研究開発に使える補助金の選択肢が増えたことで、「同じ技術テーマでGo-Tech事業にもものづくり補助金にもSBIRにも出してみよう」と考える中小企業が増えています。制度の数が多いぶんチャンスも広がるように見えますが、公募要領を3回読んでみたら、同じテーマで複数制度に申請する際には3つの構造的な落とし穴があることがわかりました。
うちで実際に取った時の話なんですけど、Go-Tech事業の公募要領を最初に手に取ったのは知人の勧めがきっかけで、後からNEDO DTSUやSBIR、ものづくり補助金の存在を知りました。「同じ技術なんだから全部出せばどれか当たるだろう」と一瞬考えたんですが、公募要領を読み込んでいくうちに、それが不採択の最短ルートであることに気づきました。
この記事では、研究開発補助金で同じ技術テーマを複数制度に申請する際に中小企業が陥る3つのパターンと、TRL(技術成熟度)基準で制度を正しく使い分ける判断フローを解説します。
パターン1:「不合理な重複」排除規定に引っかかって審査対象外になる
研究開発系の補助金には、府省共通の「不合理な重複」排除の仕組みがあります。Go-Tech事業はe-Radで申請しますが、e-Radに登録された研究者情報・研究課題情報は他の府省の研究資金配分機関と共有されており、同一研究者が実質的に同一の研究課題で複数の競争的資金に採択されていないかが機械的にチェックされます。
ここで中小企業がハマるのは、「テーマを少し変えれば別の研究課題になる」という誤解です。例えば、Go-Tech事業で「高精度センサーを用いた検査装置の開発」というテーマで申請し、同時にSBIR制度で「AIを活用した検査精度の向上」というテーマで申請する。タイトルは違いますが、技術の核心が同一であれば「実質的に同一の研究課題」と判定されるリスクがあります。
Go-Tech事業の令和8年度公募要領には、応募情報は他の府省の研究資金制度との間で不合理な重複・過度の集中を排除するために使用される旨が明記されています。SBIR制度も同様にe-Rad経由のチェックが走ります。両方採択された場合は一方を辞退しなければならず、採択後に辞退すれば翌年度以降の審査での心証にも影響します。
対策:申請前に「技術の核心が同一か」をセルフチェックする
複数制度への申請を検討する場合は、研究開発の目的・手法・期待される成果の3点で重複がないか確認してください。同じセンサー技術でも「検出原理の基礎研究」と「量産ラインへの実装」であれば、研究フェーズが異なるため別課題として成立します。逆に、タイトルだけ変えて研究計画の中身がほぼ同じであれば、どんなに言い回しを変えても審査段階で見抜かれます。
パターン2:「同一経費の二重計上」で交付取消・返還リスクを抱える
仮に異なる研究課題として複数制度に採択された場合でも、同一の補助対象経費への重複交付は禁止されています。ものづくり補助金の公募要領には「間接直接を問わず、国が助成する他の制度と同一の補助対象経費を含む事業は対象外」と明記されています。
中小企業が特にハマるのは、「設備費」と「人件費」の按分です。例えば、Go-Tech事業で特注の検査装置を経費計上し、ものづくり補助金でも同じ装置の改良版を経費に含めるケース。装置そのものが異なっていても、その装置を操作する研究員の人件費が両方の事業で按分計上されていれば、経費の重複と判定される可能性があります。
テンプレで時短すると言いたいところですが、経費の重複チェックだけはテンプレでは対応できません。研究員Aの業務日誌がGo-Tech事業の業務時間とものづくり補助金の業務時間で合計が実労働時間を超えていたら、それは一発でアウトです。
対策:経費配分表を制度横断で作成する
複数制度に採択された場合は、研究員ごとの従事時間・設備ごとの使用区分・消耗品の購入先と使用目的を制度横断で一覧管理してください。Notionやスプレッドシートで「経費項目×制度」のマトリクスを作り、按分比率が実態と整合しているかを月次で確認する仕組みが必要です。
パターン3:制度ごとの「審査軸のミスマッチ」で両方不採択になる
これが最も多い失敗パターンです。同じ技術テーマの申請書を少し手直しして別の制度に流用する中小企業が、審査軸のミスマッチで両方とも不採択になるケースです。
研究開発補助金は制度によって審査で重視するポイントがまったく異なります。
- Go-Tech事業:技術の新規性・公設試との連携体制・経営デザインシートの移行戦略が重視される。TRL 4〜6段階の「応用研究〜試作」が対象
- ものづくり補助金:技術面の革新性に加えて事業化面(市場ニーズ・競合優位性・販路開拓)が同等の配点。TRL 7〜9段階の「実用化〜量産」が対象
- SBIR制度(連結型フェーズ1):省庁別トピックとの適合性・PoC/FSの実現可能性が重視される。TRL 1〜3段階の「概念実証」が対象
例えば、Go-Tech事業用に書いた申請書をそのままものづくり補助金に流用すると、公設試連携の記述は不要なのに残っていて、事業化面のTAM/SAM/SOM分析が欠落している状態になります。逆に、ものづくり補助金用の計画書をGo-Tech事業に転用すると、経営デザインシートの移行戦略が空欄で、研究開発内容説明書の技術的到達目標が定性的な記述のままになります。
朝はカフェで公募要領読みをしているんですが、Go-Tech事業とものづくり補助金の公募要領を並べて3色蛍光ペンで分類すると、審査項目の構造がまったく違うことが一目でわかります。同じ技術テーマでも、制度に合わせて申請書を一から設計し直す必要があるんです。
対策:TRL基準で「今この技術に最適な制度」を1つ選ぶ
研究開発補助金の制度選びは、技術の成熟度(TRL)で決まります。
- TRL 1〜3(原理検証〜概念実証):SBIR制度またはNEDO DTSU
- TRL 4〜6(試作〜性能検証):Go-Tech事業
- TRL 7〜9(実証〜量産化):ものづくり補助金(新事業進出・ものづくり補助金)
「全部に出せばどれか当たる」ではなく、「今のTRL段階に最も合う制度を1つ選び、その制度の審査軸に最適化した申請書を書く」のが採択率を最大化する戦略です。TRLが上がったら次の段階の制度に進む。この「段階的ルート設計」が、研究開発型中小企業の補助金活用の鉄則です。
よくある質問(FAQ)
Q1. Go-Tech事業に不採択だった場合、同じテーマでものづくり補助金に申請できますか?
制度が異なれば申請自体は可能です。ただし、同じ申請書の流用は審査軸のミスマッチで不採択になるリスクが高いため、ものづくり補助金の審査項目に合わせて事業化面(市場ニーズ・競合比較・販路開拓)を一から書き直してください。また、技術のTRL段階がGo-Tech事業の対象(TRL 4〜6)からものづくり補助金の対象(TRL 7〜9)に進んでいるかも確認が必要です。
Q2. 異なる技術テーマであれば、Go-Tech事業とものづくり補助金に同時に申請しても問題ありませんか?
技術の核心が異なり、補助対象経費が重複しなければ同時採択は可能です。ただし、研究員の従事時間が両事業で合計して実労働時間を超えないことが必須条件です。業務日誌の按分管理を制度横断で行う体制を、申請段階から設計しておく必要があります。
Q3. SBIR制度のフェーズ1で採択された後、フェーズ2に進まずにGo-Tech事業に申請することはできますか?
可能です。SBIR制度のフェーズ1はPoC/FS段階で、フェーズ2への進行は義務ではありません。フェーズ1の成果を踏まえてTRL段階が4以上に上がっていれば、Go-Tech事業への申請は制度設計上も合理的です。ただし、SBIRフェーズ1の研究成果をGo-Tech事業の申請書に明記し、研究の連続性と発展性を示すことが審査での評価につながります。
Q4. 令和8年度のGo-Tech事業で新設された「大型研究開発枠」は、ものづくり補助金との併用に影響しますか?
大型研究開発枠は補助上限が最大3億円(3年間)と大幅に引き上げられましたが、同一経費の重複禁止ルールは通常枠と同じです。むしろ補助額が大きくなるぶん、経費重複が発覚した際の返還額も大きくなります。大型枠で採択された場合は、他制度との経費の棲み分けを特に厳密に管理してください。
まとめ:「全部出す」より「1つに最適化する」が最短ルート
研究開発補助金で同じ技術テーマを複数制度に使い回す戦略は、不合理な重複排除・同一経費の二重計上禁止・審査軸のミスマッチという3つの構造的リスクを抱えます。
公募要領を3回読んでみたら、各制度の審査項目は驚くほど異なっていて、同じテーマの申請書を流用して両方通すのは構造的に無理があります。Go-Tech事業なら公設試連携と経営デザインシート、ものづくり補助金ならTAM/SAM/SOMと事業化スケジュール、SBIR制度なら省庁トピック適合性とPoC設計。それぞれの制度が求める「答え方」に合わせて申請書を設計し直す手間を惜しむと、結局どの制度でも不採択になります。
TRL基準で今の技術段階に最適な制度を1つ選び、その制度の審査軸に全力で最適化する。TRLが上がったら次の段階の制度に進む。この段階的ルート設計が、研究開発型中小企業が補助金を最大限に活用するための鉄則です。






