ただし中小企業が自社に導入する特注設備は通常のルールが適用されます。
参考文献
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(第23次公募) — 全国中小企業団体中央会, 2026年2月
- 令和8年度 成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)公募要領 — 経済産業省 中小企業庁, 2026年2月
- 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat) — 独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)
- J-Net21 中小企業ビジネス支援サイト — 独立行政法人中小企業基盤整備機構






