結論から言うと、このコースは「テレワークもフレックスも入れました」では1円も出ません。制度の数、実際の利用、面談と支援プランの記録。この3点が揃って初めて支給対象になります。
スタートアップでよくあるのが、育児・介護休業法の改正対応で就業規則を直したあと、「ついでに助成金も」と考えるパターンです。ただ、助成金単体で動くと、運用が伴わず落ちます。本記事では厚生労働省の公開情報をもとに、不支給になりやすい3パターンと逆算スケジュールを整理します。
柔軟な働き方選択制度等支援コースとは
両立支援等助成金のコースの一つで、育児中の労働者が柔軟に働ける制度を複数導入し、利用した労働者を支援した中小企業事業主に支給されます。2025年10月施行の育児・介護休業法改正で、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者に対し、事業主が柔軟な働き方の措置を講じることが義務になりました。このコースは、その義務を上回る取組を後押しする位置づけです。
支給額は、公開されている解説(厚労省の中小企業育児・介護休業等推進支援事業サイト)によると次のとおりです。
| 区分 | 支給額 |
|---|---|
| 柔軟な働き方選択制度(3つ導入) | 20万円 |
| 柔軟な働き方選択制度(4つ以上導入) | 25万円 |
| 子の看護等休暇の有給化支援 | 30万円 |
| 中学校修了までの子を養育する労働者が利用できる場合の加算 | 20万円 |
| 育児休業等に関する情報公表加算 | 2万円 |
柔軟な働き方選択制度は1事業主につき5人までが対象です。加算のみの受給はできません。対象となる措置は、フレックスタイム・時差出勤、育児のためのテレワーク等、短時間勤務、保育サービスの手配・費用補助、養育両立支援休暇の5種類です。
なお令和8年度は様式の更新があり、民間サイトでは金額や制度数の記載が古いものも混在しています。申請前に必ず厚労省の最新の支給申請の手引きで確認してください。
パターン1:制度数の数え方を間違える
最初の落とし穴は「いくつ入れたか」の数え方です。要件は、制度を3つ以上導入することです。ところが法律上、事業主はすでに複数の措置を講じる義務を負っています。義務対応のために整備した分と、助成金のために追加した分を混ぜて数えると、「3つ」に届いていないことがあります。
実務では、次の順で整理します。
- 義務対応として選んだ措置を一覧にする
- 就業規則に規定された制度を全部書き出す
- 助成金の手引きの定義と照らして、数に入る制度を確認する
注意したいのは、フレックスタイムや時差出勤のように「制度名はあるが条件が曖昧」なケースです。規定が口頭運用だと、数に入りません。IPO審査でも「規程に書いていない運用」は指摘されます。助成金とIPOの両方で説明できる形に、制度を先に整えてから動くのが鉄則です。
パターン2:制度は作ったが、6か月の利用実績が基準に届かない
2つ目は利用実績です。このコースは、対象労働者が導入した制度の一つを、利用開始から6か月間で一定の基準以上利用することが要件です。就業規則を整えるだけでは足りません。
スタートアップは社員数が少なく、対象になる育児中の社員が1〜2人ということも多いです。その1人が「使わなかった」「使ったが基準に届かなかった」で終わると、全体が不支給になります。
対策は3つです。
- 制度の利用ハードルを下げる設計にする(申請手続きを簡素化する)
- 利用開始日を記録に残し、6か月の終期をカレンダーに入れる
- 毎月、利用状況を勤怠データで確認する
「基準」の具体的な数値は制度ごとに異なります。ここは手引きの最新版で確認してください。推測で運用しないことが大切です。
パターン3:周知・面談・支援プランの記録がない
3つ目は記録です。要件には、制度の利用に関する方針の社内周知と、労働者との面談を行い柔軟な働き方支援プランを作成・実施することが含まれます。
よくある不備は次のとおりです。
- Slackで周知したが、日付や対象範囲が残っていない
- 面談は実施したが、議事メモがない
- 支援プランが利用開始後に作られている
私のクライアントでも、朝のSlack確認で「面談やりました」と報告が来て、記録を見たら口頭だけ、ということがありました。面談は実施日、参加者、希望する働き方、会社の支援内容をテンプレートにして残してください。周知は全社メールか社内ポータルで、日付が残る形にします。
申請期限から逆算するスケジュール
申請期限は、対象労働者の制度利用を開始した日から6か月が経過する日の翌日から2か月以内です。期限を過ぎると受付されません。次の流れで管理します。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 利用開始前 | 就業規則の整備、方針の周知、面談、支援プラン作成 |
| 利用開始日 | 開始日を記録、6か月後と申請期限日を算出 |
| 利用期間中 | 月次で利用実績を確認、不足があれば本人と調整 |
| 6か月経過後 | 書類を揃え、2か月以内に申請 |
子の看護等休暇を有給化する場合は、就業規則に規定した日の翌日から2か月以内が申請期限です。こちらは別の期限なので混同しないでください。
助成金より先に確認すべき人事課題
最後に、うちの判断基準を書きます。助成金より先に、育児中の社員が実際に働き続けられる制度か、を問います。スケーラブルか、IPO審査で説明できるか、3年後も残る制度か。この3点が揃えば、25万円は副産物としてついてきます。逆に、25万円のために制度を作ると、利用者が出ず、運用が形骸化します。
よくある質問
Q1. 従業員が1人でも申請できますか?
制度の利用対象となる労働者がいれば申請の対象になります。1事業主につき5人までが上限です。ただし利用者が基準を満たさないと不支給なので、運用の管理が重要です。
Q2. 加算だけを申請できますか?
できません。情報公表加算などは、基本の支給と合わせて受給する扱いです。
Q3. 令和8年度の様式は旧様式でも使えますか?
令和8年度は様式が更新されています。厚労省の両立支援等助成金のページで最新の様式を取得して使ってください。
Q4. 他の両立支援等助成金のコースと併用できますか?
コースごとに要件が異なります。同じ労働者・同じ取組で重複できない場合があるため、各コースの手引きで確認してください。






