Go-Tech事業の令和8年度採択結果が2026年6月末に公表されました。全国の申請件数284件に対して採択は122件、採択率は約43%です。つまり162件、半数以上の中小企業が不採択になっています。

うちで実際に取った時の話なんですけど、Go-Tech事業に不採択だった地場ベンチャー仲間から「新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募(9月30日締切)に切り替えたい」という相談がこの7月だけで3件来ました。全員に共通していたのが、Go-Tech用の申請書をベースに書き換えればいいという思い込みです。

結論から言うと、Go-Tech事業とものづくり補助金は審査軸がまったく異なります。Go-Tech用の計画書をそのまま持ち込むと、構造的なミスマッチで再び不採択になるリスクが高い。

公募要領を3回読んでみたら、切り替え時に中小企業がハマるパターンは3つに集約されることがわかりました。今回は7月中に着手すべき準備も含めて解説します。

前提:Go-Tech事業と新事業進出・ものづくり補助金の構造的な違い

まず2つの制度の根本的な違いを押さえてください。

比較項目Go-Tech事業新事業進出・ものづくり補助金
制度の目的中小企業の研究開発を支援設備投資による生産性向上・新事業進出
対象TRLTRL 4〜6(研究開発〜試作)TRL 7〜9(事業化〜量産)
申請ルートe-Rad(府省共通研究開発管理システム)GビズID(電子申請)
公設試連携実質必須不要
審査の重心技術面の新規性・独創性事業化面の市場ニーズ・優位性・収益性
主な対象経費研究員人件費・委託費・原材料費機械装置・システム構築費
補助上限通常枠:単年度4,500万円革新的枠:従業員規模別1,000万〜3,500万円

この表を見るだけで、同じ「研究開発系」の補助金でも制度設計が根本的に違うことがわかるはずです。

パターン1:Go-Tech用の申請書をそのまま流用して「事業化面」が空白になる

どこで失敗するか

Go-Tech事業の申請書(研究開発内容説明書・15ページの提案様式)は、技術面の新規性・独創性・公設試連携の体制が中心です。審査項目も「研究開発目的が明確であり、研究開発を適切に実施可能な体制を有しているか」が最重要。

一方、新事業進出・ものづくり補助金の審査では事業化面の比重が格段に高い。具体的には以下が問われます。

  • 事業化の方法・スケジュールが具体的か
  • 市場ニーズを捉えているか(TAM/SAM/SOMの3段階絞り込み)
  • 補助事業の成果が価格的・性能的に優位性を有するか
  • 事業化に向けた体制(量産・販路・人員)が整っているか

Go-Tech用の申請書には、こうした事業化面のデータが構造的に入っていないのです。公設試との共同研究体制の記述はあっても、販路開拓のタイムラインや見込み顧客のヒアリング結果はない。

具体的にどう直すか

テンプレで時短すると言いたいところですが、ここは正直にゼロから書き直す覚悟が必要です。最低限、以下の3点を7月中に着手してください。

  1. TAM/SAM/SOMの一次データ収集:業界レポートのTAMだけでなく、自社が実際にアプローチできるSOM(獲得可能市場)まで絞り込む。見込み顧客3社以上にヒアリングし、匿名で記載できるレベルの定量データを取る
  2. 事業化スケジュールの策定:開発完了後の量産体制構築→販路開拓→初期受注までのタイムラインを月単位で記載する
  3. 競合比較表の作成:比較対象の明示・定量的な差分(性能値)・数値の根拠の3点セットが最低ライン

パターン2:TRL 4〜6段階のテーマをTRL 7〜9向けの制度に持ち込んで「事業化の具体性不足」で不採択

どこで失敗するか

Go-Tech事業はTRL 4〜6(研究開発〜試作段階)を対象としています。つまり「まだ製品になっていない技術」を研究するための制度です。

対して、新事業進出・ものづくり補助金はTRL 7〜9(事業化〜量産段階)が対象。「製品化の目処が立っている技術を、設備投資で量産・事業化する」ための制度です。

Go-Tech事業で不採択になったテーマの多くは、まだ基礎的な研究開発フェーズにあります。このテーマをそのままものづくり補助金に持ち込むと、審査員から「事業化までの道のりが遠すぎる」と判断されます。

朝のカフェで公募要領を3回読んでみたら、ものづくり補助金の革新的新製品・サービス枠には「既存の製品・サービスの生産等のプロセスについて改善・向上を図る事業は補助対象外」と明記されていることに気づきました。つまり、研究開発段階のテーマは、改善を超えた「革新的な新製品」として成立するレベルまで技術を引き上げてから申請する必要があるのです。

TRL段階の見極めが最優先

切り替えを検討する前に、自社の技術テーマのTRL段階を冷静に判定してください。

  • TRL 4〜5(実験室レベルの検証)→ Go-Tech事業への再申請、またはSBIR制度を検討すべき。ものづくり補助金ではまだ早い
  • TRL 6(実証試験完了)→ 事業化スケジュールが具体的に書けるなら、ものづくり補助金への切り替えは検討可能
  • TRL 7以上(量産設計段階)→ ものづくり補助金の革新的新製品・サービス枠が最適

Go-Tech事業に固執せず、TRL段階が上がっていればものづくり補助金への転進を検討すべきです。逆に、TRLがまだ低いなら来年度のGo-Tech事業に再チャレンジするほうが採択率は高くなります。

パターン3:Go-Tech事業の経費構造(人件費・委託費中心)をものづくり補助金の経費構造(機械装置中心)に変換できない

どこで失敗するか

Go-Tech事業の対象経費は、研究員の人件費・大学や公設試への委託費・原材料費が中心です。自社エンジニアの人件費を補助対象に組み込めるのがGo-Tech事業の大きなメリットでした。

一方、新事業進出・ものづくり補助金の主要な対象経費は「機械装置・システム構築費」です。そして重要なのが、自社従業員の人件費は補助対象外という点。

Go-Tech事業の経費計画をそのままものづくり補助金に持ち込むと、以下の問題が起きます。

  • 人件費の計上不可:Go-Techでは研究員の人件費を按分で計上できたが、ものづくり補助金では自社人件費は対象外。外注のみが対象
  • 委託費の位置づけの違い:Go-Techでは大学・公設試への研究委託が主要経費だったが、ものづくり補助金では「外注費」としての扱いに変わり、50万円以上は相見積もりが原則
  • 設備投資の比率:ものづくり補助金は機械装置等の設備投資が経費計画の中心。研究開発型のソフトウェア企業は、対象となる「設備」が見つからないケースがある

経費計画の組み替えに必要な作業

Go-Tech用の経費計画からものづくり補助金用に変換するには、以下の作業が必要です。

  1. 導入する設備の明確化:研究開発の成果を量産するために必要な機械装置・検査装置・システムを具体的にリストアップし、メーカーから見積書を取得する
  2. 外注設計への切り替え:自社エンジニアの作業を外注に切り替えるか、設備投資に振り替える経費設計が必要
  3. 相見積もりの準備:50万円以上の設備は原則2社以上の相見積もりが必要。特注品で相見積もりが取れない場合は業者選定理由書(特許番号・競合照会記録・技術仕様書の3点セット)を準備する

7月中に着手すべき逆算スケジュール

新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募は申請受付8月31日〜締切9月30日です。7月中に以下を完了させないと、物理的に間に合いません。

時期やるべきこと
7月中TRL段階の判定 / 枠選びの確定 / 見込み顧客ヒアリング開始 / 設備メーカーへ見積依頼
8月上旬TAM/SAM/SOMデータ整理 / 事業化スケジュール策定 / 付加価値額4.0%・賃上げ3.5%の三角チェック
8月中旬事業計画書の文章作成 / 加点項目の取得(パートナーシップ構築宣言・事業継続力強化計画※45日前倒し必須)
8月下旬認定経営革新等支援機関の確認書取得 / GビズIDでの電子申請準備
8月31日〜申請受付開始 / 最終チェック・提出

特に注意すべきは加点項目です。新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募では14項目の加点が設定されています。Go-Tech事業には加点項目がなかったため、加点の概念自体を持っていない研究開発型中小企業が多い。パートナーシップ構築宣言は即日・無料で取得可能ですので、今日中に済ませてください。

Go-Tech事業に再申請すべきか、ものづくり補助金に切り替えるべきかの判断基準

最後に、そもそもどちらに申請すべきかの判断基準を整理します。

判断基準Go-Tech再申請が適切ものづくり補助金への切替が適切
TRL段階TRL 4〜5(まだ実証試験が必要)TRL 6以上(試作品完成・量産設計段階)
必要な投資内容研究員の人件費・委託研究費が中心設備投資(機械装置・システム)が中心
公設試との連携継続的な共同研究が必要研究開発は自社で完結できる
事業化の時間軸事業化まで2〜3年以上補助事業期間内(約10ヶ月)に成果が出せる
見込み顧客川下ニーズは把握しているが受注はまだ引き合い・LOIがある

研究開発補助金は1制度で完結させるものではありません。TRL段階に合わせてGo-Tech→ものづくり補助金と段階的につなぐ設計が、資金を途切れさせない鉄則です。

よくある質問(FAQ)

Q1. Go-Tech事業に不採択だった場合、同じテーマで新事業進出・ものづくり補助金に申請できますか?

A. 申請自体は可能です。Go-Tech事業はe-Rad経由、ものづくり補助金はGビズID経由で申請ルートが異なるため、制度間の重複チェックは行われません。ただし、Go-Tech用の申請書をそのまま流用すると審査軸のミスマッチで不採択になるリスクが高いため、事業化面を中心にゼロベースで書き直す必要があります。

Q2. Go-Tech事業の公設試連携のデータをものづくり補助金の申請書に転用できますか?

A. 研究開発の成果データ(性能値・試験結果)は技術面の革新性を裏付ける根拠として活用できます。ただし、ものづくり補助金では公設試連携は審査項目に含まれないため、公設試との体制図や役割分担の記述はそのまま使えません。事業化体制(量産・販路・人員・スケジュール)に書き換える必要があります。

Q3. 新事業進出・ものづくり補助金の「革新的新製品・サービス枠」と「新事業進出枠」のどちらに申請すべきですか?

A. Go-Tech事業からの切り替えの場合、多くは「革新的新製品・サービス枠」が適切です。この枠は新しい製品・サービスの開発が対象で、広告宣伝・販売促進費も対象経費に含まれます。一方、「新事業進出枠」は新製品×新市場の2要件を同時に満たす必要があり、既存取引先への販売では「新市場」と認められない可能性があります。

Q4. 9月30日の締切に物理的に間に合いますか?

A. 7月中にTRL判定と枠選びを確定させ、8月に事業計画書の作成に集中すれば間に合います。ただし、事業継続力強化計画の認定には約45日かかるため、加点を狙うなら7月中の申請が必須です。パートナーシップ構築宣言は即日取得可能なので、最低限の加点は確保できます。

Q5. GビズIDを持っていない場合、今から取得して間に合いますか?

A. GビズIDプライムの取得には約2〜3週間かかります。7月中に申請すれば8月中旬には取得できるため、申請受付開始(8月31日)には十分間に合います。Go-Tech事業はe-Rad経由の申請だったため、GビズIDを持っていない研究開発型中小企業は意外と多いです。今すぐ申請を開始してください。

まとめ

Go-Tech事業の不採択から新事業進出・ものづくり補助金への切り替えは、申請書の書き換えではなく、制度の構造変換です。審査軸が技術面から事業化面に移り、対象経費が人件費・委託費から設備投資に変わり、申請ルートがe-RadからGビズIDに切り替わる。この3つの構造変化を理解した上で、自社のTRL段階に合った制度を選ぶことが最重要です。

「全部に出せばどれか当たる」ではなく、TRL基準で今の技術段階に最適な制度を1つ選び、その審査軸に全力で最適化するのが採択率最大化の戦略です。

参考文献