ものづくり補助金でシステム開発やSaaS構築を申請するIT企業が増えています。補助上限が最大4,000万円(大幅賃上げ特例適用時)と手厚く、「うちもソフトウェア開発で使えるのでは」と考えるのは自然な流れです。

ただ、公募要領を3回読んでみたら、IT・ソフトウェア開発企業が特にハマりやすい経費計画の落とし穴が3つ浮かび上がってきました。ハードウェア製造業を主な想定としてきた補助金の経費区分ルールが、ソフトウェア開発の実態と噛み合わないケースが多いんです。

この記事では、ソフトウェア開発企業がものづくり補助金の経費計画で陥りやすい3つのパターンを、公募要領の記載と照らし合わせながら解説します。

前提:ものづくり補助金でソフトウェア開発は申請できるのか

結論から言えば、申請できます。ものづくり補助金の補助対象経費には「機械装置・システム構築費」が含まれており、ソフトウェアの購入・構築・借用(リース)に関する経費が対象です。

BtoB向けSaaSの新規開発、AIを活用した業務システムのスクラッチ開発、IoTプラットフォームの構築など、独自のシステムを新たに開発するプロジェクトであれば申請の土俵に上がれます。

ただし、既存のSaaS製品を「導入」するだけならデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の管轄です。この棲み分けを間違えると入口で躓きますが、ここでは「自社で新規開発する」前提で話を進めます。

パターン①:自社エンジニアの開発人件費を「システム構築費」に計上してしまう

IT企業がものづくり補助金でもっともハマりやすいのがこれです。

公募要領の「機械装置・システム構築費」の定義には、ソフトウェアの「構築」が含まれています。これを読んで「自社エンジニアがシステムを構築するんだから、その人件費も補助対象だろう」と考えるのは無理もありません。

しかし、公募要領には明確にこう書かれています。

「構築」を自社で行った場合、自社従業員の人件費は対象とならず、原則として外注したものが対象経費となる。

つまり、社内に5人のエンジニアチームがいて全員で6か月間システムを開発しても、そのエンジニアの人件費は1円も補助されないのです。

ハードウェア製造業なら「機械装置の購入費」が経費の大半を占めるため、この制約はそれほど痛くありません。しかし、ソフトウェア開発企業にとって開発コストの大半は人件費です。経費計画で人件費を中心に組んでいた企業が、この事実に気づいた時点で補助対象額が想定の3分の1以下になるケースを何度も目にしてきました。

対策:外注費として切り出せる範囲を事前に設計する

自社エンジニアの人件費が対象外である以上、補助対象にしたい開発工程は外注として発注する構造にする必要があります。具体的には以下の方法があります。

  • フロントエンド・バックエンドの一部を開発パートナー企業に外注する
  • インフラ構築やセキュリティ監査を専門ベンダーに委託する
  • UI/UXデザインやテスト工程を外部に切り出す

ただし、外注費は交付申請時に外注先との契約書(または見積書)が必要です。また、税抜50万円以上の外注には相見積もりが原則求められます。うちで実際に取った時の話なんですけど、特注の検査装置で相見積もりが取れなかったとき、業者選定理由書に特許番号・競合照会記録・技術仕様書の3点を追記してようやく通りました。ソフトウェア開発でも同じ構造です。

パターン②:開発用クラウドサーバー費を全額計上して「他事業と共用」で否認される

ものづくり補助金では「クラウドサービス利用費」が補助対象経費に含まれています。AWS、GCP、Azureなどのクラウドサーバー費用を申請するIT企業は多いのですが、ここにも落とし穴があります。

公募要領の条件は明確です。

補助事業のために利用するクラウドサービスやWebプラットフォームの利用費のみが対象であり、他事業と共有する場合は補助対象外。

ソフトウェア開発企業の場合、AWSアカウント1つで複数のプロジェクトを走らせているのが普通です。本番環境・ステージング環境・他プロジェクトの開発環境が同じアカウント内に同居していることも珍しくありません。

この状態で「AWS利用料を全額補助対象にする」と申請すると、実績報告の段階で「補助事業以外の利用が含まれている」と指摘されて按分否認、あるいは全額否認になるリスクがあります。

対策:補助事業専用のクラウドアカウントを分離する

最も確実な対策は、補助事業専用のAWSアカウント(またはGCPプロジェクト)を交付決定後に新規作成し、補助事業のインフラをそこに集約することです。

  • AWSならAWS Organizationsで別アカウントを作成し、請求を分離
  • GCPなら別プロジェクトを作成し、課金アカウントを紐づけ
  • Azureなら別サブスクリプションで管理

朝カフェで公募要領を読み直していたときに、クラウド利用費の補助対象要件を蛍光ペンで囲んだんですが、「他事業と共有する場合は補助対象となりません」の一文は本当に見落としやすい。テンプレで時短すると、こういうチェックポイントも事前に潰せるので、Notionのクラウド費用チェックシートに「アカウント分離確認」の項目を追加しています。

また、補助事業期間中のクラウド利用費のみが対象であり、補助事業期間を超えた利用料は対象外です。年額契約のクラウドサービスを申請する場合は、補助事業期間に対応する月数分のみを計上してください。

パターン③:アジャイル開発の仕様変更を「計画変更承認」なしで進めて経費否認

これはソフトウェア開発企業に特有の構造的な問題です。

Xで「ゲーム開発って途中で仕様も方向性も変わる前提のプロジェクトなので、そもそも補助金が想定してる『申請時の計画通り進めてください』という前提とかなり衝突しやすい」という投稿が話題になっていましたが、まさにこの通りです。

ソフトウェア開発では、スプリントごとに要件が変わり、ユーザーテストの結果で機能を追加・削除するのは日常茶飯事です。しかし、ものづくり補助金は「交付申請時の事業計画に沿って補助事業を実施する」ことが大前提です。

具体的には、以下のような変更が発生した場合、事前に計画変更承認申請を出す必要があります。

  • 開発するシステムの主要機能の追加・削除
  • 外注先のベンダー変更
  • 経費配分の大幅な変更(項目間の流用が一定比率を超える場合)
  • 税抜50万円以上の機械装置・外注先の変更

計画変更承認なしで開発を進め、実績報告の段階で「申請時の計画と実際の開発内容が異なる」と判断されると、変更部分の経費が否認されるか、最悪の場合は交付取消になります。

対策:補助事業の「外枠」をウォーターフォールで管理する

ソフトウェア開発の現場ではアジャイルを使いつつ、補助金の管理レイヤーはウォーターフォール的に運用するのが現実的な解法です。

  1. 交付申請時の計画を「大枠のマイルストーン」として設計する(機能単位ではなくフェーズ単位で記述)
  2. 月次で経費消化率と進捗をモニタリングし、計画との乖離を早期検知する
  3. 乖離が出た時点で即座に事務局に相談し、計画変更承認の要否を確認する

計画変更承認の処理には2〜4週間かかります。承認が下りるまで該当部分の開発を進められないため、変更の可能性が出た段階で早めに動くのが鉄則です。うちでものづくり補助金の特注検査装置のメーカーを変更した際も、発注前に事務局へ相談して新旧対比表を作成し、承認を取ってから切り替えました。ソフトウェア開発でもこの段取りは同じです。

3つのパターンに共通する根本原因

IT・ソフトウェア開発企業がものづくり補助金の経費計画でつまずく根本原因は、この補助金がハードウェア製造業を主な対象として設計されていることにあります。

項目製造業(ハードウェア)IT企業(ソフトウェア)
主な経費機械装置の購入費エンジニアの人件費
クラウド利用ほぼなしAWS/GCP等が必須
開発プロセス設計→製造→検査アジャイル(仕様変更前提)
計画の確定度比較的高い低い(要件が変わる)

この構造を理解した上で、外注設計・クラウドアカウント分離・マイルストーン管理の3つを事前に仕込んでおけば、ソフトウェア開発でもものづくり補助金を活用できる可能性は十分にあります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 自社エンジニアの人件費が対象外なら、IT企業はものづくり補助金で何を補助してもらえるのですか?

外注した開発費用(外注費)、クラウドサーバー利用費(クラウドサービス利用費)、開発に必要なソフトウェアライセンスの購入費(機械装置・システム構築費)、技術導入費(特許やライセンスの取得費用)などが対象です。自社エンジニアの人件費以外にも補助対象となる経費は複数あるため、経費計画を外注中心に組み替えることがポイントです。

Q2. SaaS開発のサーバー費用は「機械装置・システム構築費」と「クラウドサービス利用費」のどちらで申請すべきですか?

AWSやGCPなどのIaaS利用料は「クラウドサービス利用費」に該当します。一方、開発ツールのライセンス購入やパッケージソフトウェアの購入は「機械装置・システム構築費」です。公募要領の経費区分の定義を確認し、利用実態に合った区分で申請してください。区分を間違えると実績報告で差戻しになるリスクがあります。

Q3. 外注先をフリーランスエンジニアにすることは可能ですか?

可能です。ただし、外注先が個人事業主であっても、正式な契約書(業務委託契約書)と見積書が必要です。また、税抜50万円以上の外注の場合は相見積もりが原則求められます。自社の役員や従業員の家族への外注は利益相反の観点で認められないケースがあるため、第三者への発注が安全です。

Q4. アジャイル開発で毎スプリント仕様が変わりますが、その都度計画変更承認が必要ですか?

スプリントごとの細かな仕様変更すべてに計画変更承認が必要なわけではありません。ポイントは「交付申請時の事業計画の骨格(主要機能・経費配分・外注先)に変更があるかどうか」です。主要機能の追加・削除、外注先の変更、経費配分の大幅変更がなければ、スプリント内の詳細調整は計画の範囲内として許容されることが多いです。判断に迷った場合は事務局に事前相談してください。

Q5. ものづくり補助金ではなく、デジタル化・AI導入補助金の方がIT企業には向いていますか?

「既存のSaaS製品やクラウドサービスを自社に導入する」ならデジタル化・AI導入補助金が適しています。一方、「自社で新たにシステムやSaaSをスクラッチ開発する」場合はものづくり補助金の管轄です。開発と導入では対象制度が異なるため、「自社が何をしたいか」を起点に制度を選ぶのが鉄則です。

参考文献