結論から言うと、スタートアップのバックオフィス採用にはハローワーク併用が有効です。特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)を使えば、中小企業で1人あたり最大60万円〜240万円が支給されます。

スタートアップの採用チャネルはWantedly・Green・リファラルが中心で、ハローワークは「うちには縁がない」と思い込んでいる経営者が大半です。しかし、経理・労務・総務などのバックオフィス職種に限れば、ハローワーク経由で即戦力の応募が来ることは珍しくありません。

この記事では、スタートアップが特定求職者雇用開発助成金を活用する際に陥る3つの不支給パターンと、令和8年度改正で新たに注意すべきポイントを解説します。

特定求職者雇用開発助成金の基本構造を30秒で確認

項目内容
対象者高年齢者(60〜64歳)、母子家庭の母、障害者等の就職困難者
支給額(中小企業・短時間以外)高年齢者・母子家庭の母等:60万円(30万円×2期)
身体・知的障害者:120万円(30万円×4期)
重度障害者等:240万円(40万円×6期)
支給方式6ヶ月ごとの分割支給
雇入れ経路ハローワーク等の紹介が必須
雇用形態雇用保険の一般被保険者として継続雇用
令和8年度改正賃金台帳の提出必須化、高年齢者の個別支援要件追加、成長分野コース廃止

この助成金のポイントは「ハローワーク等からの紹介」が絶対条件であること。紹介状なしで採用した場合、対象者がどんなに要件を満たしていても1円も出ません。

パターン1:紹介状の取得タイミングを間違える

スタートアップでよくあるのが、面接の後にハローワークの紹介状を取ろうとするパターンです。

特定求職者雇用開発助成金の紹介状は、面接の前に取得しなければなりません。面接後に形式的に紹介状を取得しても、それは「雇用の予約」に該当し、助成対象外です。ハローワークの職員もこの点は厳しくチェックします。

以前、シリーズBのSaaS企業でバックオフィス(経理)の採用を支援した際のことです。Wantedlyだけで求人を出していたクライアントに、並行してハローワークにも求人を出すことを提案しました。ハローワーク経由で応募してきたのは母子家庭の経理ベテラン。紹介状を取得してから面接を実施し、採用。特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)で60万円を受給しました。

この方は即戦力として活躍し、採用チャネルの多様化の成功事例になりました。ただし、もしWantedly経由で先に連絡を取り合ってからハローワークで紹介状だけ取る——という手順を踏んでいたら、助成金は不支給だったはずです。

対策:ハローワークへの求人掲載を採用フローの初期段階に組み込む

バックオフィス職種の採用を開始する時点で、Wantedly等と同時にハローワークにも求人を掲載する。応募経路によって面接プロセスは同じでも、ハローワーク経由の応募者には必ず紹介状の発行を先に受ける——このオペレーションを標準化するだけで、助成金の取得機会を逃さなくなります。

パターン2:Wantedly等の民間チャネルとの併用で「雇用の予約」判定を受ける

スタートアップの採用はスピード勝負です。良い候補者を見つけたらすぐにカジュアル面談を組み、翌週には正式面接。この速度感は正しいのですが、助成金との兼ね合いでは落とし穴になります。

典型的なNGパターンはこうです。

  1. Wantedlyで候補者を見つけ、カジュアル面談を実施
  2. 「うちに来てほしい」と口頭で伝える
  3. 候補者がたまたまハローワークにも登録していることが判明
  4. 助成金目的でハローワーク経由の紹介状を取得
  5. 形式的にハローワーク紹介として採用手続き

これは完全に「雇用の予約」です。実質的な採用決定が紹介状取得の前にあった場合、助成金は不支給になります。悪質と判断されれば不正受給のリスクすらあります。

対策:採用チャネルごとの経路管理を徹底する

制度を先に整えてから採用活動を始める。具体的には、求人掲載の時点で「この求人はハローワーク併用」と決め、ハローワーク経由の応募者は紹介状→面接→内定の手順を厳守する。民間チャネル経由の候補者は最初から助成金の対象外として管理する。チャネルの事後変更は絶対にやらない——この原則が重要です。

パターン3:令和8年度改正の賃金台帳必須化に対応できていない

令和8年4月以降、特定求職者雇用開発助成金の全コースで賃金台帳の提出が必須になりました。提出できない場合は不支給です。

「賃金台帳なんて当たり前でしょ?」と思うかもしれません。しかし、スタートアップのバックオフィスの実態はこうです。

  • クラウド給与ソフトのデータはあるが、法定帳簿としての「賃金台帳」の形式を満たしていない
  • 労働日数・労働時間数・時間外労働時間数の記載が抜けている
  • そもそも社員10名以下で経理が兼務しており、帳簿管理の優先度が低い

スタートアップでよくあるのが、freeeやマネーフォワードの給与明細データを「賃金台帳代わり」にしているケースです。給与計算は正しくても、法定帳簿としての記載要件(労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数の各項目)を個別に満たしているかは別問題です。

朝のヨガの後にSlackを開くと、クライアントから「賃金台帳ってfreeeの給与明細と何が違うんですか?」という相談が4月以降急増しています。助成金の申請直前に気づいても、過去6ヶ月分の帳簿を遡って整備するのは大きな負担です。

対策:採用時点で賃金台帳のフォーマットを確認する

助成金対象者を採用する前に、自社の賃金台帳が法定要件を満たしているか確認する。クラウド給与ソフトの「賃金台帳出力」機能が法定帳簿の要件を満たすかを、ソフトのサポートに確認するのが最も確実です。

令和8年度のその他の改正ポイント

高年齢者(60歳以上)の個別支援要件追加

令和8年5月1日以降、60歳以上の高年齢者を対象とする場合、ハローワーク等で「就労に向けた個別支援を受けている」ことが要件に追加されました。単にハローワークに求職登録しているだけでは不十分で、個別支援計画に基づくキャリアコンサルティング等を受けている必要があります。

スタートアップが定年退職者のベテラン経理を採用する場合などに影響します。候補者側の要件なので企業がコントロールしにくい点が厄介ですが、ハローワークの担当者に事前確認することで対応可能です。

成長分野コースの廃止

令和7年度まで存在した「成長分野等人材確保・育成コース」(通常の1.5倍の支給額)は廃止されました。IT・DX分野での採用で1.5倍を見込んでいたスタートアップは、通常の支給額で再計算が必要です。

スタートアップがバックオフィス採用でハローワークを併用すべき理由

週末にIVSのアーカイブを倍速で観ていると、スタートアップのバックオフィス人材不足の話題が増えています。採用コストの高騰が経営を圧迫する中で、ハローワーク併用は費用ゼロで始められる採用チャネルです。

助成金は副産物です。本来の目的は「採用チャネルの多様化」。Wantedly・Greenでは出会えない層——子育てが一段落した経理ベテラン、定年退職後のバックオフィスプロフェッショナル——がハローワークには登録しています。こうした即戦力を、助成金付きで採用できるのがこの制度の強みです。

よくある質問(FAQ)

Q1. スタートアップでもハローワークに求人を出せますか?

はい。雇用保険適用事業所であれば、企業規模に関係なく求人を出せます。求人申込みはハローワークの窓口またはハローワークインターネットサービスから行えます。

Q2. 母子家庭の母を採用した場合、いくら受給できますか?

中小企業がフルタイム(週30時間以上)で雇用した場合、1人あたり60万円(6ヶ月×2期で30万円ずつ)です。短時間労働者(週20〜30時間未満)の場合は40万円です。

Q3. 試用期間中に退職した場合、助成金はどうなりますか?

雇入れ日から6ヶ月を1期として支給申請するため、6ヶ月以内に離職した場合は助成金の対象外です。継続雇用が前提の制度なので、試用期間の設計と雇用管理が重要です。

Q4. 令和8年度から賃金台帳の提出が必須になったとのことですが、クラウド給与ソフトの出力で対応できますか?

クラウド給与ソフトの賃金台帳出力機能が、労働基準法で定める記載要件(労働日数、労働時間数、時間外労働時間数等)を満たしていれば対応可能です。ソフトによって出力形式が異なるため、申請前にサポートに確認してください。

Q5. ハローワーク経由と民間エージェント経由の候補者を同時に選考しても問題ないですか?

問題ありません。ただし、民間チャネル経由の候補者について後からハローワーク紹介に切り替えることはできません。各候補者の採用経路を明確に管理し、ハローワーク経由の応募者は最初から紹介状を取得した上で選考に入ってください。

参考文献