結論から言うと、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の「情報公表加算」は、助成金のためだけに作ると失敗し、採用ページの一部として作ると取れる加算です。令和8年4月8日に新設されたばかりで、まだ現場では見落としも多い。スタートアップ専門の社労士として、取りこぼしの典型を3パターンに絞って整理します。
なお、本記事の加算の要件は厚生労働省の令和8年度版パンフレット・リーフレットが公表されていること(同省の案内ページで確認)を前提に、社労士事務所等の解説で示されている内容をまとめたものです。申請前に必ず最新の公式パンフレットとQ&Aで確認してください。
情報公表加算とは何か
正社員化コースで、正規雇用への転換に関する所定の情報を公表すると、助成額に加算される仕組みです。解説で示されている内容は次のとおりです。
- 加算額:1事業所につき20万円(大企業は15万円)。1事業所1回限り
- 対象:令和8年4月8日以降に対象労働者を転換した場合
- 公表先:自社で管理するウェブサイト、または厚生労働省の職場情報総合サイト(しょくばらぼ)
- 公表項目:①転換制度の概要(手続き・要件・実施時期)、②直近3事業年度の転換実績(人数)、③直近3事業年度の転換までの平均期間と最短期間
- 公表のタイミング:キャリアアップ計画期間内、かつ支給申請日まで。公表は少なくとも支給申請日から支給申請事業年度の終了まで続ける
1事業所1回限りなので、「転換者が何人でも20万円」です。人数が増えて金額が増える加算ではありません。だからこそ、初回の転換申請に確実に乗せることが重要です。
パターン1:公表先を間違える(社内ポータル・求人サイトは不可)
スタートアップでよくあるのが、Notionの社内Wikiや採用媒体の企業ページに「正社員登用あり」と書いて、公表したつもりになるケースです。解説では、自ら管理するウェブサイトに社内ポータル、会員登録が必要なサイト、求人サイトは含まれないとされています。誰でも閲覧できる自社のコーポレートサイト、または「しょくばらぼ」への登録が基本線です。
対策
- 公開URLを第三者がログインなしで開けるか、申請前に確認する
- 自社サイトの更新が重いなら、しょくばらぼへの入力で済ませる選択肢も検討する
- 公表画面のスクリーンショットと日付を保存し、申請書類と一緒に管理する
パターン2:3項目のどれかが欠ける(特に「期間」)
制度概要は書けても、③の「転換までの平均期間・最短期間」が抜けるのが典型です。創業間もない会社は実績がなくて当然ですが、解説によれば、実績がない場合は「0人(実績なし)」と記載すれば認められるとされています。空欄にするのと「実績なし」と明記するのは別物です。
| 公表項目 | 書く内容 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ①転換制度の概要 | 手続き、転換の要件、実施時期 | 就業規則と記載がずれる |
| ②直近3事業年度の転換人数 | 年度ごとの人数 | 設立3期未満で空欄にする |
| ③転換までの平均期間・最短期間 | 入社から転換までの期間 | 集計していない・実績なしと書かない |
制度を先に整えてから公表する、という順番が大事です。公表内容と就業規則(正社員転換規程)が食い違うと、加算だけでなく本体の正社員化コースの審査でも説明がつきません。IPO審査でも「制度と運用の一致」は必ず見られる論点です。
パターン3:公表のタイミングが申請日に間に合わない
公表は、キャリアアップ計画期間内かつ支給申請日までに行う必要があるとされています。転換して6か月分の賃金を払った後、申請直前に慌てて公表を始めると、サイト改修の順番待ちで間に合いません。さらに公表は申請日から事業年度末までは継続が必要です。リニューアルでURLが変わって消えた、という事故も想定しておく必要があります。
逆算スケジュールの例
- 転換日の2〜3か月前:就業規則の転換規程を確認、公表3項目の数値を集計
- 転換日まで:自社サイトまたはしょくばらぼで公表
- 転換後6か月の賃金支払後:公表が継続していることを確認して支給申請
- 申請後〜事業年度末:公表を維持(サイト改修時は担当者に引き継ぐ)
ここは私のクライアントでもSlackに社労士チャンネルを作り、サイト担当を巻き込むことで解決しています。人事だけでは更新できないのがスタートアップの現実だからです。
加算に不備があった場合はどうなる
解説によれば、公表内容の不備で加算部分が不支給になっても、労働局の助言を受けて修正すれば、次回の申請で加算を受けられるとされています。ただし、本体の助成金の支給には影響しない扱いかどうかなど、細部は運用で異なる可能性があります。必ず管轄の労働局に確認してください。
加算を「副産物」として取る考え方
助成金は副産物、というのが私のスタンスです。情報公表は採用広報として価値がある。「転換制度があり、平均何か月で正社員になれる」と公開すれば、有期やパートで入社する候補者への訴求になります。20万円を目的にサイトを作るのではなく、採用ページの一項目として設計してください。
私が3週間で就業規則を整えたシリーズBのSaaS企業でも、転換ルールが社内に定着し、それが採用の説得材料にもなりました。制度が先、加算は後から付いてきます。
申請前チェックリスト
- 転換日は令和8年4月8日以降か
- キャリアアップ計画書は転換日前に届出済みか
- 公表先は誰でも見られる自社サイトまたはしょくばらぼか
- 3項目すべてを記載したか(実績なしは明記)
- 就業規則の転換規程と公表内容が一致しているか
- 公表日が支給申請日より前か、画面を保存したか
- 申請後も事業年度末まで公表を維持する担当者を決めたか
よくある質問
Q1. 転換者が複数いたら加算も人数分もらえますか。
いいえ。1事業所につき1回限りと解説されています。
Q2. 設立したばかりで転換実績がありません。加算は対象外ですか。
実績がない場合は「0人(実績なし)」と記載すれば認められるとの解説があります。最終確認は労働局で行ってください。
Q3. 自社サイトがない場合は?
厚生労働省の職場情報総合サイト「しょくばらぼ」に登録して所定の情報を入力する方法があります。
Q4. 令和8年4月8日より前に転換した人は対象ですか。
対象は4月8日以降の転換とされています。それ以前の転換は対象外です。





