令和8年9月22日現在──3つの「締め切り」が重なっている
結論から言うと、今秋は雇用系助成金の「年度内タイムリミット」が3本同時に走っている。業務改善助成金の申請窓口は今年から9〜11月限定に変わり、都道府県によっては10月1日が申請期限になる。キャリアアップ助成金(正社員化コース)は10月1日の最低賃金改定前後で転換タイミングの設計に差が出る。そして事業展開等リスキリング支援コースは令和8年度が最終年度で、今から計画届を出さないと令和9年度には制度自体が使えなくなる。
それぞれ単体では別の機会に解説してきた内容だが、3本が重なる秋の逆算スケジュールを「年度末タイムライン」として整理する必要がある。スタートアップ専門社労士として年間100件超の助成金申請を支援する立場から、9月〜10月に動かないと年度末に取り逃がす3パターンを具体的な日付付きで解説する。
パターン1:業務改善助成金の申請窓口が「11月30日で閉まる」を知らない
令和8年度から申請期間が9〜11月のみに変わった
業務改善助成金は令和8年度から申請期間が大きく変わった。例年は4月から受付が始まっていたが、令和8年度は2026年9月1日に受付開始し、申請期限は各都道府県の地域別最低賃金の発効日の前日または11月30日のどちらか早い方という「短期決戦」になった。東京都・埼玉県・神奈川県など10月1日に最低賃金が発効する都道府県では、9月30日(今週末)が実質の申請期限だ。
スタートアップでよくあるのが、「業務改善助成金は年度内ならいつでも申請できる」という思い込みだ。令和7年度まではそれが正しかった。しかし令和8年度から申請期間が一本化・短縮されており、12月以降は受付を受け付けてもらえない。「来年また申請しよう」も危ない。令和9年度の制度内容が同じとは限らない。
令和8年度の対応期限(都道府県別に確認を)
- 東京都・大阪府・神奈川県など10月1日改定の主要都府県:申請期限は9月30日(残り8日)
- 多くの地方都市(10月中旬〜下旬改定):最低賃金発効日の前日が申請期限
- 全国共通の上限:2026年11月30日
令和8年度の主な要件変更ポイント
令和8年度から以下の点が変わっており、令和7年度の感覚で申請準備をしていると詰まる。
- 対象労働者が雇用保険被保険者に限定:週20時間未満のパートタイマーは対象外になった
- 雇用期間要件が3ヶ月→6ヶ月に延長:新規採用者を対象にする場合は6ヶ月以上の雇用が必要
- 申請期間が通年→9〜11月限定に変更:上記の通り
申請には「事業場内最低賃金の50円以上引き上げ」「設備投資・PC・クラウドソフト等の対象経費」「雇用保険被保険者の対象労働者(6ヶ月以上継続雇用)」の要件がある。固定残業代を含む月給の場合、固定残業代除外後の時給換算が事業場内最低賃金の計算基礎になることを見落とすスタートアップが多い。月給30万円(みなし残業40時間込み)の場合、残業代除外後の基本給ベースで時給換算し直すと想定より低い金額になるケースがある。
最大600万円の助成金が対象だが、まず「自社の事業場内最低賃金はいくらか」を正確に把握することが先決だ。
パターン2:キャリアアップ助成金の「10月1日前転換」が有利なのに9月を逃す
最低賃金改定前の転換が3%計算を有利にする
キャリアアップ助成金(正社員化コース)の申請要件の1つに「転換後6ヶ月間の賃金が転換前6ヶ月の賃金より3%以上増加していること」がある。この比較に最低賃金改定が間接的に影響する。
転換前6ヶ月に「旧最低賃金ベース」の期間が含まれる場合、転換前の賃金平均が低くなり、転換後の3%増加を達成しやすくなる。逆に10月転換や11月転換では転換前6ヶ月(4〜9月分)の賃金平均が旧最低賃金ベースで固定されるが、転換後6ヶ月(10月〜翌3月)には新最低賃金発効後の期間がほぼ全部含まれる。3%計算の難易度という観点では、9月中の転換が最も余裕のある設計になりやすい。
さらに重要なのは申請タイムラインだ。
| 転換月 | 第1期申請(6ヶ月後) | 申請期限(賃金支払日翌日起算2ヶ月) |
|---|---|---|
| 9月転換 | 令和9年3月以降 | 令和9年5月末 |
| 10月転換 | 令和9年4月以降 | 令和9年6月末 |
| 11月転換 | 令和9年5月以降 | 令和9年7月末 |
いずれも受給は令和9年度になるが、9月転換であれば令和9年初頭から申請準備を進めることができる。IPO前後のスタートアップが年間の資金繰り計画を立てる場合、申請行為の開始時期を把握できるメリットは大きい。
計画書にコースが登録されているか今すぐ確認を
先週、支援しているシリーズBのSaaS企業から「10月に2名を正社員化したい、キャリアアップ助成金の申請はいつからできるか」という連絡が来た。キャリアアップ計画書を確認したところ、登録されていたのは賃金規定等改定コースのみで、正社員化コースが含まれていなかった。変更届(様式第2号)を管轄ハローワークへ9月初旬に持参して受理してもらい、転換日を10月1日から10月7日にずらすバッファを確保した。「計画書さえ出してあれば、コース追加は変更届でいつでもできると思っていた」という担当者の認識を修正できた。変更届の受理確認後に転換日を設定するのが正しい順序だ。
キャリアアップ計画書への変更届は転換日の前日までに受理されている必要がある(提出日ではなく受理日)。10月前後は窓口が混雑するため、転換予定日の2〜3週間前には提出したい。9月中に転換を予定しているなら、今週中に計画書を確認すること。
重点支援対象者(80万円)の要件③はリスキリングとの連携
令和7年度から導入された重点支援対象者制度では、該当者は1人80万円、非該当なら40万円(中小企業)と支給額が2倍変わる。スタートアップの典型的な採用パターン(有期契約6ヶ月→正社員転換)では要件①②を満たしにくいが、要件③「人材開発支援助成金の訓練修了者」は狙える。つまり、後述するリスキリング支援コースを活用して今秋に訓練を完了させた社員を転換すれば、重点支援対象者として80万円の対象にできる。この連携設計が使えるのも、リスキリング支援コースが最終年度の今年が実質的な最後のチャンスになる。
パターン3:リスキリング支援コースが令和8年度末で終了するのに「来年度でいい」と思っている
事業展開等リスキリング支援コースは令和4〜8年度の時限措置
人材開発支援助成金の「事業展開等リスキリング支援コース」は令和4年度から令和8年度末までの時限措置だ。令和9年度以降の継続は現時点(2026年9月)では未定であり、「来年度でいい」という後回しは致命的になる可能性がある。
制度を先に整えてから助成金を副産物として取りにいく発想が本筋だが、今年の秋に限っては「令和8年度最終年度」という制約が判断を急かしている。
令和8年8月3日改正で「汎用プロンプト研修」は明示的に対象外に
令和8年8月3日の改正で、DX・GX訓練においても「概念理解や汎用的な内容にとどまるもの」は対象外と明確化された。ChatGPTの使い方入門のような汎用プロンプト研修は明示的に不可となっている。対象となるには「自社の事業展開に直結した具体的なスキル習得」が必要だ。
疎明書(様式28号)には次の3点を具体的に書く必要がある:
- 自社のどの事業展開に向けた訓練か(例:SaaSプロダクトのバックエンドAI化)
- どの職種が対象か(例:バックエンドエンジニア)
- どんな業務直結スキルを習得するか(例:Pythonによる機械学習モデルの実装)
「AIリテラシーを上げたい」という漠然とした目的では疎明書が通らない。この具体化が9月中に完了できるかが、今年度内申請の最初のハードルになる。
令和8年度内に完了するための逆算スケジュール
| 作業 | 推奨期限 | 備考 |
|---|---|---|
| 疎明書(様式28号)の設計・作成 | 2026年9月中 | 業務直結性の証明ポイント3点を確定 |
| 計画届の提出 | 2026年10月上旬 | 訓練開始1ヶ月前必着(11月開始なら10月上旬) |
| 訓練実施 | 2026年11月〜2027年2月 | 定額制eラーニングは1人10時間以上の修了証明が必要 |
| 支給申請 | 2027年1〜3月 | 訓練終了後2ヶ月以内(年度末3月31日が上限) |
| 訓練修了者の正社員転換(要件③活用) | 2027年1〜3月 | 訓練修了後に転換→キャリアアップ助成金申請の順序を守る |
計画届は訓練開始の1ヶ月前必着なので、11月から訓練を開始するなら計画届の提出は10月上旬が最終ラインだ。計画届を出す前に研修を開始してしまうスタートアップが後を絶たないが、そうなると助成金の対象外になるだけでなく、キャリアアップ助成金の重点支援対象者要件③(リスキリング支援コース修了者)も満たせなくなる二重の損失になる。
リスキリング支援コースとキャリアアップ助成金を連携させると:
- 研修費用:リスキリング支援コースで最大75%の経費助成+賃金助成
- 転換助成:キャリアアップ助成金(重点支援対象者・要件③)で最大80万円
この一石二鳥設計が使えるのは令和8年度が実質的な最後のチャンスになる可能性が高い。
3パターンを防ぐ「9月中の助成金棚卸し3ステップ」
毎朝ヨガの後でSlackを確認するのが習慣だが、今週から複数のクライアントに「9月中の棚卸しを今すぐやってください」とメッセージを送っている。チェックは3ステップで十分だ。
ステップ1:業務改善助成金の対象確認(即日)
- 雇用保険被保険者リストを確認(週20時間未満のパートを除外)
- 固定残業代除外後の時給換算で事業場内最低賃金を再計算
- 設備の見積書が入手済みかを確認(申請後に発注・契約が原則)
- 自都道府県の最低賃金改定日(=申請期限)を確認し、間に合わない場合はスキップ判断
ステップ2:キャリアアップ計画書のコース確認(3日以内)
- 現在の計画書に「正社員化コース」が登録されているかを確認
- 未登録の場合は変更届(様式第2号)を管轄ハローワークへ今週中に持参
- 10月転換予定者の転換日を受理確認後に1週間程度後ろにずらすバッファ設計を検討
- 転換予定者がリスキリング支援コースの修了見込みかを確認(要件③の活用可否)
ステップ3:リスキリング支援コースの計画届スケジュール確認(1週間以内)
- 疎明書(様式28号)に「業務直結性の証明ポイント3点」を書けるかを確認
- 汎用プロンプト研修の内容が含まれていないかを確認(令和8年8月3日改正の対象外要件)
- 計画届の提出期限(訓練開始1ヶ月前)を逆算してカレンダーに設定
- 定額制eラーニングを使う場合は1人10時間以上の受講管理体制を確認
よくある質問(FAQ)
Q1. 業務改善助成金は来年度(令和9年度)も使えますか?
令和9年度の制度内容は現時点(2026年9月)では確定していません。令和8年度は申請受付が9〜11月のみに短縮されており、制度が毎年変更されています。令和8年度内に確実に活用することをお勧めします。なお、設備の見積書を先に取得しても、申請→交付決定→発注・契約の順序を必ず守る必要があります。交付決定前の発注・契約は助成対象外になります。
Q2. キャリアアップ計画書の変更届は当日に受理されますか?
窓口受付当日での対応は技術的には可能ですが、10月前後は窓口が混雑する時期です。変更届の受理日が転換日の前日までに完了していることが要件のため(提出日ではなく受理日)、転換予定日の2〜3週間前には提出することを強くお勧めします。受理確認後に転換日を1週間程度後ろに設定する「バッファ設計」と組み合わせると安全です。
Q3. リスキリング支援コースの計画届提出後に訓練内容を変更することはできますか?
変更が生じた場合は変更届の提出が必要です。変更届を出さずに訓練内容を変更すると、変更分が助成対象外になります。計画届提出後に「やっぱりこの研修に変えたい」というケースがスタートアップでは頻発します。Slackに社労士チャンネルを設置して訓練の変更情報を即時共有する仕組みがあると対応速度が大幅に改善します。
Q4. キャリアアップ助成金の重点支援対象者要件③(リスキリング支援コース修了者)は、令和8年度中に訓練修了・転換まで完了しないといけませんか?
キャリアアップ助成金の申請自体は訓練修了後の正社員転換後6ヶ月を経てから行うため、転換は令和9年度でも問題ありません。ただし、リスキリング支援コースの計画届・訓練・支給申請は令和8年度末(2027年3月31日)までに完了する必要があります。訓練修了→正社員転換の順序は守ること(逆にすると要件③を満たさない)。
Q5. 3つのパターンに全部対応するのは現実的ですか?優先順位は?
企業の状況によって優先順位が変わります。
・シード〜シリーズA(社員5〜15名):設備投資予定があれば業務改善助成金(即日対応)→キャリアアップ計画書確認の2点が最優先。
・シリーズB(社員30名以上):転換予定者がいればキャリアアップ計画書確認が最優先。IPO準備中ならリスキリング支援コースの最終活用も含めて検討を。
「全部やる」ではなく「自社の今の状況に必要な1本を9月中に仕込む」の発想で動いてください。
まとめ
令和8年度の雇用系助成金には、秋に集中する3本の年度内タイムリミットがある。業務改善助成金は11月末(東京都・大阪府等は9月30日)、キャリアアップ助成金は10月1日前の転換日設定が有利、リスキリング支援コースは令和8年度最終年度で10月上旬の計画届提出が実質上限だ。
制度を先に整えてから助成金を副産物として取りにいくのが本筋だが、今年の秋に限ってはこの3本の期限が同時に迫っている。Slackに社労士チャンネルを設置しているクライアントには今週中に棚卸し結果を共有してもらい、来週から変更届・計画届・見積書の並行作業に入る予定だ。まず何から動くかわからない場合は、キャリアアップ計画書の正社員化コース登録確認から始めてほしい。それだけで10月以降の転換準備が大きく変わる。





