「AIシステムを補助金で開発したい」——2026年に入ってから、この手の相談が地場ベンチャー仲間の勉強会に月4〜5件ペースで来るようになりました。で、話を聞いていくと、ほぼ全員が3つの制度を混同したまま申請の準備を進めているんですよね。

「デジタル化・AI導入補助金で出します」と言う人が一番多い。公募要領を3回読んでみたら、これ、登録済みのパッケージソフトやクラウドサービスを「導入」する補助金であって、ゼロから自社専用にAIを「開発」する補助金じゃないんですよ。制度の名前に「AI」が入っているから誤解するのはわかる。でも名前で選ぶと審査で一発アウトです。

今回は研究開発型の中小企業がAI開発プロジェクトで補助金を選ぶ際に、「デジタル化・AI導入補助金」「新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠)」「Go-Tech事業」の3制度を混同して不採択になる3つのパターンと、TRL段階に基づく正しい制度選択フローをまとめます。新事業進出・ものづくり補助金の第1回申請受付が2026年8月31日から始まるこのタイミングで、制度選びの軸を整理しておきましょう。


まず3制度の位置づけを整理する

AI開発で使える可能性がある補助金は大きく3つあります。

制度名 対象フェーズ(TRL目安) 申請ルート 特徴
デジタル化・AI導入補助金 導入(ツール選定〜運用) GビズID → IT導入支援事業者経由 登録済みパッケージ・SaaS導入が対象。スクラッチ開発は対象外
新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠) TRL 6〜9(試作→量産・事業化) GビズID → 中小機構 革新的な新製品・新サービスの開発が対象。既存プロセス改善は補助対象外
Go-Tech事業(成長型中小企業等研究開発支援事業) TRL 4〜6(研究・試作初期) e-Rad → 中小機構 公設試・大学との共同研究が実質必須。2026年度公募は4月17日締切済み

この3制度は「AI」というキーワードで横串にはなりますが、対象フェーズも申請ルートも審査軸もまったく違います。混同したまま申請すると、技術面や事業化面の審査で構造的にミスマッチが生じます。


パターン1:「AIシステムを開発したい」のにデジタル化・AI導入補助金で申請してITツール登録要件で弾かれる

一番多いのがこのパターンです。

「ChatGPTを活用した自社独自の受発注管理AIを作りたい」「うちの製造ラインに特化した異常検知AIを独自開発したい」という相談が来て、担当者が「AI導入補助金で出せます」とアドバイスする。ところがデジタル化・AI導入補助金の公募要領を読むと、補助対象のITツールは「IT導入支援事業者が事務局に登録したパッケージソフトウェア・クラウドサービス」に限定されています。

スクラッチ開発・オーダーメイド開発は、ITツール登録の仕組み上、原則的に対象外です。自社専用にゼロから構築するAIシステムには、事務局登録済みのITツールという概念が存在しないので、申請の入り口で詰まります。

なぜ間違えるか:制度名に「AI」が入っているから。また、ChatGPTのAPIを使う場合は「データ連携ツール」として登録済みのツール経由なら申請できるケースもある。この「API経由ならOKな場合もある」という例外が、「自社開発もOK」という誤解を生んでいます。

正しい選択肢:自社開発・スクラッチ開発なら新事業進出・ものづくり補助金のシステム構築費が対象。OpenAI APIを使ったカスタムAIを外注で開発する場合も、IT導入支援事業者経由ではなく、ものづくり補助金の外注費・システム構築費として計上する設計が基本です。


パターン2:TRL 4〜5段階のAI研究をものづくり補助金(革新的新製品枠)で申請して事業化の具体性不足で不採択

次に多いのが「AIを使って新製品を開発したい研究開発型企業が、まだ研究フェーズなのにものづくり補助金の革新的新製品・サービス枠で申請する」パターンです。

うちで実際に取った時の話なんですけど、自社の初回申請でこれに近いことをやらかしました。研究フェーズで売上見込みが「3年後から」という計画だったのに、事業計画書でTAM/SAM/SOMの具体的根拠を書けていなかった。革新的新製品・サービス枠は審査軸の事業化面(市場ニーズ・競合優位性・収益モデル)の比重が高く、「まだ開発中なので詳細は未定」では採点になりません。

新事業進出・ものづくり補助金2026の公募要領では、革新的新製品・サービス枠に「既存の製品・サービスの生産等のプロセスについて改善・向上を図る事業は補助対象外」と明記されています。また、付加価値額の年平均成長率4.0%という数値要件があり、研究開発フェーズで売上ゼロが続く中小企業にとって、この達成シナリオを書くのは構造的に難しい。

なぜ間違えるか:「補助額が大きい(最大3,500万円)」という理由だけで制度を選んでいる。TRL段階が4〜5の場合、ものづくり補助金の事業化基準(量産・販路開拓・収益化のタイムライン)を満たす申請書を書くのはほぼ不可能です。

正しい選択肢:TRL 4〜6の段階ならGo-Tech事業(次年度公募)。TRL 6以上で試作品があり、販路開拓・量産化のシナリオが描ける段階になってからものづくり補助金の革新的新製品枠に挑む設計が採択率を最大化します。ただしGo-Tech事業の2026年度公募は4月に締め切り済みのため、今から出せる選択肢はものづくり補助金(TRL 6以上が目安)か来年度のGo-Tech事業になります。

付加価値額4.0%の三角チェックについては、こちらの記事で詳しくまとめています。


パターン3:Go-Tech事業で公設試連携なしのAI開発を申請して体制面で減点

3つ目は「基礎研究・アルゴリズム開発段階のAI研究」でGo-Tech事業を申請しようとするパターンです。これ自体は制度の趣旨に合っているのですが、公設試・大学との連携が名義貸し・初回面談だけで終わっているケースが問題です。

Go-Tech事業の審査項目「研究開発体制の適切性」では、各機関の役割分担と連携の仕方が具体的かつ適切であるかが評価されます。AI研究の場合、公設試や大学の「担当工程・使用設備の型番・試験条件の設計に関与したエビデンス」がなければ、審査員に実質的な連携と判断されません。

加えて、Go-Tech事業はe-Rad申請です。GビズIDとは別の登録システムで、e-Radの研究者情報登録に10営業日以上かかります。公設試の研究員も共同研究者として登録が必要で、双方の準備が揃わないと申請書自体が提出できない構造になっています。

なぜ間違えるか:「大学の知り合いがいる→Go-Techで出せる」という思い込み。実態は最低でも公設試との3回のミーティング(マッチング確認→試験条件設計→申請書共同レビュー)が必要で、勝負は申請書を書き始める前についています。

2026年度は公募が終了しているため、今からGo-Tech事業に申請することはできません。次年度(2027年度)を目指す場合、2026年12月〜2027年1月から公設試へのアプローチを始め、2月のトピック説明会に参加するスケジュールが現実的です。


AI研究開発の制度選択3ステップフロー

以上を踏まえて、AI研究開発で補助金を選ぶ際の判断フローをまとめます。

Step1:「導入」か「開発」かを1問で判断

市場に存在するAIツール・クラウドサービスを導入して業務効率化したい → デジタル化・AI導入補助金へ。自社専用のAIシステムをゼロから開発したい → Step2へ。

Step2:TRL段階を確認する

  • TRL 1〜3(概念実証・アルゴリズム検証):SBIR推進プログラムまたはNEDO DTSUが適切。公設試連携が必要ならGo-Tech事業の次年度公募を準備。
  • TRL 4〜6(試作・プロトタイプ検証):Go-Tech事業(来年度公募)。今年度出すならものづくり補助金(TRL 6以上が現実的)。
  • TRL 7〜9(量産・事業化準備):新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠)。第1回申請受付は2026年8月31日〜(2026年10月30日まで)。

Step3:申請ルートを先に確保する

  • デジタル化・AI導入補助金 → GビズIDプライム + SECURITY ACTION一つ星
  • 新事業進出・ものづくり補助金 → GビズIDプライム + 認定経営革新等支援機関の確認
  • Go-Tech事業 → e-Rad(研究者情報登録に10営業日以上)+ 公設試の共同研究者登録

テンプレで時短すると言いたいところですが、制度選択だけは公募要領を3回読むプロセスで勝負が決まります。Notionの補助金DBにTRL判定フロー表を作成しておくと、相談が来た瞬間に「あなたの技術はどのTRLですか」という問いから入れるようになります。


よくある質問(FAQ)

Q1. デジタル化・AI導入補助金でChatGPT APIを使った自社開発は本当に対象外ですか?

ChatGPT API単体の利用(OpenAI社との直接契約)は補助対象外です。ただし、ChatGPT APIを組み込んだ「登録済みのITツール」をIT導入支援事業者経由で導入する場合は対象となります。「自社でAPIを叩いてスクラッチ開発したシステム」は対象外、「API連携機能が登録されている既製SaaSを導入する」は対象という整理です。

Q2. ものづくり補助金でAIシステムの開発費はどこまで対象になりますか?

外注先に委託したシステム構築費(設計・プログラミング・テスト)は補助対象です。ただし自社エンジニアの人件費は対象外。また、学習用データセットの購入費はシステム構築費に含まれるかどうか事務局への事前確認が必要です。クラウド上でのモデル学習費用(GPUコスト等)はシステム構築費と機械装置費の判定が難しいため、公募要領の対象経費区分と照合してください。

Q3. Go-Tech事業で一人社長のAI研究は申請できますか?

Go-Tech事業はコンソーシアム申請が基本で、中小企業が幹事企業となり大学・公設試などの「A類機関」が少なくとも1機関参加する構成が必要です。一人社長でも、大学・公設試との共同研究体制を組んで申請要件を満たせれば申請可能です。ただし共同研究者の登録やe-Radの整備に時間がかかるため、公募開始の2〜3ヵ月前から連携先との調整を始める必要があります。

Q4. 新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募の締切はいつですか?

当初2026年9月30日でしたが、2026年7月17日付で2026年10月30日に延長されました。申請受付開始は2026年8月31日です。TRL段階が6以上で事業化シナリオが描けている場合、今から申請書の数値設計に着手できます。

Q5. AIスタートアップがGo-Tech事業とものづくり補助金を同時申請できますか?

同一の研究テーマ・経費への重複申請は禁止されています。ただし、TRL段階が明確に異なる技術テーマであれば別途申請は可能です。経費の二重計上はe-Rad・補助金ポータルの審査段階で発覚するため、テーマの切り分けと経費配分表の制度横断管理が不可欠です。


まとめ

AI研究開発の補助金選びは、制度の名前ではなく「自社の技術がどのTRL段階にあるか」と「開発か導入か」の2軸で判断するのが鉄則です。

  • 既製AIツールの導入 → デジタル化・AI導入補助金(登録ITツール経由)
  • TRL 4〜6の研究開発 → Go-Tech事業(来年度準備)
  • TRL 6以上の新製品開発・事業化 → 新事業進出・ものづくり補助金 革新的新製品枠(第1回受付:8/31〜10/30)

GビズIDプライムとe-Radは制度が決まる前から両方取得しておくのが鉄則です。登録は無料・ペナルティなし。e-Radは登録に10営業日以上かかるので、今すぐ動いてください。


参考文献・公式情報

  1. 中小企業基盤整備機構「新事業進出・ものづくり商業サービス補助事業 第1回公募要領」(2026年6月29日公開、2026年7月17日締切延長) – 補助金活用ナビ(中小機構)
  2. 中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026 公募要領」(2026年3月公開) – 中小企業庁公式サイト
  3. 中小機構「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)令和8年度公募情報」(2026年4月17日締切)– 補助金活用ナビ(中小機構)
  4. 内閣府・NEDO「SBIR推進プログラム 2026年度連結型公募情報」