結論から言うと、令和8年度の業務改善助成金は「別の制度」です

令和7年度まで業務改善助成金を活用していたスタートアップが、令和8年度も同じ要領で申請しようとして詰むケースが増えています。

スタートアップでよくあるのが、「去年通ったから今年も同じでいけるだろう」という判断です。しかし令和8年度の業務改善助成金は、対象労働者の定義、雇用期間の要件、申請スケジュールの3点が大きく変わっています。昨年の感覚で準備を進めると、申請直前に要件不備が発覚し、計画全体がやり直しになります。

この記事では、令和8年度の業務改善助成金でスタートアップが見落としやすい3つの要件変更と、各パターンの防ぎ方を整理します。

パターン1:雇用保険未加入のパートを賃上げ対象にカウントしていた

令和8年度から、賃金引き上げの対象となる労働者は「雇用保険被保険者」であることが明確な要件になりました。

スタートアップでは、週15〜18時間程度のパート・アルバイトを複数名雇用しているケースが少なくありません。こうした短時間労働者は雇用保険の加入要件(週所定労働時間20時間以上)を満たさないため、雇用保険に未加入です。

令和7年度までは、こうした労働者も事業場内最低賃金の引き上げ対象としてカウントできる余地がありました。しかし令和8年度からは、雇用保険被保険者でなければ対象労働者にカウントできません

私のクライアントでも、シリーズAのSaaS企業がバックオフィスのパートタイマー3名の賃上げで業務改善助成金を狙おうとしていたケースがありました。確認してみると、3名とも週18時間勤務で雇用保険未加入。令和8年度の要件では対象外でした。週の所定労働時間を20時間以上に引き上げ、雇用保険に加入させたうえで6ヶ月待つ必要がある、と伝えたところ、経営陣は「そこまで時間がかかるなら今年度は見送ろう」という判断になりました。

チェックポイント

  • 賃上げ対象にしたい労働者が雇用保険に加入しているか、加入要件を満たしているかを確認する
  • 週所定労働時間が20時間未満のパート・アルバイトは雇用保険に加入できず、対象外になる
  • 雇用保険の加入手続きを先に済ませたうえで、6ヶ月経過の逆算スケジュールを組む

パターン2:雇入れ後3ヶ月で申請準備を始めたら「6ヶ月ルール」に引っかかった

令和7年度では、対象労働者の雇用期間要件は「雇入れ後3か月以上」でした。令和8年度からは、これが「雇入れ後6か月以上」に延長されています。倍です。

スタートアップは採用サイクルが速く、入社3〜4ヶ月目の社員を含めて賃上げ計画を組むことが日常茶飯事です。令和7年度の感覚で「3ヶ月経ったから対象になる」と判断して申請書類を準備すると、令和8年度では要件を満たしません。

朝のヨガを終えてSlackを開いたら、クライアントから「4月に入った経理担当も含めて申請したい」という相談が来ていたことがあります。入社2ヶ月目。令和7年度なら翌月には対象でしたが、令和8年度では10月まで待つ必要がある。9月の申請開始に合わせて計画を組むなら、この社員は間に合いません。対象者から外して、既存メンバーだけで申請を組み直すようアドバイスしました。

チェックポイント

  • 対象労働者の入社日を確認し、申請時点で雇入れ後6ヶ月以上経過しているか逆算する
  • 9月の申請開始に間に合わせるなら、3月以前に入社した社員が対象の目安になる
  • 新規採用が多いスタートアップほど、「対象になる社員」と「まだならない社員」を早めに仕分けておく

パターン3:通年で申請できると思っていたら9月〜11月の期間限定だった

令和7年度まで、業務改善助成金は通年で申請を受け付けていました。「いつでも出せる」という安心感から、スタートアップでは「事業が落ち着いたタイミングで申請しよう」と後回しにするケースが多くありました。

しかし令和8年度からは、申請受付期間が9月1日〜11月末日(予定)に限定されています。通年申請は廃止です。

制度を先に整えてから助成金を考えるのが本筋ですが、それでも申請期間を把握していなければ機会を逃します。スタートアップのバックオフィスは経理・労務・総務を1人で兼務していることが多く、「申請できる期間があったことを知らなかった」というケースが年末に発覚するのは目に見えています。

以前、別の助成金でも似たパターンがありました。両立支援等助成金の申請期限を見落としていたクライアント(社員15名)で、気づいた時には期限超過。助成金は1円も受け取れませんでした。業務改善助成金でも同じことが起きかねません。

チェックポイント

  • 令和8年度の申請受付は9月〜11月の期間限定(通年申請は廃止)
  • 8月までに就業規則・賃金台帳・雇用保険加入状況を整備しておく
  • バックオフィス担当のカレンダーに「9月1日:業務改善助成金 申請開始」のリマインダーを設定する

見落としやすいその他の変更点

上記3パターンに加えて、令和8年度で変わった主要ポイントを整理しておきます。

項目令和7年度令和8年度
コース区分30円・45円・60円・90円50円・70円・90円(30円・45円廃止)
助成率の基準事業場内最低賃金1,000円事業場内最低賃金1,050円
賃上げタイミング事前・事後どちらも可申請より後に実施(事後申請不可)
最大助成額最大600万円最大600万円(据え置き)

特に「賃上げの事後申請が不可」になった点は要注意です。スタートアップでよくあるのが、「先に賃上げしてから後で申請しよう」という「走りながら考える」発想。令和7年度まではこれでも通りましたが、令和8年度では申請→交付決定→賃上げ実施の順序が必須です。順番を間違えた時点で不支給が確定します。

まとめ:9月の申請開始までにやるべきことリスト

令和8年度の業務改善助成金を検討しているスタートアップは、以下の準備を8月末までに完了させてください。

  1. 対象労働者の洗い出し:雇用保険被保険者で、雇入れ後6ヶ月以上の社員をリストアップ
  2. 雇用保険の加入状況確認:未加入のパート・アルバイトがいれば、加入手続きの要否を判断
  3. 事業場内最低賃金の算出:固定残業代を除外した正しい時給換算(別記事で詳細を解説
  4. 設備投資計画の策定:導入したい設備・SaaSの見積もりを取得(交付決定前の契約は不可)
  5. 賃金台帳・就業規則の整備:申請時に提出が求められるため、最新化しておく

よくある質問(FAQ)

Q1. いま雇用保険に加入させれば、9月の申請に間に合いますか?

A. 5月に加入手続きをした場合、6ヶ月経過は11月です。9月の申請開始時点では要件を満たしません。11月末の申請期間終了ギリギリに間に合う可能性はありますが、労働局への事前確認を強く推奨します。なお、既に雇用保険に加入済みで6ヶ月以上経過している社員がいれば、その社員を対象にして9月に申請できます。

Q2. パートの週所定労働時間を20時間以上に引き上げれば対象になりますか?

A. 労働時間を20時間以上に変更し、雇用保険に加入させれば対象になり得ます。ただし、雇入れ後6ヶ月以上の経過も必要です。労働条件の変更は就業規則・労働条件通知書の改定を伴うため、キャリアアップ助成金の短時間労働者労働時間延長支援コースとの併用も検討してください。

Q3. 50円コースが最低ラインになりましたが、スタートアップでも使えますか?

A. 50円コースの助成上限は対象労働者数に応じて最大100万円です。勤怠管理SaaSの導入費用やPC購入費をカバーできる金額であり、スタートアップにとっても十分に活用価値があります。ただし、最低50円以上の賃上げが必要なため、現在の事業場内最低賃金との差額を確認してください。

Q4. 令和7年度に受給済みですが、令和8年度も申請できますか?

A. 過去に受給していても、令和8年度の要件を新たに満たせば申請可能です。ただし、同一の設備・同一の賃上げ対象者での重複申請は認められません。新たな対象労働者または新たな設備投資計画が必要です。

参考文献