結論から言うと、「派遣で代替要員を入れれば助成金がもらえる」という理解は半分正しくて半分危険です。

令和8年度の両立支援等助成金(育休中等業務代替支援コース)は拡充され、新規雇用で最大81万円(プラチナくるみん認定なら99万円)まで支給額が引き上げられました。派遣社員の受け入れも「新規雇用」に含まれるため、スタートアップからの相談が増えています。

ところが、実際に申請まで辿り着けるのは相談件数の半分以下です。この記事では、派遣社員を代替要員にする際の3つの不支給パターンと、社員10名前後のスタートアップが選ぶべき代替コースを解説します。

育休中等業務代替支援コースの基本構造

このコースには2つの申請類型があります。

類型内容最大支給額対象企業規模
新規雇用代替要員を新たに雇用(派遣受入含む)最大81万円(プラチナくるみん認定99万円)雇用労働者数300人以下
手当支給等既存社員に業務を割り振り、手当を支給業務体制整備経費6万円+手当総額の3/4(上限125万円)雇用労働者数300人以下

派遣社員を使うのは「新規雇用」の方です。ただし、派遣の受け入れには直接雇用とは異なる固有の要件があり、ここで躓くスタートアップが後を絶ちません。

パターン1:派遣契約の開始時期が育休取得者の妊娠等認知日より前

新規雇用の要件として、代替要員の雇用(派遣契約の開始)は育休取得者の妊娠・出産等を事業主が認知した日以降である必要があります。

スタートアップでよくあるのが、「人手が足りないから」と先に派遣を確保しておき、後から育休が発生した段階で「あの派遣さんを代替要員として申請しよう」と考えるケースです。この場合、派遣契約の開始時期が妊娠認知日より前なので、新規の代替要員確保とは認められません

さらに厄介なのは、増員目的で先に派遣を入れていたのに、後から育休代替だったことにしようとするケースです。これは不支給どころか不正受給のリスクを伴います。派遣先が派遣会社に対して育休代替であることを隠して契約した場合も同様です。

チェックポイント

  • 派遣契約の開始日が、育休取得者の妊娠等を認知した日以降であること
  • 妊娠等の認知日を社内で記録に残しておくこと(報告メール・Slack等)
  • 既存の派遣社員を代替要員として充てることは原則不可

パターン2:代替要員の業務内容が育休取得者と不一致

代替要員は、育休取得者の業務を代替することが要件です。職種が違う、担当業務が重なっていない場合は、不支給になります。

ここで問題になるのが、スタートアップ特有の「マルチタスク文化」です。エンジニアが育休を取ったので事務系の派遣を入れたところ、「社内の業務全般を回すために必要だった」という説明では通りません。代替要員の業務内容が、育休取得者が従事していた業務と一致している必要があります。

以前、クライアントのスタートアップで、フルスタックエンジニアが育休を取得した際に、バックエンド専門の派遣エンジニアを代替として受け入れたケースがありました。業務内容の重複を証明するために、育休取得者の職務記述書と代替要員の業務指示書を突合して提出しましたが、就業規則に職務定義が曖昧だと、この突合ができません

制度を先に整えてから代替要員を確保する。就業規則の職務定義が曖昧なままでは、業務の一致を証明する術がありません。

チェックポイント

  • 育休取得者の業務内容を文書化しておく(職務記述書・業務分担表)
  • 代替要員の派遣契約書・業務指示書に、育休取得者と同等の業務内容を明記する
  • 就業規則の職務定義を整備し、各ポジションの業務範囲を明確にしておく

パターン3:申請期限の起算日を間違える

育休中等業務代替支援コースの申請期限は、育休終了日の翌日から2か月以内です。育休開始日からではありません。

ここで多いのが、育休が延長されたケースでの混乱です。当初1年の育休予定が保育園に入れず延長になった場合、申請期限も連動して後ろにずれます。ところが、「最初の予定通り申請しなければ」と焦って、延長前の終了予定日から起算して申請してしまうケースがあります。この場合、育休がまだ終わっていないので申請要件を満たしません。

逆に、延長を繰り返しているうちに申請そのものを忘れてしまうケースもあります。以前、クライアントのスタートアップ(社員15名)で男性社員が育休を取得した際、バックオフィス担当が経理と労務を兼務していたため、育休終了後の申請期限を見逃して不支給になった事例がありました。それ以降、全クライアントに「育休発生→就業規則確認→申請スケジュール設定」のチェックリストを導入しています。

チェックポイント

  • 申請期限は育休終了日の翌日から2か月以内
  • 育休延長時は申請期限も再計算する
  • 育休開始時点でカレンダーに申請期限をリマインダー設定する
  • 少人数企業は「育休発生→即座に申請スケジュール設定」をオペレーション化する

社員10名前後のスタートアップには「手当支給等」の方が有利

ここまで新規雇用(派遣受入含む)の不支給パターンを見てきましたが、社員10名前後のスタートアップには「手当支給等」の方が要件を満たしやすく、支給額も大きいケースがあります。

手当支給等は、育休取得者の業務を既存社員に割り振り、その社員に手当を支給する方式です。業務体制整備経費として6万円、プラス代替業務手当の総額の3/4が助成されます(上限125万円)。

少人数のスタートアップでは、そもそも「育休取得者と同じ業務ができる派遣社員」を見つけること自体が困難です。それよりも、既存メンバーで業務を分担し、その分の手当を支給する方が現実的です。

比較項目新規雇用(派遣含む)手当支給等
最大支給額81万円125万円
要件の複雑さ高い(契約時期・業務一致等)比較的シンプル
向いている企業30名以上で代替要員確保が可能10名前後で既存メンバーが業務分担
派遣の要件リスクあり(3パターンの不支給リスク)なし

新規雇用と手当支給等の判断フロー

どちらを選ぶかの判断は、以下の3つの問いで整理できます。

  1. 育休取得者と同等の業務ができる派遣社員が市場にいるか?→いない場合は手当支給等
  2. 派遣契約を育休認知後に新規で結べるタイミングか?→既存派遣では申請不可
  3. 既存社員で業務分担できる体制があるか?→ある場合は手当支給等の方が支給額が大きい可能性

スタートアップでは「まず動いて、後から制度を整える」文化が根強いですが、助成金はその逆。先に制度と手続きを整えてから動くのが鉄則です。育休の発生を認知した時点でSlackに社労士チャンネルがあれば、その日のうちにコース選定と申請スケジュールを設定できます。朝のヨガの後にSlackを開いた瞬間に育休報告が来ていても、チェックリストさえあれば迷いません。

まとめ

パターン不支給の原因防止策
1派遣契約開始が妊娠認知日より前認知日の記録、新規契約の時系列管理
2代替要員の業務が育休取得者と不一致職務記述書の整備、業務指示書の突合
3申請期限の起算日(育休終了日翌日)を誤認育休開始時に申請期限をカレンダー設定

社員10名前後のスタートアップは、新規雇用より手当支給等(最大125万円)を検討する方が現実的です。どちらを選ぶにしても、育休発生を認知した段階で社労士に連絡し、コース選定と申請スケジュールを即日設定する仕組みを作っておくことが、不支給を防ぐ最も確実な方法です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 派遣社員ではなくパート・アルバイトを代替要員として直接雇用した場合も新規雇用の対象になりますか?

はい、対象になります。新規雇用には直接雇用(正社員・契約社員・パート等)と派遣受入の両方が含まれます。ただし、直接雇用の場合も雇用開始日が妊娠等の認知日以降であること、業務内容が育休取得者と一致していることなど、基本的な要件は同じです。

Q2. 育休取得者が予定より早く復帰した場合、助成金の額はどうなりますか?

新規雇用の場合、支給額は代替期間の長さに応じて決まります。育休取得者が予定より早く復帰した場合は、実際の代替期間に応じた支給額になります。7日以上の育休取得が最低要件なので、極端に短い復帰でなければ申請自体は可能です。

Q3. 手当支給等で業務代替者に支給する手当の金額に下限はありますか?

手当の金額に法定の下限額はありませんが、業務代替の実態に見合った金額であることが求められます。極端に少額の手当(月1,000円など)では制度の実態なしと判断されるリスクがあります。業務量の増加に応じた合理的な金額設定が必要です。就業規則に業務代替手当の支給規定を明記しておくことも重要です。

Q4. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)と育休中等業務代替支援コースは併用できますか?

はい、併用可能です。出生時両立支援コースは男性の育休取得に対する雇用環境整備を評価するもので、育休中等業務代替支援コースは業務代替の取組を評価するものです。1人の男性育休に対して両コースを申請し、合計で130万円超の助成金を受けることも可能です。ただし、それぞれの要件を個別に満たす必要があります。

Q5. 育休中等業務代替支援コースの申請に必要な主な書類は何ですか?

主な必要書類は、育児休業取得者の育児休業申出書・育児休業取扱通知書、代替要員の労働条件通知書(派遣の場合は派遣契約書)、業務代替の実態を示す書類(業務分担表等)、就業規則、賃金台帳、出勤簿です。派遣の場合は派遣契約書に育休代替である旨が記載されていることも重要です。

参考文献