結論から言うと、出生時両立支援コースは「男性育休を取らせた」だけでは通らない

両立支援等助成金の出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)は、男性労働者が子の出生後8週間以内に育児休業を取得した場合に、中小企業で20万円(雇用環境整備措置を4つ以上実施していれば30万円)が支給される制度です。代替要員加算20万円や情報公表加算2万円もあり、フル活用すれば1人目の男性育休で最大52万円になります。

スタートアップでよくあるのが、「うちのエンジニアが育休取ったから助成金を申請しよう」と育休取得後に動き出すパターンです。しかしこのコースの本質は育休取得そのものではなく、育児休業を取得しやすい「雇用環境整備措置」を事前に実施していることが前提です。ここを満たせず不支給になるスタートアップが非常に多い。

夫もIPO経験のあるCFOなので、うちの息子が小1になるまでの過程で男性育休の重要性は身をもって知っています。制度を先に整えてから育休を促進する——この順番を間違えると、助成金どころかIPO審査でも指摘されることになります。

パターン1:雇用環境整備措置の「研修実施」が記録不備で認められない

出生時両立支援コースの申請には、雇用環境整備措置を2つ以上実施していることが必要です(2人目なら3つ以上、3人目なら4つ以上)。雇用環境整備措置とは、育児介護休業法に定められた以下の5項目です。

  • ①育児休業に係る研修の実施
  • ②育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口の設置等)
  • ③自社の育児休業取得事例の収集・提供
  • ④育児休業に関する制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
  • ⑤育児休業申出をした労働者の育児休業取得が円滑に行われるようにするための業務の配分または人員の配置に係る必要な措置

スタートアップが最も選びやすいのは①研修と②相談窓口です。しかし問題は「研修をやった」と言いながら、実施日・参加者名簿・研修内容の記録が残っていないパターンです。

「全社ミーティングで育休制度の説明をした」「Slackで育休の案内を流した」——こうした取り組み自体は悪くありませんが、助成金の審査ではそれが「研修」として成立しているかを書面で確認されます。日時、参加者、研修資料、実施者の記録がセットで残っていなければ、「雇用環境整備を実施した」とは認められません。

対策は単純です。研修を実施する前に、出席簿のテンプレートと研修資料のPDFを用意しておくこと。15分の社内説明会でも構いませんが、「いつ・誰が・何を説明し・誰が参加したか」が再現可能な形で記録されていることが最低条件です。

パターン2:産後パパ育休(出生時育児休業)の申出期限を就業規則で2週間超に設定してしまい、雇用環境整備が3つ必要になる

ここが最も見落とされるポイントです。産後パパ育休の申出期限は法律上「原則2週間前まで」ですが、労使協定で「1ヶ月前まで」に延長できます。スタートアップの場合、少人数で業務の引き継ぎ時間を確保するために、就業規則で申出期限を1ヶ月前に設定しているケースがあります。

問題は、この申出期限を2週間より長く設定している場合、雇用環境整備措置が2つではなく3つ以上必要になることです。令和8年度の要件では、産後パパ育休の申出期限を2週間前より長く設定している事業主は、1人目の申請でも3つ以上の措置が求められます。

「研修」と「相談窓口」の2つだけで申請しようとしていたスタートアップが、就業規則を確認したら申出期限が1ヶ月前になっていた——こうなると、急遽3つ目の措置(事例収集や方針周知など)を追加で実施しなければなりません。

以前、年間100件超の助成金を処理する中で気づいたのは、1つのコースで事前手続きを後回しにする企業は、他のコースでも同じミスを繰り返すという構造的な問題です。出生時両立支援コースも例外ではありません。キャリアアップ助成金でキャリアアップ計画書の届出を後回しにしている企業は、このコースでも雇用環境整備の記録を後回しにしています。

対策としては2つの選択肢があります。

  1. 就業規則の申出期限を「2週間前」に戻す:少人数でも引き継ぎの仕組みを整えれば2週間で対応可能。スタートアップのスピード感に合う
  2. 3つ以上の措置を最初から計画的に実施する:研修+相談窓口+方針周知の3つなら、追加コストはほぼゼロで実施できる

パターン3:申請期限を「育休開始日から2ヶ月」と勘違いして期限切れになる

出生時両立支援コースの申請期限は、対象労働者の育児休業が終了した日の翌日から起算して2ヶ月以内です。「開始日」ではなく「終了日」起算です。

一見すると終了日起算の方が余裕があるように見えますが、スタートアップで問題になるのは以下のケースです。男性社員が産後パパ育休(最大4週間)を取得し、その後すぐに通常の育児休業に入った場合、「どちらの終了日が起算点なのか」が分からなくなるのです。

このコースの対象は「子の出生後8週間以内に開始する育児休業」です。つまり産後パパ育休(出生時育児休業)が対象であり、その終了日が起算点になります。通常の育児休業が続いていても、産後パパ育休が終了した時点から2ヶ月のカウントが始まります。

スタートアップのバックオフィスは経理・労務・総務を1〜2名で兼務していることがほとんどです。私のクライアントで実際にあったのは、社員15名の会社で男性社員が育休を取得し、バックオフィス担当が「育休が終わってから申請すればいい」と思い込んで期限を過ぎてしまったケースです。

Slackに社労士チャンネルを設置し、育休取得の報告が入った時点で申請スケジュールを即座に共有する仕組みを導入すれば、こうしたミスは構造的に防げます。対応速度が劇的に変わります。

出生時両立支援コースを確実に通すための4つのステップ

  1. 就業規則の産後パパ育休規定を確認する:申出期限が2週間前か、それより長いか。長い場合は雇用環境整備が3つ必要
  2. 雇用環境整備措置を計画的に実施し、記録を残す:研修は出席簿・資料をセットで保管。相談窓口は社内通知の証跡を残す
  3. 男性社員の配偶者の出産予定日が判明した時点で、社労士と申請スケジュールを共有する:育休開始前に雇用環境整備を完了させる逆算が必要
  4. 育休終了日+2ヶ月の申請期限をカレンダーに即座に登録する:中間リマインダー(期限1ヶ月前)も設定

このコースはIPO審査とも相性が良い制度です。男性育休の取得実績と雇用環境整備の実施記録は、IPO労務監査で「育児介護休業法への対応状況」を示す証拠になります。3年後のIPO審査で説明できる制度として残る設計をしておけば、助成金は副産物として付いてきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 従業員5名のスタートアップでも出生時両立支援コースは申請できますか?

申請できます。第1種(男性労働者の育児休業取得)は中小企業が対象で、従業員数の下限要件はありません。ただし雇用保険の適用事業所であることが前提です。社員数が少ないほど1人の育休が業務に与える影響は大きいですが、それは助成金の要件とは別の経営課題として対処する必要があります。

Q2. 出生時両立支援コースと育休中等業務代替支援コースは併用できますか?

併用できます。出生時両立支援コースは「男性育休を取得しやすい環境を整備した」ことに対する助成金、育休中等業務代替支援コースは「育休取得者の業務を代替する体制を整えた」ことに対する助成金です。両方の要件を満たせば同時に申請可能で、合計すると1人の男性育休で最大130万円超の助成金を受給できるケースもあります。

Q3. 雇用環境整備の「相談窓口の設置」はSlackチャンネルでも認められますか?

相談窓口の設置方法について厳密な形式要件はありませんが、「窓口の担当者を明確にし、労働者に周知していること」が必要です。Slackチャンネルを窓口とする場合は、担当者名を明記し、社内通知で全従業員に周知した記録を残してください。ただし、プライバシーの観点から個別のDMや別チャンネルでの相談も受け付ける体制にすることを推奨します。

Q4. 産後パパ育休ではなく通常の育児休業を取得した場合でも対象になりますか?

対象になります。このコースの要件は「子の出生後8週間以内に開始する育児休業」であり、産後パパ育休(出生時育児休業)に限定されていません。通常の育児休業でも、出生後8週間以内に開始し、所定の日数(1人目は5日以上)を取得していれば対象です。ただし、就業規則に育児休業制度が適切に規定されていることが前提です。

Q5. 2人目、3人目の男性社員の育休でも申請できますか?

できます。ただし要件が段階的に厳しくなります。2人目は育休10日以上かつ雇用環境整備3つ以上、3人目は育休14日以上かつ雇用環境整備4つ以上が必要です。また、既に受給した男性労働者の人数によって支給対象が限定されるため、累計の上限にも注意が必要です。

参考文献